【お薦めの一冊】 資産運用のスタートでつまずかない為に / 「臆病者のための億万長者入門」 橘玲
今まで多くの本を読んできました。
その中には、私の人生に良い影響を与えてくれた本が沢山あります。
そんな本の感想を書き留めておくことで、私自身の備忘のためにも、また、これを読んで下さった方の本選びにも、少しでもお役に立てればと思っています。
1.資産運用のスタートとなる一冊
本書は、以下で紹介した「臆病者のための株入門」の続編といえる著書です。
前著「臆病者のための株入門」は、株式投資を利用した資産運用についての解説がメインでしたが、本書では、より広く資産運用全般についての解説がなされています。
本書も、前著と同様に、資産運用の初心者に向けての一冊といえ、保守的な資産運用を解説したものです。
この保守的な資産運用とは、要すれば、一か八かで大金持ちになるか一文無しになるかといった資産運用ではなく、人生における経済的リスクを最小限に抑える資産運用です。
そのため、本書には、いかに大儲けするかといった投資手法は紹介されていません。
むしろ、儲かる方法よりも、どのようにして損をしないかに重点が置かれています。
そのため、とにかく資産運用を早く始めて大儲けしたいといった方には期待外れの内容かもしれません。
しかし、どのようなスポーツでも、相手を攻めて点を取ることが重要である一方、いかに守りを固めて点を取られないかも同様に大切です。
そのため、本書を基礎・スタートにして、まずは保守的な資産運用を学び、その上で、個人の資産状況や許容できるリスクに応じて、積極的な資産運用を考えていけば良いはずです。
そういった意味で、本書は資産運用のスタートのための一冊といえます。
2.億万長者になる方法
皆さんは、「億万長者(総資産1億円)になるための方法」と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。
・株式投資で何十倍にもなる株を買う。
・FXで高いレバレッジを掛けて勝負をする。
・投資用不動を買って不労所得を得る。
このような方法が思いつくかもしれません。
もしかすると、
・宝くじで一等を当てる
という方もいるかもしれません。
また、
・起業する
という方も当然いるかと思います。
上記のいずれも、億万長者になる方法としては決して間違いではありません。
しかし、長い人生を俯瞰して私たちの総資産を考えると、億万長者になる方法として、もっと別の姿も見えてきます。
3.忘れがちな人的資本という側面
私たちが生涯に得ることができる金銭的な資産の合計(=総資産)は非常にシンプルな数式で表すことができます。
それは以下の通りです。
総資産=「収入」ー「支出」+「資産運用」
この式における「収入」の代表的な例が、サラリーマンが働いて得る給料や、個人事業主が自ら稼ぐ報酬です。私たちの人的資本(労働)を提供し、その対価として金銭を得ることと言えます。
億万長者になる手段として起業を考えた方は、この「収入」を増やすことを目指したと言えます。
また、この式の「支出」は日々の生活における支払いですから、それを抑えるためには倹約に努めることになります。
そして、この式の「資産運用」が、株式投資や不動産投資やFXなどです。
億万長者になる手段として株や不動産などを考えた方は、この「資産運用」を増やすことを目指したことになります。
ここで、億万長者になるための方法として「収入」に注目してみましょう。
確かに、起業して何十億円も稼げれば良いですが、一方で、一般的な大卒のサラリーマンで生涯賃金の合計は3億円程度と言われています。
そのため、現実的かは別にして、一般的な大卒のサラリーマンであれば、「支出」を2億円以下に抑えれば、総資産は1億円に達することになります。
上記の例は極端と言えますが、一方、私たちが「資産運用」で生涯で3億円を得ることはほぼ不可能です。
そう考えると、いかに私たちの「収入」、つまり人的資本に価値があるかが分かります。
例えば、資産運用で年間200万円の収益を上げることができた場合、それは一般の人にとっては素晴らしい運用成績といえます。
一方、仮に定年後の60歳以降に、年収200万円で1年間多く働くことができれば、それは資産運用で200万円の収益を上げることに匹敵するパフォーマンスなのです。
つまり、健康で長く働くことが、人生における総資産を増やすことに何よりも大切と言えます。
FXや先物取引などで大きなレバレッジをかけ、市場が気になって仕事が手につかなくなったり、夜も眠れなくなって体調を壊してしまうなどもってのほかなのです。
4.資産運用のおけるコスト意識
上記の通り、億万長者のための第一歩は、人的資本をしっかりと運用して、生涯における収入を確保することです。
その上で、ようやく資産運用を考えることになります。
その資産運用における重要な点は以下の3点です。
(1)運用におけるリターンを最大化する
(2)運用におけるリスクを最小化する
(3)運用におけるコストを最小化する
このうち、(1)と(2)については、一般的にはトレードオフの関係にあり、リターンが高いものは、リスクも高くなります。
例えば、FXや先物取引であれば、大きなリターンを得る可能性もありますが、大きな損失を被る可能性もあります。
一方、定期預金であれば、リターンはほとんどありませんが、大きな損失を被る可能性もほぼありません。
このように、(1)と(2)については、自身の許容できるリスクに応じて、資産運用の方法を選択することになります。
一方、私たちが気付かないうちに大きな支払いをしているのが(3)です。
そのため、資産運用を始めるのであれば、まずは資産運用におけるコスト意識を持つ必要があります。
5.コスパの悪い金融商品
資産運用におけるコストですが、以下のような分かりやすい説明があれば、私たちもそのコストを容易に理解することができます
・株式を購入する際は、その代金の3%を手数料として頂きます。
しかし、私たちの周りにある金融商品については、そのコストが容易には分からないようになっているものがたくさんあります。
例えば、以下のものについて、皆さんはそのコストがどれほどか分かるでしょうか。
(1)宝くじ・競馬
(2)生命保険
(3)医療保険
(4)不動産投資
(1)宝くじ・競馬
宝くじや競馬は金融商品とは言えませんが、手始めに、そのコストを考えてみましょう。
300円を支払えば、300円分の宝くじが1枚買えるからといって、宝くじのコストは当然ゼロではありません。
一般的な宝くじは、その還元率、つまり、総売上に対する賞金の比率は50%程度しかありません。
つまり、期待値からいえば、300円の宝くじ一枚の価値は150円しかなく、代金の50%程度はコストと言えるのです。
なお、競馬もその還元率は75%程度です。
ネット証券の国内株式の購入手数料は、0.05%ほどですので、宝くじや競馬のコストがいかに高いかが分かります。
(2)生命保険・(3)医療保険
上記の宝くじ・競馬については、そのコストの高さ(還元率の低さ)については、知っていた方も多いかと思います。
では、生命保険や医療保険はどうでしょうか。
実は、生命保険や医療保険も、その実現が偶然に支配されているという点では宝くじと同じです。
つまり、その偶然が、良いこと(宝くじが当たる)なのか悪いこと(死亡や怪我)なのかの違いに過ぎません。
・宝くじ=幸運にも当選番号が一致すればお金が貰える。
・保険=不運にも死亡・怪我をすればお金が貰える。
このように考えると、保険のコストも宝くじと同様、その保険の加入者全員から徴収した保険料の合計と、実際に支払われた保険金の額から求めることができます。
この保険におけるコストは、保険会社は公表していませんが、本書によれば、そのコストが60%に達するもの(つまり、宝くじよりもコストが高い)もあるようです。
人生の不運に備えて保険に入ること自体は悪いことではありませんが、そのコストを理解した上で、自分に合った保険を選ぶことがいかに重要かが改めて分かります。
なお、人間の心理として掛け捨て型の保険はどうしても損をした気になるため、貯蓄型保険を検討している方もいるかもしれませんが、貯蓄型保険がいかに不合理であるかについても本書では明らかにされています。
(4)不動産投資
この不動産投資については、昨今は、投資用ワンルームマンションなどがサラリーマンにも流行っています。
そのような投資はリスクが高いと思っている方も多いかと思います。
ただ、実は、私たちのほとんどが、知らず知らずのうちに不動産投資を行なっているのです。
それがマイホームの購入です。
6.マイホームの購入は紛れもない不動産投資
マイホームの購入というと、避けては通れない人生のイベントで、それが投資と意識されにくい面もあります。
しかし、マイホームの購入は紛れもない不動産投資です。
購入した土地や建物の時価が値上がりすれば得をし、値下がりすれば損をする、非常に分かりやすい投資です。
しかし、この投資が更に厄介な点は、レバレッジが効いているという点です。
私たちがマイホームを買う際は、銀行でローンを組むのが一般的です。
それは言い換えれば、レバレッジをかけて不動産投資を行なっていることにほかなりません。
つまり、本質的には、FXや株式の信用取引と何ら違いはありません。
このように考えると、FXや信用取引なんてリスクが大き過ぎて出来ないと恐れている人が、マイホームの購入は何の迷いもなく出来てしまうということは、本来であれば不合理なはずです。
このような行動(マイホームの購入)を私たちが何ら疑問なく行なっていることから、いかに不動産業界が巧みにそのリスクを隠して、私たちにマイホームを買わせているかが分かります。
そして、更に恐ろしいことに、マイホームの購入は、実はFXや信用取引よりも、更に不利な取引と言える一面があるのです。
それは、マーケットの効率性という観点から説明することができるのですが、今後、マイホームの購入をはじめ不動産投資を検討されている方は、本書でその内容を確認して損はないはずです。
7.資産運用のスタートラインに立つための本
このように、私たちは資産運用において、知らず知らずのうちに高いコストを支払っていたり(保険)、または、その高いリスクに気付かずに資産運用を行なっていること(マイホームの購入)があるのです。
つまり、そもそも資産運用のスタートラインに立つ前に大きなハンディキャップ(コスト)を背負わされていたり、自分が思ってもいないスタートラインに立っていること(レバレッジの効いた不動産投資とは知らずにマイホームを購入すること)もあるのです。
私たちが資産運用で損をするのは、買った株や不動産が値下がりすることだけでなく、往往にして、金融機関や不動産セミナーの謳い文句に騙され、高いコストや手数料を支払っているからでもあるのです。
そのような、資産運用を始める前から、知らず知らずのうちに既に損することを防ぐための考えを学ぶために、本書は非常に参考になる一冊です。
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。