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「時代はスペックから世界観コミュニケーションへ」永井酒造(群馬県利根郡川場村)訪問記
IMADEYA安藤の蔵訪問記
「川場村の自然美を日本酒で表現する」群馬県 永井酒造の新しいチャレンジ。テイスティングルームと醸造研究所を併設した「SHINKA」にご招待いただいた際の訪問レポート。
永井酒造とは
利根川源流域に位置する群馬県川場村に蔵を構える創業1886年の永井酒造。
銘柄は「水芭蕉(みずばしょう)」「谷川岳(たにがわだけ)」。
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川場村はその地名の通り一級河川が4本あり、武尊山(ほたかやま)の恵み溢れる村。永井酒造の酒造りは初代がこの地の水に惚れこみ創業した。
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実際に仕込み水のもとになっている川の水をそのまますくって試飲したが、テクスチャーが柔らかく甘みがあり、余韻に優しいミネラル感を感じる味わいだった。これをベースに蔵が使用する仕込み水は、さらに自然の濾過槽をくぐり抜けた水の為、ミネラル感はより増している。
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この川より上にはゴルフ場も民家も何もないため、常に綺麗な水が流れている。
この水芭蕉の命とも呼べる水が途絶えてしまうと酒造りができなくなってしまう為、水を守るために水源のある森林を買い足し、現在50ヘクタール(東京ドーム10個分)を永井酒造単独で保有している。
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「これをみると自分はまだまだだと思える」とのこと。
林業は何代にも渡ってようやく完成する仕事、と。
自然林は自然淘汰されるが、人工林は人が手を入れ続けなければならない。
林業の衰退理由は国内木材を使わなかったこと。そして60年間値段が変わらなかったこと。
最近ようやく2、3割価格が上がってきた。木材の話は日本酒の話かと思う程、日本は良いものがあるのに、価値をつけて売るのが苦手だと改めて思った。
また蔵のある川場村にある川場田園プラザは国内外から視察団が訪れるほどの大人気スポットで年間190万人が訪れ、地方創生の成功モデルとしても注目されている。
今後の地方創生のキーワードは観光とセットで地域に人を呼べる環境を創ることだと感じた。
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また水芭蕉は「伝統と革新」をテーマに、スパークリング、スティル、ヴィンテージ、デザートという4種類の日本酒を食事のコースに合わせて楽しむコンセプトも開発している。
片岡鶴太郎氏、ユミカツラ氏などのアーティストとのコラボレーションも話題。
川場村のテロワール
川場村は持続可能な町、新しい建物は全て三角屋根の切妻屋根色は、茶色かグレーと決まってる。この村ではGIゆきほたかの買取金額が高いため、田んぼを手放す人がいない。
つまり田んぼにビルがなることもなく、リゾートもない、この環境もまた水芭蕉の価値を高めている。
永井酒造が酒を醸造する際に使用する「仕込み水」は30年以上もの年月をかけて濾過された2,158mある武尊山(ほたかやま)からの伏流水。豊富なミネラルが含まれており、軟水で口当たりは柔らかく、最初に甘み、後味にミネラルを感じるのが特徴。
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永井酒造が目指すのはこの恵まれた「水」を表現する綺麗な酒造り。
軸となる水と、米の繊細な味わいを最大限に引き出した口当たりが軽く飲みやすい食中酒を目指している。
蔵には仕込み水が自由に飲めるスポットが用意されており、ボトルに収めていく人も見受けられた。
SHINKA
今回のメインテーマとなる、8月1日にオープンした水芭蕉ブランドの世界観を表現する施設「SHINKA」
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オープンを記念して2008年の熟成酒シリーズ
「THE MIZUBASHO PURE 2008」
「MIZUBASHO VINTAGE 2008大吟醸」
「MIZUBASHO VINTAGE 2008」を発売。
中には1日1組4名までのSHINKAへの招待状が同封されている。
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こちらすでに蔵の本数は少なくなっており、弊社でも仕入れを行うが、中には一日一組の招待状が入っている。ただ商品を売るだけではなく「体験」がセットになっているのでぜひこの価値まで伝えて欲しい。
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テイスティング
テラスでウェルカムスパークリングを飲んだあと、試飲に移った。
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●水芭蕉 ピュア2008年
香り香ばしく、蜂蜜、熟れたメロン、甘やかな印象。味わいは熟成による香ばしさや蜜的なニュアンスが融合した複雑な風味、メロウな質感、甘味もありながら中間は滑らか。渋みもきめ細かく、後口は滑らかで甘味、旨みが長く持続する。可能性のある味わい。
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●水芭蕉 大吟醸2008
香りは熟成による柔らかさがありながら、まだ華やかな吟醸香のニュアンスがある。15年経過しているとは思えない香りの残り方。やはりアル添は熟成に向くと改めて思う。アタックは滑らかな旨みがありながら、テクスチャーは練れて、中核は芯があり、ピシッと舌の中央に通るキレがある。50%の山田錦とは驚き。まだまだ持つ。
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●水芭蕉 純米大吟醸 2008年
香りは大吟醸より柔らかく、より穏やかでトーンが低い。熟成の香りがはっきりと感じられる。アタックは柔らかく香ばしい香りが開く、中間は滑らかで酸の奥行きがある、爽やかな酸が効いて、余韻は香ばしい旨みが持続する。
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●水芭蕉 2017年
香りは樽由来の甘やかな香り、アタックは滑らかなテクスチャー、旨味が効いて、きめ細かいタンニン、ラクトンを感じる。中間は品のあるタンニンのメリハリ、後口は苦味効いて、樽の旨みと長い余韻。
2002.2004.2006年のブレンド。
ブレンド後に樽熟成した商品。
タランソー新樽熟成、マイナス5度で管理。
生産本数88本のみ。
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●水芭蕉 試験醸造酒 LABO仕込み
香りマスカットの爽やかな香り、甘味と爽やかさの共存。アタックは爽やかで甘味強く、滑らかな旨み、中間苦味で引き締まり、軽やかな苦味とエレガントな余韻。今までの水芭蕉とは異なるフレッシュ感。
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永井社長は以前、DRCモンラッシェを飲んで心から感動し、こんなお酒を目指したいと思ったのが今の原動力に繋がっている。
時代の変化
1886年創業の永井酒造はまだ世に商品が少ない時代からスパークリング日本酒(AWASAKE)のパイオニアとしてチャレンジしてきた。
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今回SHINKAを見学した際、時代はスペックから世界観へ移行しているのだと改めて感じた。
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テイスティングルームと醸造研究所を併設した体験と醸造の深化、永井酒造の進化の歴史、日本酒の真価を体感してもらう為の施設。
テイスティングルームでは蔵の前に広がる風光明媚な水田を眺めながらこの地から生まれた日本酒を味わう非日常の贅沢を体感できる。
バーチャルに進んで行く世界の中で、SAKEを飲むことはリアルな体験であり、こうしてモノが産まれる地で飲むSAKEというのは、ただ消費するだけでは得られない高い付加価値が潜んでいる。
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以前平川ワイナリー平川代表がミッシェルブラスでの経験値から味わいは色彩に左右されると言っていた。
ラボでは実験的な日本酒を小ロットで醸造し「ラボSAKE」としてSHINKAのみで試飲、購入できる。この実験は今後定番商品の進化にも繋がる。
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泡と刻の付加価値創造
永井酒造では泡とスティルのヴィンテージを10万本ほどストックしている。
その理由はシャンパーニュハウスと同じく、高品質のAWASAKEを手掛けようと思ったらリザーヴの量がものを言うからだ。
現IWAの元ドンペリニョン醸造長ジョフロワ氏もブレンド用に熟成酒を購入していることから時が生み出す価値への期待が読み取れる。
水芭蕉のリザーヴは今年仕込むピュアから加えていき、再来年ぐらいのリリースから順次切り替わって行く。
水芭蕉でしかできないチャレンジとは泡×刻酒の付加価値想像。
また日本酒が資産になるプリムールの世界観を今後作りたいそう。
水芭蕉でしか出来ないことは、この川場村の保全活動、この環境から生まれる水と米、AWASAKEへのチャレンジ、刻酒とのリミックス。
全ての蔵が着地しなければならないポイントである、圧倒的非代替性に着陸した水芭蕉の今後に注目が集まる。
IMADEYA 安藤大輔
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