見出し画像

天気予報

晴れた日に瓦屋根に布団を干す、直射日光、もうすぐ夏だ
熱を吸い込んだ綿の上に父と寝そべる昼下がり、ちょうど太陽も高い位置に来ている

「明日は雨だって」
お昼の天気予報がそう言っていたのを思い出した。こんなに晴れているのにな、とぼんやり思いながら浮かんでいる雲を眺める
「人間と一緒だねぇ」
おそらく同じ雲を見ていた父が間延びした声で呟き、猫のようなあくびをして目を閉じている

父はいつも忙しく、こんな時間を一緒に過ごすのはとても久々な気がする
「明日は雨だけど、お仕事あるの?」
ある、と短く言うと、そのまま寝てしまったようだ
む、と思わず唇を尖らせる

父がゆっくり休んでいる姿なんて、いつ見ただろう
朝起きたらもういない、夜眠る少し前に帰ってくる、肌はいつでも日焼けして真っ黒だ
忙しない日々に父はちゃんと一息つけているんだろうか、きっととても疲れているだろう、でも父は何も言わない、はぁ、と溜め息を吐くのも聞かない
大人になると、うまく誤魔化せるようになるんだろうか
さっき見ていたはずの雲はどこかへ消えてしまったようだ
「私も早く、ーーー

「明日は明日の風が吹く」
独特の節をつけて歌うように言う、父の口癖だ、どうやら起きていたらしい
「天気予報って時々外れるんだよ」
続け様にそう言うと、またひとつ欠伸をした

言葉というのは実にシンプルだけど、どこか不思議だ
私が大人になる頃には、父からもらった言葉の意味も分かるのだろうか

「明日は曇りだといいな」
私は父を焦がす太陽に、少しだけ傘を差し出したい

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?