みつばちに魅了された話
ハチってすごいね!
この言葉をどれほど口にしただろう。
「刺す虫」の印象が強すぎて、僕のなかではヤバイヤツというイメージでしかなかった蜂。完全にワルモノだった。
しかし、蜂を愛する人がいる。漢方のことを僕らが大好きなように、蜂に対して深い知識を持ち、愛してやまない人たちがいる。
そんな人に出会えたのは、ラッキーなことだった。
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そもそもの始まりは、6年ほど前に辞めた製薬会社で同僚だったSさんからの一通のメッセージ。脚色して要約してするとこんな感じだ。
Sさん「イマケンさん、お久しぶりです!近いうちに飲みいきませんか?」
イマケン「Sさん、ご無沙汰してます!急にどうしました?なにかありました?」
Sさん「実はちょっと相談がありまして。友達のことなんですけどね。」
(もしかして深刻な病気なのか。おそらく漢方関係の相談だろうな。うん、会うなら早いほうがいい。)
イマケン「いつでも時間作りますよ。僕にできることなら、全力で力になります!」
こうして6年ぶりに会うことになった。
久しぶりに会ったSさん。少し白髪混じりになっていて、年月が経ったのを感じさせる。心なしか、疲れているようにも見えた。
(やっぱり深刻な話なんだろうか。心配だ。)
心を落ち着かせながら話を聞くと、高校時代の親友が実家を継いで養蜂家になったと。
(うんうん。やっぱり、友人の体調のことだろうな。)
もともとは大学卒業後に青森県のとある都市で、公務員としてずっと働いていて、実家の養蜂業を継ぐために、家族を青森に残して単身で東京に戻ってきたらしい。
(家族を残して、単身か。もしかしたら都内の病院に転院して……)
ん?養蜂?実家を、継ぐ?
病気ちゃうんかい!
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さて。
実のところ、僕に求められているのは、どうやら漢方相談的なものではないなと、うすうす感じてはいたが、なんかおもしろそうな話だと、僕のワクワクセンサーが反応していたのだ。
東京で養蜂なんてできるんだ…
Sさんは続けて、自分は商売をやったことがないので、気の利いたアドバイスができないと。そんな時に、製薬会社をさくっと辞めて、漢方の世界へ飛び込んだ僕のことを思い出してくれたらしい。
後日、Sさんと養蜂家のコウさん、僕というメンバーで顔合わせという名の飲み会を開いた。
獣医師であるコウさんの話はとてもおもしろく、キラキラしていて、困っている様子なんて微塵も感じさせない。ミツバチについて知らないことのオンパレードだった。
ミツバチの生態から、ハチミツのこと、名前だけでよく知らなかったローヤルゼリーやプロポリスのこと、ミツロウや花粉だんごなどと合わせて養蜂産品と呼ぶこと。
そして、養蜂産品が僕たちに与えてくれる価値は、ミツバチ全体がもたらす恵みを考えればほんのわすかであるということ。
僕はミツバチが自然界に与える役割の大きさに感銘を受けて、いつのまにか話に魅了されていた。何よりコウさんの話の端々にミツバチへの愛が散りばめられていて、聞いていて心地よかった。
「とりあえず、ハチミツ搾りに来ませんか!」
ハチミツって取るんじゃなくて搾るんだ、そう思いながら、ぜひよろしくお願いします!と答え、ハチミツ搾り体験に参加することが決まった。
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当日。快晴。
シャツの一番上のボタンまで締め、万全の体制を整える。(やっぱり刺されたらこわい涙)
コウさん。僕に比べてだいぶ薄着。この時点でミツバチはブンブン飛んでいて、羽音に心がひるむ。コウさんは余裕の笑み。
ミツバチの巣箱。テレビでよく見るやつ。この箱ひとつがミツバチのひと家族。二階建てになっていて、この中に女王蜂は一匹だけいる。
もってみる?と言われて持ち上げたら死ぬほど重かった。30キロくらいはありそう。ハチミツがたっぷり入っていると重くなると。
煙を炊いて巣箱にかける。これでミツバチがおとなしくなるそうだ。
巣箱を開けると、めちゃいる!ハチいる!たくさんいる!この1枚でハチミツが1リットルくらい取れるらしい。
この子が女王蜂のお姉さま。違いわかる?
こんなふうにフタをされているのが、ハチミツがたっぷり入っているサイン。
ミツバチと戯れることによって、恐さが自然となくなり、なんだかかわいらしく思えてきた。
もっと攻撃的に襲ってくるのかと思いきや、そんなことはなく、ミツバチは自分の仕事を淡々とやっていて、自分たちの食料を確保するために少しずつ少しずつ貯めてきたハチミツを取られても別に怒らないんだ、とコウさんは言っていた。
ミツバチ達よ、優しすぎるじゃねーか!
ただ、ハチをつぶしたり、殺したりするとかなり怒るらしい。仲間意識というか、家族意識が強いようだ。
ミツバチ達に感謝して、蜂場をあとにした。
次はコウさんのアジトでハチミツ搾りだ。
ハチの巣箱から持ってきた板。この板の一枚一枚にハチの巣ができている。
まずは、フタをはがす作業。丁寧に行う。
はがしたフタの部分を口に入れてかんでみると、ハチミツガムになる。手にぬって水で流すと、天然のハチミツ石けんにもなる。
遠心分離機にかけてから、ハチミツを濾す。
なんか浴びたくなってくるほどの量だ。
濾したものをビンに詰めて、できあがり。
そして、ハチミツのモヒート風炭酸割りでカンパイした。ぜいたくにもハチミツをヒタヒタに垂らしたおつまみも用意してくれた。
貴重な体験をさせてくれた、コウさんにお世話になりっぱなしの感謝の絶えない1日だった。
コウさん、僕はこれからの人生、ミツバチ達のために捧げます!
本当にありがとうございました!
ということで、漢方漬けで毎日を過ごしていた僕の中に、ミツバチのことを伝えたい、という想いがジワジワと湧きあがってきたのでした。