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映画「ほどけそうな、息」 守らなければほどけてしまう

□「ほどけそうな、息」(2022年8月より順次公開)

カスミ(小野花梨)は
児童相談所の2年目職員。

子どもを守るために奔走する姿と
責務の重さで深く息を吐く日常を描く。

監督は社会問題と絡めた作品を
発表している小澤雅人。

ドキュメンタリー作品も手掛けているからか
フェアな語り口で好感がもてる。
映像や演出にもゆるみがない。

主演の小野花梨は子役から17年のキャリア。
観客の心にひっかかる印象的な芝居。
声にも特徴がある。出演作多数。

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□カスミの仕事と日常

荒い息遣いが聞こえてくる。
それは若い女性が緊張している息遣いだと
キャメラの移動でわかってくる。

診察室。
彼女のほかには、母親らしき女性と赤ちゃん、
医師と看護婦、それから何人かの関係者がいる。

彼女は母親の不意をつき
赤ちゃんを抱え部屋を飛び出す。
叫ぶ母親を制止する関係者たち。
必死に走る。さらなる彼女の息遣い。

映画冒頭から釘付けにさせられた。
児童相談所のカスミが他の職員と連携して
ネグレクトの母親からやむを得ず
子どもを保護していたのだ。

カスミの仕事は
壊れた家庭のなかにいる
傷ついた子どもを助けること。

帰らない父親
アルコールに沈む母親
汚れてしまった部屋

”結婚も出産もしていないのになにがわかる”

カスミは荒れた保護者にそう謗られながらも、
子どもがどうしたら家に帰れるか悩む。

「あまり無理をするな」と言ってくれる恋人に
仕事のことをうまく話せなくなってきている。

今日はあれでよかったのだろうか。
帰宅しても仕事が頭から離れない。
簡易な食事、テレビから流れる笑い声、
それを見る余裕がカスミには今ない。


□共感できる辛苦、信じられる希望

44分間の映画で何ができるんだろうと思ったが
冒頭のから引き込まれ、カスミに浸った。

児童相談所での仕事や親たちの描き方が
取材に基づいていて緻密だ。

カスミの恋人や母親との
日常も描いていて実在感がある。

児童相談所は、育児放棄や家庭崩壊という
重い課題に取り組んでおり
かつ批判の矢面に立つことも多い。

しかし映画は、その労苦を煽るようなことはせず、
過剰にエモーショナルな描き方もしていない。

フラットに描いていることが奏功している。

厳しい現実ばかり見せられるとしんどいが
小野花梨の華やかさがうまく緩衝材になっている。

「ほどけそうな、息」というタイトル。

保護しなければ絶えてしまう子どもの命をあらわしているし、さらにカスミがもう呼吸もできないほど仕事に専心している様子をあらわしている。

冒頭はカスミの緊張した息遣いではじまり、
ラストはなんとか母親と子どもの力になれて
ひとり安堵の息を深くついたところで終わる。

小澤雅人監督は児童福祉司に
理解と敬意を寄せながら
フェアな視座で人物たちを撮影している。

結果、観客としてカスミの辛苦に共感できたし、
彼女が最後に抱いた小さな希望を
客席からも信じることができた。

こういう監督に作品を創る機会が
たくさんあることを願う。


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