見出し画像

終点の死体


「もうそろそろ終点だね。」
「うん。」
死体が行く列にも並んだ倉庫。その中に私たちは歩いていた。少し先を君が、少し後を私が。室内は肉の腐敗臭と、埃っぽい匂い。朝の日差しが二階の窓から、差し込んできている。横たわっている死体の顔を判別することは難しい。もはや、もともと生きていた人間かどうかもわからないほどだった。私は、首にかけられているライカで君の後ろ姿を一枚フィルムに収めた。きっと現像されることはないけれど。少しでも、何か名残のようなものを残していけたらと思ってシャッターを切った。
手が震えている。君はそれに気づくと優しく握り返してくれた。
私たちは、二人で寄り添いながら死体の隣に横になった。
ゆっくりと足元から、死の予兆が現れて私たちを包んだ。
二人はこうして死体になるのだ。
遠くの方で電子音が聞こえる。何かのメロディーのように。
雪が降っていたらどんなに綺麗だっただろうか。私と君は、雪に覆われてやがてゆっくりと白色に埋もれてしまう。そんな雪があったら。
微睡みが、微かに現れる。私たちは目を閉じる。

次に目が覚めた時、君はすでに死体になっていて私だけが何事もなかったかのように起き上がった。薄暗く静かな倉庫内。どうやら私はまだこの世界に一人取り残されてしまったようだ。死体が私を嘲笑う。君の死体を確かめる。腐り切ってはいない。つい先程、息絶えてしまったみたいだ。その顔は、まるで日曜日の午後に昼寝をしているみたいに安らかに。もしかしたら、目をこすりながら起きてきて私の名前を呼ぶのではないかと思うほどだったが。実際そんなことは起こるはずもなかった。彼はもう戻ってこない。

私は倉庫を出ると、雪の降り積もった丘をゆっくりと降りていった。
靴下に入る雪が冷たい。私はその場に倒れて、大きな声で笑った。

その倉庫にはそれ以来行っていない。
次に行くときは、必ず君の隣で寝ようと思う。

いいなと思ったら応援しよう!

とっと
映画を観に行きます。