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新しいVRフィットネスのカタチ「Groove Fit Kingdom!」 前編

 こんにちは。イマクリエイト株式会社の松迫です。
 先日自己紹介の記事を書かせていただき、たくさんの方に読んでいただいています。ありがとうございます!

 普段僕は主にエンジニアとして、コードを書いたり、消したり、また書いたりしています。今回の記事では、そんな僕がリーダーとなって企画・開発をやらせてもらった「Groove Fit Kingdom!」というVRリズムフィットネスゲームに込めた思いやこだわりを、前編と後編に分けてとことん語りたいと思います!

VR版「リ〇ム天国×リングフィッ〇アドベンチャー」!?


 今年の4月、某新型ウイルスの影響でビジネス向けの企画が一時停止し、社員のリソースが空いてしまった時期がありました。その際、「開発知見や企画ノウハウの拡張のために、これまでやったことのない一般向けゲームを考えてみよう」という考えのもと、社内でコンシューマ向けVR/ARサービスのアイデアコンテストが開催されました。その時に僕が出したアイデアが、『音楽と一体化するフィットネス「Groove Fit」』というものでした。

音楽と一体化するフィットネス 「Groove Fit」

 世界中で外出自粛が行われる中、家から外に出ないことによる運動不足健康二次被害が問題視されていました。僕自身も大学時代の部活を引退してから圧倒的な運動不足を実感しており、リングフィットアドベンチャーと豆腐でギリギリ標準体型を保つ日々を過ごしていました。
 そのような背景もあって「楽しみながら運動が出来るVRゲームが欲しいな」と自分で思っていたこともあり、先の提案をさせてもらいました。

 そしてこの「楽しみながら」の部分を「音楽と一体化」としたことにも理由があります。
 僕の大好きなゲームの一つに、任天堂の「リズム天国」シリーズがあります。僕が両親と並ぶレベルで尊敬するつんく♂さんプロデュースのリズムゲームなのですが、このゲーム、いわゆる「音ゲー」とは全く違った特徴を持っていると考えています。
 Groove Fit Kingdom! の音楽的要素を語る上で、「リズム天国論」はとても大事だと僕は勝手に思っているので、少しだけリズム天国の分析を話します。

 「音ゲー」と言われている多くの音楽ゲームは、時間方向に流れる譜面に配置された「音符(ノーツ)」に合わせてタイミングよくボタン入力します。ルールが覚えやすく、プレイヤー同士での点数の競い合いも盛り上がる素晴らしい仕組みです。開発者目線でも、様々な楽曲に合わせて譜面をカスタマイズしやすく、難易度調整もやりやすいため沢山の音楽ゲームに採用されているシステムだと言えます。これらのゲームでは、「音符の通り道」である譜面が目に見えて分かるのが大きな特徴だと思います。

 一方でリズム天国は、これら音ゲーとは根本的にゲームシステムが違います。僕が考える一番わかりやすいリズム天国の特徴は
①「譜面が見えない」
②「目をつぶっても遊べる」
③「ミニゲーム形式」
の三つです。

① 譜面が見えない
 まず、「譜面が見えない」というのは、それもそのはず。リズム天国はそもそも「リズム」にフォーカスしたゲームだからです。譜面のある多くの音ゲーは、入力の種類が多く、いわゆるピアノやドラムを演奏しているような感覚に近いものがあります。もちろん「リズム」はベースにありつつも、たくさんの入力を正しいタイミングで「押し分ける」ことに楽しさの重心を置いています。ゲームセンターで手を素早く動かして音ゲーをプレイする人の「すごい感」が譜面型音ゲーならではの面白さなのかなと感じます。その特徴は実はBeatSaberなどのVR音楽ゲームにも当てはまることが分かります。

 かたやリズム天国は、徹底的にリズムに楽しさの重心を置いています。入力の種類も多くありません。最初に練習でルールを覚えてもらい、それに従って本番のゲームをプレイするため、譜面のようなものは目に見える形では存在しません。

② 目をつぶっても遊べる
 そしてそのルールというのが、どれも個性的な音をきっかけとした入力ルールです。音をきっかけとしているというのはつまり、画面をみて上下左右どこにノーツが飛んでくるかを確認する必要がない(そのように設計されていない)ということです。音を聞いて、チュートリアルで学んだルール通りにリズムに合わせて入力するだけなので、「目をつぶっても遊べる」のです。実際、僕はパーフェクトをとりたいときにはむしろ目をつぶったほうがリズムに集中できて成功しやすいです(笑)。

③ ミニゲーム形式
 「ミニゲーム形式」であるということは、リズム天国を遊んでみたら一目瞭然なのですが、一般的な音ゲーが「一つのゲームシステムをベースに様々な楽曲で遊ぶ」仕組みなのに対して、リズム天国は「楽曲ごとに異なるルールのミニゲーム」が複数用意されています。リズム天国の制作チームが実は「メイドインワリオ」シリーズの制作チームとほぼ同じメンバーという話を聞いて、僕は驚くほど納得しました。
 異なる楽曲・ルール・デザインのミニゲームを量産しなければならないため、開発コストがかかるというデメリットはあります。しかしゲームの種類が豊富な分、いろんな世界観を楽しめ、プレイヤーの「ツボ」にはまるミニゲームがそれぞれに見つかりやすいというメリットもあります。


 さて、リズム天国語りはこれくらいにしておきます。
 これら「譜面が見えない」「目をつぶっても遊べる」「ミニゲーム形式」というリズム天国の特徴と、リングフィットアドベンチャーのような楽しみながら運動が出来るという特徴を組み合わせたVRリズムフィットネスゲームが作りたい!という提案をしました。

(とはいえ「目をつぶっても遊べる」という部分についてはVRヘッドマウントディスプレイ体験において本末転倒なので、実際にはそうはならないのですが、音楽的要素の本質的な考え方ということでご容赦ください笑)

 その時に発表した体験のコンセプトがこちらです。

体験のコンセプト

 僕としては、やはりしっかりと「正しいトレーニング」になること。そして全身で「リズム」を感じられることが、体験のコアに置きたい部分でした。

 要するに、VR版「リズム天国×リングフィットアドベンチャー」的なゲームが作りたい!ということです。結果、一番わかりやすい例えはこれでした。
 光栄なことに、数あるコンテンツのアイデアの中から僕のこのアイデアを選んでいただき、実際に会社で開発をスタートさせることになりました。

王国を彩るキャラクターと舞台

 今回、ゼロからVRリズムフィットネスゲームを開発するにあたって、挑戦してみたいグラフィック・ビジュアル面での表現がありました。既存の多くのVR音楽ゲームのグラフィックは、「サイバーな」「SFっぽい」「無機的な」「かっこいい」といった言葉が合う表現がほとんどです。僕が挑戦してみたかったのは、そういった従来のグラフィック表現とは異なる「かわいい」「アニメ調の」「ビビットな」「キャラクターによる」表現でした。

 それこそ、今回おおいに参考にさせていただいている「リズム天国」「リングフィットアドベンチャー」といったゲームのビジュアルに近いかもしれません。
 現状、世に出ているVRコンテンツは決して多いとは言えない中でも、さらにそういった方向性のグラフィックのゲームはほとんどありません。ある種ジャパニーズアニメカルチャー的な、ポップで線画的な世界観のVRコンテンツが世界でどれほど受け入れられるのか。そういったことを実験的に知りたかったという思いもありました。

 今回、全体のプロデュース兼ディレクションをやらせていただけるということで、先に述べた「かわいい」「アニメ調の」といった特徴を意識して、登場するキャラクターのすべてをデザインしました。弊社には40回職務質問された優秀な3DCGモデラ―がおり、僕の稚拙なキャラクターアートも見事に立体化してくれました。

キングハム

たこぞう

 自分が考えたキャラクターに命が吹き込まれ、等身大で目の前で動いている様子を見ると、何とも言えない親近感を感じました。

 ゲームの舞台は「動物たちの暮らす王国」。そこを訪れたプレイヤーが、動物たちと一緒に様々なフィットネスをする、というストーリーです。ミニゲームごとに異なるキャラクターとフィットネスをする、というコンセプトのもと、今回はメインで4つのミニゲームを作成しました。それぞれのミニゲームの世界観が個性的であるよう、舞台は分かりやすく「海岸」「森」「街」「荒野」と明確に分け、それぞれのカラーも配色アイデア手帖を参考に統一感のある色でまとめました。

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 このようにアニメ調のキャラクターを3Dモデル化することや、舞台設定や配色までこだわった世界観によって、「Groove Fit Kingdom! 感」みたいなものが出せていたらいいなと願っています。
 実際は、国内でも海外でも「VR版リズム天国だ!」と評してもらうことが多く、それはそれである意味狙い通りなので嬉しいです。今後はより、他の作品では言い表せない、「Groove Fit Kingdom! 感」としか言い表せないような表現を模索していけたらと思います。

従来のリズムゲームにはなかった身体的特徴による制約

 社内プレゼンでの題名『音楽と一体化するフィットネス「Groove Fit」』からもわかるように、本作は「フィットネス」がプレイヤー体験のコアです。音楽・リズム・キャラクター・世界観は、より楽しく、親しみやすくするための付随的なものであって、あくまで体験の中心は「フィットネス」

 フィットネス体験としてしっかり大きく体を動かしてもらいつつも、やはりリズムゲームとして音楽に乗ってタイミングよく動いて欲しい。この二つをバランスよく両立させることがなかなか難しく、開発する上でも苦戦しました。Groove Fit Kingdom! の二つのミニゲーム「かえるボクシング」と「ピザの配達」を例に挙げて説明します。

① かえるボクシング
 リズムに合わせて飛んでくる虫をパンチする「かえるボクシング」では、プレイヤーによって腕の長さ「ジャスト」の認識が違うために、ゲームの判定としてのジャストタイミングをどこにもっていくかで議論を呼びました。
 腕の長さが違う「ジャスト」の認識が違うとはどういうことか?具体的に従来の音ゲーと比較してみます。例えばボタン入力で遊ぶ音ゲーの場合、ボタンと手がほとんどゼロ距離にあるため、ジャストのタイミングと認識してからボタン入力がされるまでのタイムラグはほとんどありません(画像1)。
 しかしVR空間におけるパンチ動作の場合、プレイヤーによって最長のパンチ距離が異なります。これが腕の長さの違いによる課題です。
 また、あるプレイヤーは「ジャストのタイミングで腕を伸ばし始める(画像2)」のに対し、別のプレイヤーは「ジャストのタイミングで判定位置に到達する(画像3)」という違いが発生します。これが「ジャスト」のタイミングの認識の違いです。

パンチ説明

 また、人によってパンチのスピードも違うので、本人がリズム的にジャストのタイミングで動作をしたと思っても、ゲームの判定としてはジャストではないというズレが発生し、ストレスを与えてしまいます。

タイミング説明

② ピザの配達
 ピザを頭上に持ち上げながら「側屈」をして銃弾をよける「ピザの配達」では、プレイヤーによって腹斜筋(腹部の側面の筋肉)の柔軟性が違い、銃弾をよけきったという空間的な判定をどのポイントに配置するかが問題となりました。この側屈においても音楽的なジャストタイミングと身体運動のズレの個人差の理屈は「かえるボクシング」の時と同じで、体を横に倒し始めるタイミングとスピード、起き上がるタイミングとスピードがプレイヤーごとに異なります。そのためすべてのプレイヤーのストレスをなくそうとすると、判定をかなり緩くしないといけなくなります。
 また、腹斜筋が硬いプレイヤーに無理な角度まで側屈をさせると、身体を痛めてしまう恐れがあります。結局、出来るだけストレスを感じるプレイヤーが減るよう、腹斜筋が硬いプレイヤーに合わせて判定を緩めたのですが、腹斜筋が柔らかいプレイヤーにとってはトレーニングとして不十分だという問題が依然あります。

側屈説明

 VRゲームでは、これまでの2D入出力のゲームとは異なり、空間的な自由度が格段にあがりました。それゆえに、音楽・リズムという時間方向に正確さが求められる要素と、フィットネストレーニングという空間方向に正確さが求められる要素を組み合わせるとき、プレイヤーの身体的特徴は深く考慮すべき要素となります。この解決策の提案は、後編で!

 次回後編では、
・VRならではのUI/UX
・楽曲のヒミツ
・白熱する「エンドレスモード」
・次世代のVRリズムフィットネスの提案

について書きます。ご期待ください!

後編はこちら▼

 本記事で紹介したGroove Fit Kingdom! は、SideQuestおよびSteamにて無料配信中です。VRデバイスをお持ちの方は是非遊んでみてください!

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