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映画「14歳の栞」 いびつな美しい桜たち


□『14歳の栞』

2022年3月公開作品が、渋谷パルコなどで全国順次再上映。 

1年ぶりの鑑賞で2年6組の35人と再会する。

誤解を恐れずに言うならば、何も起きない中学2年生たちの風景。

しかし彼らの内部は激しくうごめいている。

一般の生徒たちを長期撮影したドキュメントゆえに配信やパッケージ化の予定はない。

□「自分のことは嫌いです」

「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」はチャップリンの言葉。

「中学2年は遠くから見るとサルだが、近くで見ると哲学者だ」とこの映画から思う。

子どもと大人が混在したアンビバレントな存在。 

いささかグロテスクだが孵化の途中であけてしまった鳥の卵を想起する。

それくらい彼らは中途半端な自分に自分自身が壊されないよう日々を耐えている。

「自分のことは嫌いです」
「サッカーは好きだけどプロはムリだと思う」
「たぶん春日部市の公務員」
「(人間関係を)リセットしたい」
「(教室に行かない理由は)言いたくないです」
「はやく大人になりたいです」
「ずっと赤ちゃんのままがよかった」

インタビューのときの怯えたような、しかしこちらを見透かすような瞳。

成長期のいびつな体型
揺らぐ不安定な声質
なんだかキマらない髪型

□可能性と不可能性にあふれる

子どもでも大人でもない彼らをなんと形容していいのか。

思春期という短絡的な言葉で複雑な彼らを呼ぶことは失礼な気がする。

すでに強烈な自我が芽生え始めているのに同じ制服を着せて、同じ時間割で、グレーの校舎に閉じ込めて生活させている。

学校に来られなくなる子がいても不思議ではない。

むしろこれだけの子たちがなんとか来ていることが涙ぐましい。

無邪気な夢は相対的な評価でとどめを刺された。
なにかに一生懸命打ち込む姿は大人を安心させるが
彼らにマイクを向けるとすでに絶望している。

「高校まではやるけど、もうダメだと思う」

性愛にも苦しんでいるのだろう。
だから好きとか嫌いとか下ネタには敏感だ。

孤独の恐怖を知っているから友人との距離が不自然なほど近く、怯えたようにけたたましく群れたがる。

これからの人生は彼らを祝うのか、呪うのか。

人間として美しい瞬間がきっとあるだろう。
ドロドロのさもしい姿を晒すこともあるだろう。

35人は人間の源流。
可能性と不可能性にあふれる。
いびつな美しい桜たちが舞う。


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