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002: 腰がぬけた。確信した。イケる。

企業ブランド:海底撈の場合②


「海底撈」という企業、中国では知らない人はいないと言われ続けている中国象徴ブランドのひとつ。
中国火鍋業界を席巻する圧倒的なリーディングカンパニー。
2022年現在でも中国における外食チェーン年商1位のみならずアジア全土でも1位に君臨している。
現地大人気の「マクドナルド」や「KFC」を圧倒してるんだから、、、、。
 日本国内店舗群も全店連日満員の大人気。
まさにアジア全土で中国火鍋=海底撈の構図。
ちなみにオーナー夫妻も、長年世界のビリオネアトップ500に君臨し続けている。
2022年9月時点においても。

序章~第三章1までは、前回記事「市場占有率1位の商品パッケージを変えたら300日後、株式上場してしまった。」にて執筆。
閉ざされた海底撈の門戸を「どのように突破したのか」から「既契約のちゃぶ台返し」までの会話、更に「追加追加の受注依頼」まで赤裸々に書き残しています。1万1千文字程度。
初回記事は、中編から後編の核心内容については有料です。前編は無料です。興味ある方はご一読ください。

今回はその続編です。

第3章 
受注後の進め方の記録2

2014年2月21日(金)
準主権者からぶどうちゃんに連絡が入った。
連絡の内容とは、概ね以下の通り。
別途の新商品のリリース準備が入稿間際なのだが、貴社で監修し手直しをしてほしい。
その新商品は、年会にて正式発表後、即日販売スタートする商品。
ちょうどその時期の小職は、ニッスイの新商品リリースに併せたキャンペーンのキックオフが翌週に迫っており、販促ツール類の入稿作業に没頭している最中。
併せて、これまた翌週の2月28日から開催される海底撈子会社の年次総会のテーマデザインもある。
結論、現行デザインデータを即弊社にEPS送っていただき、まずは現状を見ることとする。
で、送られてきたデザインがこれである。

支給されたデザイン表面
支給されたデザイン裏面

ブチ切れる。

腰が抜けた。
ここまで来ると何から手を付けて良いのかすら、全くわからない。
思考停止ではなく。
今まで見たことのない領域の作品。
頭を抱えていたら、とんでもないことが見えてきた。
で、確信した。
これはイケる。
おそらくこのデザインでリリースしても、全国でヒット商品になるのは間違いない。
どんな商品であれ全国に張り巡らされた海底撈Gの超強力な販売網が売りまくる。
ということは、今受注している全商品に当たり前の正しいパッケージデザインを纏えば、売れて売れて売れまくって、とてつもなく桁違いな未知の領域でも君臨するぞ。奴らは。

【世界最大】で【桁違い】な【巨大中国市場】の【感触】を【実感】した瞬間。
それは、手を差し伸べた先の無限の沼。
吸い込まれた手に湿度がぐにゃぐにゃ絡まってくる。

市場を席巻するとはこういうことか。
生まれて初めての感覚だった。

苦いコーヒーで喉を潤し、深呼吸をする。

声をかける。社内デザイナーの抜粋チームにも加わってもらい、協議する。
協議時間3分で終了。
結論、ゼロベースからデザインしないと駄目。
このデザインには手の施しようがない。

これ以上議論しても時間の無駄だ。
私:「だよな。」
私:「わかった。これは忘れてくれ。」
ぶどうちゃんとデザイナーの前で準主権者に電話する。

私:「新商品デザイン見ました。」
準主権者:「で、どうですか」
私:「腰が抜けました。」
準主権者:「ですよね、、、。」
準主権者 : 「どうしようもなくて相談したんです」
私: : 「仮にこのままでもヒット商品にはなりますよね?」
準主権者 : 「まぁ普通には売れると思います。うちの販売網では」
私 : 「じゃもっと売れる正しいデザインを纏ったらどうなるんでしょうね」
準主権者 : 「だから今田さんと契約したんです。」

やはりそういうことか。
ではその領域までお供してみようか。
四の五の垂れる前に頭と右手を動かそう。

私:「じゃ確実に間違っている2箇所だけ直します」
準主権者:「ちなみにどこですか?」
私:「1つ目は、料理写真の再加工」
私:「2つ目は、裏面レイアウト」
準主権者:「わかりました。ありがとうございます。」
私:「できる限りの施しはしますが、あくまでバランスを整える程度と考えてください。」

準主権者:「助かります。簡単でいいですからチャチャッとで、、、」
準主権者は話を続けているが、私は躊躇なくその電話をぶち切った。
即折返し着電、慣れたぶどうちゃんが対応する。
弊社への禁句【簡単で】【チャッチャッと】【サクッと】をやんわり伝えた。

支給されたデザインの何が悪いのか

送られてきたデータは、現行デザインを請け負っていた北京のデザイン会社の作品とのこと。

主たる修正箇所は、3つ。
①料理写真の「箸でつまんだ魚」が目立つように、階層を作る。
②裏面のレイアウトをピロー包装用に再配置。
③全体バランスの調整。

①の解説(階層を作る)

まず、海底撈店舗でも新メニューに加わる火鍋スープの新商品なのに、キャッチとなる写真が活かされていない。
実食したが、とても美味しいスープなのである。
その美味しさが全く伝わらない。
理由は、スープ写真の階層が一番奥となっていて、相変わらず文字を読まないと何なのかが理解できない構造になっている。
駄目である。
売れない。

文字を【読ませない】食品パッケージが【売れる】理由

消費者が必要な情報に辿り着くまでに、ある程度予測できたイメージの延長で文字を認識すると、脳に違和感が生じない。
イメージの肉付けへと文字が機能するから。

文字を【読ませる】食品パッケージが【売れない】理由

瞬間、脳が混乱し、不快な違和感から拒否反応を起こすから。
消費者が必要な情報に辿り着くまでに、まだ予測出来ないイメージの延長で「写真・文字・色・レイアウト」などが入ってくると、一時的に脳が混乱する。
明るい混乱ならば興味へと変換する場合もあるが、なにもない混乱は本能的に拒否する構造になっている。全人類は。
脳が拒否するから、無意識にスルーする。脳の防御反応として。

だから食品パッケージに関しては、どんな商品にも階層の仕組みが必要だと考えている。
主要な販売チャネルが、小売の棚やECならば尚更のこと。
【消費者】は【自らの足】で【買う目的】を持って【わざわざ】その【棚】まで来てくれているのである。
脳を混乱させるなど論外。

②の解説(裏面レイアウトをピロー包装用に再配置)

現行工場ラインは「縦中シール」の「縦ピロー包装」。
接着させる縦中シール面を全く考慮していない。

この部分


縦中シール面とは、ポテチなどの開封時に、両手でビッと引っ張ると破れる裏面縦長の邪魔な存在のアレ。
このデザインのまま、工場ラインで縦ピロー注入してしまうと、文字が全く見えないエリアが縦長に生じる。
消費者は、購入の際に左に折られた1cmほどの縦中シール面を起こして、文字を読む動作が強いられる。
論外である。
※ちなみに、縦中シール面とは社内で勝手につけた名称。「のりしろ」とかでは業務上伝わらない場面が多々あったので、社内で単語を作った。

③の解説(全体バランスの調整)

レイアウトのバランスが不自然。
脳が不自然に感じるレイアウトにも、脳は拒否反応を起こす。
論外である。

修正を施し入稿

入稿したデザイン

2014年2月25日(火)
早朝に、修正したデータをぶどうちゃん経由で共有した。
その後、ぶどうちゃんからの連絡で、このデータで入稿して欲しいとのこと。先方よりありがとうございますとのこと。
社内スタッフに最終文字校正をさせ、OK出たので、入稿データを固め、ぶどうちゃん経由で無事入稿。

校正ミス撲滅唯一の方法

デザインの文字校正は、デザインした本人が校正しても意味がない。
誰しも自分自身を一番信頼しているから。僕は私はミスしないと。
その前提でチェックするから、ミスを見落とす可能性が必ず生じる。

だから、【作ったデザイナー以外】の校正チェックが必要。

そして、【モニター校正】もご法度。
必ず、【紙出力】して、原稿と一字一句照らし合わせながら、【赤ペン】でチェックを入れる。

モニター確認は、10回中3回ミスが生じた。
モニター確認は、50回中18回ミスが生じた。
アナログ確認は、10回中0回ミス。
アナログ確認は、50回中0回ミス。

これは、アナログ校正を嫌がる社員たちを納得させるため2006年に社内で一日費やし実験した結果である。
アナログであるが、これ以外にミスを撲滅する方法は無い。

【人間の脳】は、学習する云え、その先入観から【必ずミスを作り出す】。
たとえ10万回に1回のミスであっても、そのミスは、必ず多大な損失を誰かが蒙る。
それと、入稿データは作成したデザイナー本人が必ず固めることとしている。
理由は、万一の責任所在を明確にするために。

〜次回へ続く〜
次回は年次総会カンファレンスのデザインについて執筆します。
2022年09月21日(水)リリース予定


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