とっと

空想が好きです!

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最近の記事

カエル、ナツメヤシ、冷蔵庫。

・カエル ・ナツメヤシ ・冷蔵庫 彼女がウシガエルを拾ってきたのは、まだセミが鳴り止んでいない夏の終わりくらいのことだった。そんなものを拾ってきて一体何に使うのかと問いただしたところ。彼女はなんの迷いもなく。 「食べるのよ。」と一言だけ言った。 そして、子供のようにカエルを抱えて庭へと消えてしまった。 翌朝、私はホームセンターに水槽を買いに行った。 スイソウの中にウシガエルを入れると、彼は特に変わった様子もなくその喉を心臓の呼吸と同じくらいの速度で喉を膨らませ萎ませた。

    • 2019.05.26 鬼火

      源藤吉見七十六歳。中年小太り、ずんぐりとした体格であり口調もゆっくりである。 職業はなんですか? 町内の高校で教師をしていました。ええ、数学の教師です。六十五歳のときに退職しまして、いまは、散歩だけが趣味なおじさんです。妻はいますが、子供はいません。恵まれなかったのです。一度医者にもかかりましたがね。こればっかりは。 あなたが、先日見かけたとおっしゃったものについて詳しく教えてください。 ええ、あれは十二月十日のことだったと思います。いつものように、夕方の散歩道を歩いていたん

      • おふとんのなかのくに

        お布団の中にいると、まるで宇宙を漂っている羊のような気分になるんだ。広いんだよそこは、ほんとうに広いんだ。どこまで進んでも終わりが見えない。ただただ星たちの瞬きが見えるだけさ。 外に出る?外に出る? 君は僕に外に出てこいと言うのかい?太陽がコンクリートを焼き付けている外に出ろと?いやだね。僕はいやだね。 いいじゃないか、君は外で暮らす。僕はお布団の中で暮らすよ。 何も問題なんてないじゃないか。 君は外の方が明るくて広いなんて言うけどさ、お布団の中に潜ったことがほんとうにある

        • ピアノの散歩、パン屋の前。

          「知ってた?ピアノって歩くんだよ。」 「ピアノ?あの楽器のピアノかい?」 「そうよ、それ以外に何があるの。」 「でも、ピアノは歩かないじゃないか。」 「つまらない人ね、それだから面白くないのよ。ピアノは歩くの。あなたが知らないだけ。」 「そうか、じゃあ仮にピアノが歩くとしよう。どこに向かって歩くんだい。」 「パン屋さん。駅前のパン屋さんよ。」 私は駅前のパン屋さんを想像した、二階建てのアパートを改造して一階部分がパン屋さんになっている様子を。そのドアを開けて、ピアノが入ってい

          タバコと栞

          雨が降っている。止みそうにもない霧雨が、冬の重い空とともに落ちてきている。暖房のかかっている図書館の中でも、外の張り詰めた空気を想像することができる。頬を張られたように、指の先が千切れてしまいそうなくらい冷たい空気を。私は文庫本に目を戻す。先程から読み始めたものだ。しかしながら、そこに書いてある文字は私に何も語りかけてこなかった。ただ、意味のない記号の羅列として、読み流していた。ちょうど、ファミレスにかかっているBGMのように。文字は私の意識の隅の方で細く流れていくだけだった

          タバコと栞

          蝋燭の炎を

          蝋燭の炎を見つめていると、その中に私の娘がいるのではないかと思う。三年ほど前に死んでしまった娘が。右に左に揺らめくその炎の先が彼女の私を見つめる目の動きにそっくりなのだ。何かを話しかけてるように煤を出し、吐息に揺れ、暗くなった部屋を仄かに照らしていた。真白の蝋が時間とともに溶けていく、夏に彼女が食べていたアイスクリームみたいに。 部屋の中は暗い、先程電源を全て切ってしまったからだ。スイッチをオフにしてしまったからだ。パチンと。 ここには二つの鼓動している生命がある、私とこの蝋

          蝋燭の炎を

          土の下の羊(短編小説10000文字)

          はじめに こんにちは。ショート・ショートを投稿しているHarです。 この短編小説は昨日のクリスマスイブに書き始めた作品です。 10000文字と長い作品になっています。 皆さん、良いクリスマスをお過ごしください。 本編 1. 英単語帳の隅に赤い血が染みついている。それを見てようやく、唇から血が出ていることに気がついた。バックの中から、ティッシュペーパーを一枚取り出すと、出来るだけ沁みないように唇に当てた。白い繊維状の、パサパサとした味を舌に感じる。雪が降り出しそうなくらい

          土の下の羊(短編小説10000文字)

          ふたご座流星群を見にいきました

          今日は昨日の夜の出来事を書き留めた文章です、追伸は想像。 ふたご座流星群を見に行った。 畑道の真ん中で、一度立ち止まって空を見渡す。 街頭の光が眩しくてよく空が見えないので、コートの袖でそれを隠す。 東とはどの方角だろうか。昔、教科書で暗記した福沢諭吉の天地の書を口で唱える。 天地日月 東西南北 北を背に南に向かいて右と左を指せば、左は東、右は西。 どうやら、私は北すらわからないらしい。ため息と一緒に白い息を吐いて、とりあえず明るい星が集まっているところを見上げた。 オ

          ふたご座流星群を見にいきました

          終点の死体

          「もうそろそろ終点だね。」 「うん。」 死体が行く列にも並んだ倉庫。その中に私たちは歩いていた。少し先を君が、少し後を私が。室内は肉の腐敗臭と、埃っぽい匂い。朝の日差しが二階の窓から、差し込んできている。横たわっている死体の顔を判別することは難しい。もはや、もともと生きていた人間かどうかもわからないほどだった。私は、首にかけられているライカで君の後ろ姿を一枚フィルムに収めた。きっと現像されることはないけれど。少しでも、何か名残のようなものを残していけたらと思ってシャッターを切

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          試験管と目玉

          試験管の中に入っている誰かの目玉が私の方を向いている。どうしても、心を見透かしてみたいらしい。私はどうせ目玉だからと、いいよと了解をすると、目玉は何も言わずに私の心を覗いた。覗いたからといって、彼が何かできるわけではない。なぜなら彼は目玉だけの存在であったし、口が付いているからそれを外に向けて発信することもない。彼はただ、彼はといっても目玉だけであるが、私の心の中を見ているだけだ。私が日常生活で特に困ることは何もない。 この目玉はこの前、私の息子が亡くなった際の葬式を終えた

          試験管と目玉

          冬空の習作

          冬空は世界の終わりを知らせているように、冷たく暗い雲で覆われていた。外に一歩踏み出しただけで、体全体が凍りつく。手の先から、体の芯の方まで寒さで覆われて、暖炉が恋しくなるような季節。口にする息が、白くなりその太陽の光すら見えない空に吸い込まれて消えていった。 「きっと、君は私のことを忘れないと思うの。」 それは、とても暗示的な言葉だった。まるで神様が僕の耳元で囁いているような文章だった。もしかしたら聖書のようにまとめて後世まで語り継がなくてはならないかと思ったほどだ。彼女

          冬空の習作

          イルカとフグの毒、あるいはラジオ。

          1.イルカはフグの毒でハイになるらしい。 2.ラジオ番組が流れる室内は少し薄暗くて、埃が舞っている。意識が朦朧としている。まるで深い霧の中に入り込んでしまったみたいに。砂嵐の中を歩いているみたいに。だんだんと自分の体の形がわかるようになってきて、床に寝転がっているのだということがわかった。いや、倒れているという表現の方が適切なのかもしれない。体は動かない。動かすことができないし、力も入らない。そして、窓が少しだけ開いているらしく、冷蔵庫の中のような冷たい風が入り込んできた。

          イルカとフグの毒、あるいはラジオ。

          歪な感情

          体全体がひねり曲がって、折れ砕けているのと同様。 感情は深く黒く渦巻いている。 彼を見ていることは一種の舞台作品を見ているみたいだ。 もがき苦しんでいる。 その真っ赤に染まった目。 今にも内臓を吐いてしまいそうな口。 逆立った髪の毛。 あなたはあなたのままでいいんだよなんてわかりきったことだけれども、まだそんなことばをいわれたことのないあなたのためにいまここでいおう。あなたはあなたのままでいいんだよ。 彼は私の方を見た。 正確に言えば彼の内側に存在する何かが私という存在を

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          睡眠時浮遊症候群

          1. 夜眠っている時に、体が重力に逆らって浮遊してしまうと言われる病気。一般に五歳から二十歳の年齢で発病が確認されている。原因は殆どのケースで不明であることが多いいが、わずかなケースで人付き合いが少ない少年少女の割合が多いいと数値が出ている。この病気は十年前に最初の発病者が現れてから、徐々にその数を伸ばしてはいるが先行例はあまり多いいとは言えなかった。現在の日本でも数十人くらいと言ったところだろうか。治療方法はなく自然的に治るのを待つしかない。そうは言っても、体が空中に浮かん

          睡眠時浮遊症候群

          田園風景、バスの中から。

          1. (A) 私の伝えたい想いは、入道雲の一番上に置いてきてしまった。 田舎の中の田舎と言われているこの村には、辺りを見渡すと田園風景と、山しかなかった。コンビニエンスストアなんて、テレビの中の産物だと思っていたし、そのテレビでさえも村の人たちが集まる公民館に一台しか置いていなかった。そうして、私は山の上にある小さな中学校に通っていた。全校生徒は七十人くらい、みんなご近所さんで小学校からずっと一緒のメンバーだ。馴染みが深いというか、もはや家族見たいというか。噂話は、母親を通

          田園風景、バスの中から。

          鈍い期待、淡い想い。

          1. 駅構内には誰もいなかった。 人類の残骸だと言われているこの建造物達は、その主人の消滅を元に苔がむし、草木に侵食され、鉄は腐食し、干からびていた。数百年前に人類が突然消えてから、長い時間が経った。その時間という流れの中に置き去りにされたオブジェクトとして、一つこの駅があるのだった。ボロボロに穴の空いたプラスチックの三つ並んだ椅子。様々な液体を販売していたとされる、黒い直方体の箱。そして、少し下を見下ろすと鉄骨と木材でできている道が横たわっていた。何のためにこれらが作られた

          鈍い期待、淡い想い。