「海と葡萄とデザインと」SAYS FARM(富山県氷見市)訪問記
2024.3.訪問
はじめまして
一面に広がるグレージュな空、まるでフランスの田舎町に来たような感覚に襲われながら、バスで小高い丘を上ってゆく・・。
葡萄畑を抜け、富山湾を一望できる高台にあるのは、富山県氷見市SAYS FARM(セイズファーム)ワイナリーだ。
早速迎えてくれたのは、栽培醸造責任者を務める田向俊さん(写真)と、ワイナリーをイノシシ被害から守る勇敢なアイドル犬、マイコちゃん(写真)。
念願の、噂の、やっと・・の思いでの初訪問。
今では考えられないが、ワイナリーがまだ広く知られていなかった時代からたまたま弊社ワイン担当が縁あり通っていたことから、その時の思い出話を時々聞かせてもらっていたので、なんだか勝手に親近感を抱いていた。
そしてこちらのワイナリーデザインは富山市内に建築設計事務所を置く五割一分(ごわりいちぶ)さんなのだが、何を隠そうこのワイナリーデザインにインスピレーションを受けて、IMADEYAのブランドデザインもご相談し、現在まで担当してくれているのが、同じく五割一分さんなのでした。
魚屋がつくったワイナリー
もともとこのワイナリーを立ち上げたのは、地元氷見で江戸時代から続く魚問屋の釣屋(つりや)さん。「氷見の魚に合うワインをつくりたい」というひと言から始まり、はじめは周囲の反対の声も多かったそう。
2007年、もともとお茶畑として使われていた耕作放棄地帯を、葡萄畑として開墾。
魚問屋の社員たちが本業の合間を縫い、朝は海へ昼は山へと通って半年かけて未踏の地を切り開いたと聞きます。
栽培
当初シャルドネを3,000本とカベルネ・ソーヴィニヨンを1,000本、2008年にソーヴィニヨン・ブランを2,000本とメルローを1,000本購入し、現在の葡萄畑に植えた。
当時は、マイナー品種でワインを作っても、お客様に知っていただくには時間がかかってしまうこと、日本のワイナリーも有名な品種を植えていっていることもあり、認知がありそうな上記4品種類の葡萄で栽培を開始した。
当時氷見では、露地栽培で、垣根で・・のワイン用葡萄の栽培はまだ行われておらず、未知の取り組みでもあったため多くの方にサポートしてもらいながらのスタートとなった。
また富山はもともと米どころ、果樹は無い土地。
最初は本当に少しずつ、徐々に収穫量を上げ、70トン弱までに。
当初ここまで増やせるイメージは無かったが、この土地に合う品種との運命の出会いがあったのだ。
その名はアルバリーニョ
栽培する品種を増やしていく中で、氷見の気候にマッチしているかもしれないとなったのが、アルバリーニョ。
当時から交流のあった新潟のワイナリー、フェルミエの本多氏、カーブドッチの掛川氏と氷見の気候にあった品種はなにかと議論している中で、新潟の気候で「アルバリーニョ」が非常に良い結果がでていたこともあり2012年から栽培を開始した。
ファーストリリースは2015年。葡萄の出来は言うまでもない。
酸が乗りながら、糖も在る。
なんといっても魚と合わせるときにアルバリーニョがイメージついたのだ。
醸造
2009年、田向さんが加入。
最初の醸造は長野県東御市にあるヴィラデストワイナリーに委託醸造を頼んだ。
2011年には自社の醸造設備が整い、栽培から醸造まで一貫して氷見で行うことができるようになり、氷見のワイン造りが始まった。
当時、日本ワイン文化はまだ広がっておらず、日本ワインを知っている人でも山梨県や長野県のイメージが根深かった。
そんな未知数な富山県のワインは、生産本数を多くするのではなく、氷見の土地にしっかり向き合うことを大切にし、2万本程の生産本数でワイン造りをスタートさせた。
タンクは1000‐2000リッターのコンパクトサイズ。
これは畑のサイズとほぼ同等で、畑ごとの仕込みをしてから、最終的にブレンドしていく。
ワインになると今年の出来具合がとてもわかり易い。
強み
全部自社畑ということ。それは特徴がつかみやすく、収穫の見極めもし易いということ。
コントロールが効き、醸造がベストなタイミングですぐできる。
また、日本の葡萄はむっちりたわわに実が成る。それは海外との大きな違いで強みともなる。
水分量多く、テクスチャーが軽やか、これは氷見の個性として仕立てていく。
しかしそのままシンプルにつくれば薄っぺらい味になるので、少し皮を含めたつくりで味わいにフックを足す。
除梗機にもこだわり、いわゆる回転式のものではなく、縦に叩くように除梗していくもの。これは軸がよじれ破損しないように調整できるのだ。そして赤は追加で手除梗もする。
酵母は天然酵母。天然は発酵が複雑で、奥行ある味わいになる気がすると田向さん。
なんと畑ごとに酒母(ピエドキューヴ)をつくって添加するそう。
氷見の味わい
最後にいくつか、地下貯蔵庫に眠るワインをテイスティングさせてもらった。
非発泡性ロゼ2022は冬の魚と合うよう深みのある味わいに。
うって変わり、発泡ロゼ2022は軽やかで、夏用にグビグビいける味わい。
シャルドネリザーヴ2021は、とても冷涼な年らしいスマートさと、フリーランらしいノンストレスな味わい。非常に美しいの呑み口だが、香りに熟度が乗っている。
アルバリーニョバリック2020(非売)は、ココナッツやヴァタ‐スコッチの風味漂うリッチだけど軽快さも持つワイン。MLFしてないのかな?とかは個人予測・・。
そしてアルバリーニョノンバリック2021(非売)は、樽に入れる前に施策でつくったもの。日本らしい控えめで華のある香り。塩味と果実味のバランス、余韻の美しい長さ・・これぞ氷見らしい、アルバリーニョだと感じた。
最後に
氷見の情景をワインという形で伝えたい、というSAYS FARMの想いは止まらない。
ワイナリーには結婚式場や宿泊施設、レストラン、ショップ&ギャラリーなどが併設され、各地から人を呼んでいる。
この日もレストランは沢山の人で賑わっていた。
また、現在年間約4.5万本のワインを醸造しているが、将来的には約10万本のワイン製造を目標としており、そのため2024年の夏には、10万本のワインを保存できるセラーが新設される。
セラーの半地下が、ワインの保存場所。そして「印象に残ることをしないと、次にワインを飲む世代に繋がらない」という想いのもと、氷見湾を一望できる2階は景色を眺めながらワインと食事を楽しめるスペースとなる予定だ。
時代の変化を受け入れ、氷見の土地とともに成長し続けるSAYS FARM。
日本ワインの真価を北陸の地で垣間見た。