映画「ベイビー・ブローカー」 水の存在
□第1回福岡コ・クリエイティブ映画祭a.NAKASU
3月19日に福岡で開かれた映画祭で是枝裕和監督を迎えてのオープニング上映。
□観覧車のシーン
2022年の封切り以来の鑑賞であったが、やはり観覧車のシーンの美しさは息を止めて見入ってしまう。
それはマジックアワーのような黄昏時の美しさや、観覧車の頂点と劇的クライマックスを重ねる演出的美しさでもあるが、なにより人の心の美しさが結晶のように画面に映っていることにある。
ドンス(カン・ドンウォン)の大きな手がソヨン(IU)の悲しみをかばうように彼女の顔を覆う。
子どもは自分を捨てた私をきっとゆるさないと言ったソヨンに、同じく母を知らないドンスは言う。
「オレが代わりに、ゆるすよ」
これまで一度も頼ることができなかったソヨンが外されそうになったドンスの手を強く抑え、このままでと初めて意思表示する。
ドンスの手がかばうからソヨンはいま泣いてもいい。
観覧車が徐々に地上に近づいていく。
それとともに美しい時間も現実に帰っていく。
□是枝監督への質問
上映後、是枝監督が登壇。
新作「怪物」の初号試写に向けて編集大詰めのところを福岡まで駆けつけてくれた。
幸運にも質問する機会をいただくことができた。
「冒頭でのソヨンが教会へ向かうシーン、ペ・ドゥナが『マグノリア』の音楽を耳にしながら涙するシーンなどでたびたび雨が印象的に使われていますが、映画の中で雨はどういう存在ですか」
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この映画は水ではじまり、水でおわるようなイメージがあった。
水は”生命”を象徴しているのかなと。
最後は噴水の前でみんなが集まったり、港や海のシーンがあったり、洗車機のところがあったり。
子どもの命を描くのに水を映したかった。
最初の雨のシーンでは『パラサイト』の撮影監督でもあるホン・ギョンピョさんが張り切って、リハーサルから放水車の水を使い切って追加しなければいけないほどだった。
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是枝監督が答えてくれていることが嬉しくて正確には覚えていないが、このような内容を話してくださった。
刑事役のぺ・ドゥナを追っていると物語が一本タテに通っていくし、いつも側に水があることに気づく。
冒頭の豪雨で「捨てるなら産むなよ」と暗い瞳でつぶやき、雨のしずくで車窓にはりついた花弁を憂鬱そうに取り除き、中盤で雨の降る夜に夫との電話で涙をこぼし、最後は波打ち際に笑顔で裾を濡らして走り出していく。
本当は、監督はこういう血の繋がらない家族をずっと描いているなかで、実社会における核家族や地域コミュニティについて具体的な考えを持っているのかお聞きしたかったが、この場で即答いただける問いではないと思いとどまった。
他の方の質問にも丁寧に、穏やかに寄り添って答えている監督の佇まいが印象的だった。
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