映画「別れる決心」 おっぱいのひとつも出さないで
□「別れる決心」(2023年2月公開)
カンヌ映画祭監督賞受賞
アカデミー賞国際長編部門韓国代表
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュンと、被害者の妻ソレ。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。
脚本・監督 パク・チャヌク
(『オールド・ボーイ』『お嬢さん』)
出演 タン・ウェイ (『ラスト、コーション』)
パク・ヘイル (『殺人の追憶』)
□無料案内所を通らない方がいい
鬼才パク・チャヌクが暴力とエロスを
プラトニックと妄想に持ち替えて
観客の官能を崩壊させるサスペンス。
誰が殺したかより、ふたりの愛は
どこに向かっているのかに翻弄される。
見せない、脱がない、抱き合わない。
それでも魅かれ合うふたりの
震える気持ちが伝わってくる。
見つめ合うだけでエッチ。
距離間がけしからんほど猥褻。
リップとハンドのクリームがトイ。
手錠なんてもちろんプレイ。
自分の息を聞かせて寝かしつける。
寝られるか。
むしろ目とかその他がとてもウェイクアップ。
鑑賞後は無料案内所を通って帰らない方がいい。
これ書いてるだけで下半身が重だるくなってきた。
□腕のすきまからコンニチハ構図
構図、色彩、カメラワーク。
今作も全ショット豊饒。
まさに魔性の映像美といったところだが
監督は実際若いとき美術史学者を
目指していたそうだ。
鏡、窓、スマホのレンズ、水槽、モニター、瞳。
特に光るものや透けるものは
監督の映像美の餌食になってしまう。
スマホの内側レンズ越しから
世界を見せる撮影。
小悪魔フェイスがヘジュンさんの
腕の隙間からコンニチハ構図。
天才監督はいまだに映像表現の
地平を切り拓き続ける。
□山と海が溶け合い
本作は海と山が重要なモチーフであり
メインビジュアルも山と海が描かれている
映画も山ではじまり、海で終る。
ソレは”知者の好む海”
へジュンは”仁者が好む山”
そう単純に区別できないところもおもしろい。
ソレの服は青(海)にも緑(山)にも見えるし
彼女の部屋の壁紙も海にも山にも見える。
ファムファタールは正体を明かさない。
悪く、美しく、清潔で、淫ら。
だから男は”完全に崩壊する”。
ソレはそびえ立つ山が見下ろす
荒涼たる海に行き着く。
彼女がつくった砂山が
満潮の海にのみ込まれる。
山と海が溶け合い
あなたの未解決事件が完成する。
憐れへジュンは愛する人の上で靴紐を結び
その名を霧の中で永遠に呼び続ける
ついに、単一の、あなたの心臓を奪ったのだ。
おっぱいのひとつも出さないが
暴力的で残酷にエロティックな
パク・チャヌクの世界がここに完結。
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