映画「茶飲友達」 家族と孤独という妄執
□『茶飲友達』(2023年2月より順次公開)
渋谷ユーロスペース1館ではじまった本作は、50以上の劇場公開へと拡大している。
福岡出身の外山文治監督の舞台挨拶があった地元上映は満席。
小説家になりたかったことや、天神のレンタルビデオでバイトしていたエピソードが披露される。
短編映画『此の岸のこと』が「モナコ国際映画祭 2011」で短編部門・最優秀作品賞をはじめとする 5 冠を達成。
初の長編作品『燦燦-さんさん-』が「モントリール世界映画祭 2014」より正式招待を受ける。
□売春クラブは共同体になり得るのか
高齢者向け売春クラブ「茶飲友達(ティーフレンド)」。
約1000人の男性会員と数十人の女性キャスト。
これを運営するのは同世代の若いスタッフを率いるマナ(岡本玲)。
孤独と性が解消される男性会員、働き甲斐と報酬を得るキャストとスタッフ。
まるでスタートアップの経営者のようなマナは、この共同体を「マナのファミリー」と公言し、崩壊した自分の家族をここで取り戻すかのように力を注ぐ。
□マナのファミリー
本作の中心は、高齢者売春よりもマナの孤独にある。
マナは高齢者の性を社会的課題と設定し、セーフティネットだのフロンティアだのと饒舌に語る。
しかしマナの見立ては脆弱だ。
ビジネスとしてのリスクヘッジや人間関係の危うさへの先回りがない。
メンバーとのつながりは、ファミリーというマナの強烈な観念と金銭報酬で成り立っている。
高齢者やスタッフに心を砕くが、それが必ず報われると健気に信じているのが痛々しい。
警察の摘発でも、ヤクザの圧力でも、内部崩壊でも、早晩瓦解すること必至な共同体にマナは特別な策を講じていない。
ここはマナのユートピアだ。
そして当然ユートピアには終わりがくる。
□家族と孤独という妄執
「マナのファミリー」はマナを残して逃げ去った。
マナは取り調べで「正しいことが幸せとは限らない」と強弁した。
警察官は「自分の寂しさを他人の孤独で埋めただけだ」とマナに反論した。
窓からさす光がマナの髪をいっそう茶色くする。
マナは「家族ってなに」とつぶやく。
劇中で「家族」と「孤独」というビックワードを振りかざしていたマナをずっと鼻白んだ思いで観ていた。
マナの正論にも、警官の正論にも心は動かなかった。
しかし映画ラストで迷いと屈辱の底に落ちたマナ。そんな彼女には興味がある。
家族と孤独という妄執にもし嫌気がさしたなら、彼女と話をしてみたい。
心当たりもあるし、気持ちはわかるから。