八千草さんにお電話
お芝居の制作の仕事をしていたある時、VIP招待者の名簿を見ながら、出席、欠席の確認をしていた。
名簿に載っているお名前は、それはそれはさまざまな業界の錚々たる面々、
そしてその方々の所属事務所や会社はもちろん、プライベートな連絡先など、見ているだけでドキドキするもの。
ある時、制作プロデューサーから
「かなちゃん、八千草さんに電話して確認してくれる?」と言われた。
私「八千草さんって、あのですか?」
プ「うん、八千草薫さんね。」
私「わかりました、事務所ですね。」
プ「ううん、その名簿のところに電話したら、ご本人がお出になると思うよ〜。」
私「え!マネージャーさんとかじゃなくてですか⁈」
プ「そうだよ〜貴重だよ!まあ、違うこともあるかもしれないけどね。」
私「え、、!そんな、八千草薫さん、ご本人とお話しだなんて、、」
八千草薫さんといえば日本を代表する大女優さんで
私からすると雲の上の人。
そんな方に私が直接お話しするなんて、、という気持ちもあれば、私が緊張しながら電話しているのをプロデューサーの人に見られているのがなんか恥ずかしいという気持ちがあった気がする。
とはいえ、仕事。
恥ずかしがっている場合ではない。
そもそももう倉本聰という大先生と
毎日のように話しているのに、今さらびびっている場合ではない。
そして別に個人的な電話でもないのに、私が誰かなんぞ気にもされないだろうに、そしてそもそも私はそういう貴重なチャンスは喜んで乗りたいタイプなのに
いま思えば何をそんなに恥ずかしがったのかわからないけれど緊張します、と言ってウジウジしていたら
笑いながら、プロデューサーがかけてくださり
「八千草さんだったよ〜お電話越しでもとっても物腰の柔らかい素敵な方だよ」と。
はぁ、、せっかくのチャンスを逃してしまった、、
しかしまたチャンスが訪れた。
そのご招待の芝居の上演日。
私が新国立劇場のホワイエのところで仕事をしていたら
「こんにちは、ご招待ありがとうございます。」
と、
お付きの方と一緒に現れたその方は
とっても華奢なのに、そして見るからに物腰柔らかな優しさに溢れた出立ちなのに、全く出しゃばってなく、気品に溢れているのに
パッと優しい光で周りが明るくなるような存在感。
つい目がいく、見てしまう、光が中から出ているようなその方が八千草薫さん。
今でもとてもよく覚えているのが
その日私がヒールを履いていたからか、
私を少し見上げるような視線で、あのテレビの中と同じ美しく、温かい笑顔で
「あら、チケットどこいっちゃったのかしら!」と。
先にいただいていたので、
「大丈夫です、先程こちら、いただきました!」と答えると
「あらやだ、もうお渡ししてるのに私ったら」と
とっても可愛く笑っていらして、
全然、全く、本当に全く気取ってるなんて言葉はこの人の辞書の中にないんじゃないかと思うくらい普通の一般の方のトーンで、温かくて気品に満ち溢れて楽しくて可愛くて、
前からとてもファンだったけれど、この時、うっとりしたのを覚えています。
これは誰でも好きになっちゃうなぁと、素敵で仕方ない人だと思ったのを覚えています。
八千草さんに生でお会いできたことは、ほんの一瞬だけど私にとってとても大きな財産になっています。
人の心を掴むテクニックとか、そもそも、掴む、とかじゃない気がする。
生き方、考え方、人への向き合い方、生き様、全部正直に自分を作るなぁと思います。
こういう素敵な人との出会いは、どんな小手先のものも敵わない説得力があります。
それから八千草さんは、いつか私もこんな風になりたいな、と思う人の1人です。
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