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素敵な顧客体験はルールから生まれない
ステーキ、ハンバーグ、そして鳥。ザ・タンパク質定食。
最近、月に1回くらいランチに行くお店が会社の近所にあります。ステーキが売りのお店で僕が決まって頼むのは、お店一押しの「和牛ステーキとハンバーグ、チキングリル」がセットになったスペシャル定食。別名タンパク質セット(と勝手に命名)。ランチにしては高い3000円という価格設定です。普段から筋トレをしているので食事には気を使っていますが、月に1度くらいは…と豪華な昼食を摂るのが密かな楽しみだったりします。
これまで3~4回ほど通っていておおむね満足しているんですが、少しだけ残念なのがお店の売りでもあるステーキ。味は抜群だけど、ロース肉なのでやや脂身が多い。基本的に淡白な赤身の肉の方が好みなので、食べ終えた後に「あーやっぱりちょっと、もたれるな…」といつも思っていました。そんな訳で、この間行った時に勇気を出して言ってみたんです。
「脂身が多いの苦手なんで、ステーキの替わりにハンバーグかチキンを多めにしてもらうのって、大丈夫ですか?金額はそのままで良いので」。
予想外のサービスにファンが生まれる
「確認してきますね」
そう言って戻って行ったホールスタッフの方の背中を見送りながら
「ああ、無理なお願いをしてしまったかな。迷惑だろうな。」
と少し後悔していましたが、戻ってくると
「大丈夫ですよ!対応いたします!」
と笑顔で言ってくれました。
給仕されたプレートの上には、いつもより大きめのハンバーグとボリュームあるグリルチキン。大満足で食事を終えて、いざお会計となった時
「ステーキを減らした分の料金はサービスです!」
とのこと。
いくらなんでもお願いを聞いてもらって、さらに値下げまでしてもらうのは申し訳なさすぎるので「いやいや、払います!」と何度も伝えたんですが「大丈夫です!」の押し問答。結局押し切られる形で、メニュー表より安い料金を払って店を後にしました。正直、無理なオーダーにそこまで融通を効かせて対応してもらえるなんて思っていませんでしたが、結果的に素晴らしい顧客体験をすることになりました。
飲食店としては原価率も決まっていて、そのうえでメニューの価格設定をしているはずです。そこを、一人店主の居酒屋の仲の良い常連ならいざ知らず、たったひとりの顧客のために、メニュー構成や金額まで融通を効かせるのってかなり難しいはずです。良い悪いの話ではありませんが、厳密に価格設定されたチェーン店では(そもそも、そんなわがままを言う客はいないかもしれませんが)まず対応できないでしょう。こういった細やかな対応にこそ、企業やそのサービスの姿勢が現れるのかもしれません。
無理なお願いをしてしまった手前「次からちょっと行きづらいな…」とは思っているんですが、それ以上に「あそこまでしてくれたんだから、次はお店に返さないと」「定期的に通わないと」と妙な使命感というか、お店に対する感謝や愛着を持っている自分がいます。
いくら商品が良くても売れるわけではない
この体験を通して、少し大袈裟かもしれませんが、自分達のビジネスについても思いを巡らせることになりました。
飲食店でいうと商品はもちろん料理ですが、いくら料理が美味しいからといって繁盛するわけではありません。価格はもちろん料理提供のスピードや空間など、ハード面だけでも消費者が良し悪しを判断する要素はたくさんあります。そのうえで、一般的にはこれら要素を複合的に捉え、どうやって他店と差別化しようか…と、店舗コンセプトを決めていくでしょう。
ただ、これら【ハード要素】って可視化されるのでわかりやすい反面、どのお店もWebサイトや広告・SNSを通して発信している情報でもあります。
そういう意味では、他との違いを打ち出しているものの、訴求の軸が被りやすい。結果、目を引くことができれば「一度は行って見ようかな」とはなりますが「また行ってみたい」につなげるには別の要素が必要になってくる。
それが、今回僕が体験を通して感じたような【ソフト要素】なんじゃないか、と思いました。
では、僕らが事業を行う不動産業界はどうか。
土地や建物といった商品の売買なので、当然ながらまず見られるのが物件の立地や金額、建物などの【ハード要素】です。投資用物件なら利回り(投資回収の利益)が重視されます。さらに会社として見ると、規模や得意としている分野、市場調査力、査定スピードなどが挙げられるでしょう。実際、弊社今村不動産のコーポレートサイトでも、これら【ハード要素】を「強み」「他社との違い」として掲載しています。
一方で、お客様への対応力や提案力、融通が効くか、信用できるかといった【ソフト要素】も、取引先の仲介会社様やエンドユーザーの方はきっと見ているはずです。幸いなことに、物件や情報をリピートでご紹介いただけるお客様は増えていますが「ハード要素以外でなぜ今村不動産を選んでいただけているか」については、実はあまり深く考えたことがありませんでした。
もちろん、顧客対応についてはこうしよう!みたいな指針は会社として持っていて、都度社内で共有することもありますが、明確にルール化はしていませんでした。
僕が行ったお店はどうやって無理な要望に答えてくれたんだろうか。たまたまいたオーナーや店長の指示?現場の状況判断?それとも店舗としてルール化されていた?
いずれにせよ、コアなファンやリピーターが生まれるのは、商品スペックなどハード面だけじゃなくて「いかに満足できる顧客体験を届けられるか」だと改めて感じる出来事でした。
人と人だから文化が大切になってくる
いくら料理が美味しくても、愛想がなかったり、高圧的な接客だったら自分は多分二度とその店には行かないだろう。当たり前のことだけど、これってお店じゃなくてどんなビジネスにも当てはまる。いくら理路整然として理屈が正しかったとしても、やっぱり人と人との付き合いだから「なんか嫌だな、合わないな」と思った相手とは一緒に仕事したくない。
なんてことをぐるぐる考えながら、じゃあ顧客対応について社内ルールとして共通化することは可能か?と想像してみたけれど、結果「細かくルール化する必要はなさそうだし、むしろルール化すべきじゃない」と思い至りました。
結局のところ、プライベートもビジネスも突き詰めると人付き合い。
自分と感覚が合わない人や嫌いな人とは最終的に長続きしないものだと思います。そこを半ば強制的に「どんな顧客であっても、こう接するのが最善で、それを絶対とする」と決めたとしても、すべての相手に対して同じ対応をするのは難しいでしょう。言葉は悪いけれど、超極悪クレーマーに丁寧に対応する必要はありません。
以前のnoteでもビジネスをスポーツに例えて書いていましたが、ひたすら精神論で無駄なうさぎ跳びや苦痛になるほどの走り込みをしても、結果にはつながらないという考えが僕の根底にあります。
顧客対応や接客のルール化も同じです。ある程度の指針はあったとしても、厳格に制度化しすぎると、人によっては「なんでこんなことしないといけないんだ…」となりかねないジャンルのものだと判断しました。
少し旬を過ぎた話かもしれませんが、世間を騒がせたビッグモーター社の問題も、突き詰めると「不合理なノルマやルール」が足かせとなって、虚偽申告や改竄、除草剤を撒くなんて行為が常態化してしまったのかもしれません。現場で働く人からすると「本当はやりたくもない、好きでもないけれどノルマがあるから、ルールだから」と盲目的に続けていたことが、やがて組織風土や文化として悪い意味で根付いてしまったように思います。
大切だが明文化するのが難しい【ソフト要素】は、単純に人それぞれの気持ちやスタンスに寄るところが大きい。
だからこそ、一般的に見ていい行動が称賛され、それが当たり前になる「空気を会社としてつくる=文化をつくっていく」ことの方が大切。
そのために必要なのはルールじゃなくて組織内における対話なんだと思います。たとえビジネスの繋がりであったとしても、一緒に働く人の環境や気持ちを理解すること。メンバー全員が良いと思える出来事を共有したり、共感するきっかけになる瞬間をたくさん作ることが、経営陣の役割なのかもしれません。
僕が素敵だと感じたあのステーキのお店も、その場で良しと判断した行動が、結果的に良い行動だと社内やグループの共通認識になるような組織の空気感がきっとあったはずです。
どれだけ技術やAIが発達しても、そんな根底にある人と人の気持ちや意識はずっと大切にしていきたいなと改めて感じました。
みなさんの組織はどうでしょうか?