映画「世界は僕らに気づかない/Angry son」映画館で居心地悪いがなくなる日
□世界は僕らに気づかない/Angry Son
(2023年1月より順次公開)
大阪アジアン映画祭で"来るべき才能賞"を受賞。
フィリピン人の母親レイナと暮らしている高校生・純悟(じゅんご)の日々を描く。
フィリピン国籍、母子家庭、同性愛...
そんな言葉からはタイトな結末しか想像できないが、この映画はもうひとつ先の風景を見せてくれる。
我々が実現したい理想を純悟の晴れやかな笑顔で示してくれる。
脚本・監督:飯塚花笑(『フタリノセカイ』)
出演:堀家一希(『東京リベンジャーズ』)
ガウ(スコットランドとフィリピンのハーフ)
□”フィリピンパブの子ども”
母レイナがタガログ語だろうか
歌いながら化粧をしている。
赤い口紅と赤いマニキュア。
純悟は憎々し気な表情で
カメラを構えて母を撮ろうとしている。
ここに純悟の愛憎がある。
母の姿を写真におさめようとする愛と
パブで働く母に抱く苦々しい気持ち。
安普請のアパート
フィリピンへの送金
電気料金の未納
漢字が読めない母
「ガイジン」と揶揄されること
”子どもは親を選べない”と
純悟は心の中でつぶやく。
同級生で恋人の優助からは
将来のことをきちんと考える
つもりがないなら別れると言われた。
”フィリピンパブの子ども”である自分は
優助との未来を描く自信を持てない。
アパートにはささやかな祭壇。
ちょっと陳腐なマリア像と十字架。
どうしたってハードな純悟の日々に
神様は微笑むのか。
□当たり前の光景に
公開規模は大きくないが
いま作られるべき映画だと強く思った。
セクシャリティとアイデンティティの
両方で苦闘する少年の姿は刮目に値する。
純悟は自分の境涯に苦しみながらも
ゴツゴツと壁に体をぶつけるようにして
前に進もうとする。
悲しいとき泣くのではなく
怒ったように仏頂面になるのは
まさにAngry Sonだ。
母に対して「あんたの子だからどうせ幸せになれないよ」と叫んでしまう日もあった。
「フィリピンのオカマ野郎」と言われて、ひとりになってから涙が止まらなかった。
いつものことだが映画館の客席で
安穏と座っていることが居心地悪い。
何の咎もない少年を虐げるこの社会を
呪いたい気持ちになる。
しかしこの作品は
純悟の未来に光をあてる。
それも絵空事ではなく
現実感あるかたちでだ。
ささやかだが彼に寄り添おうとする大人がいた。
母に自分の寂しさを吐露することができた。
同性愛に理解を示すアセクシャルの女子と話せた。
絵にもならない倉庫裏で淳悟と優助が
抱き合うショットが美しかった。
純悟の辛苦が踊り場に出たとき
この映画はラストシーンを迎える。
万雷の拍手の中で純悟が見せる笑顔。
たくさん映画を見させてもらってきたが
純悟のようなセクシャリティでは
初めて目にするシチュエーションだった。
まばゆく貴重な光景を見せてもらった。
しかしこのラストは監督のメッセージだと思う。
”こんな光景を当たり前にしていこう”と。
異なる文化、異なる国籍、異なる心。
異なることない他者への想像力。
この作品の気概を確かに受け取った。
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