学校はすでに「破綻」している。教育のあり方を変えるために「部活動」を改革する必要がある|つくば市立谷田部東中学校・八重樫通校長インタビュー
※本記事は2022年2月発行のイマ.チャレ第3号に掲載されています。また記事中の学校・役職は取材当時のものとなります。
つくば市にある公立中学校、谷田部東中学校にて学校・地域・民間が協働した「地域部活動」の確立を目指す八重樫通校長に、改革に込めた想いとその苦労を伺った。
見えてきたのは、理想と現実のギャップに苦悩する教育現場の現状、そして現在起きているのは「部活動」の問題ではなく、日本の未来を左右する「教育全体」の問題であること。未来の日本社会のために、「校長」が担うべき役割とは何なのか。
つくば市立谷田部東中学校・八重樫通校長インタビュー
ーーー前任のつくば市立茎崎中学校長時代から、5年以上に渡って部活動の改革に取り組まれています。市民団体の設立やクラウドファンディングの実施など、様々な改革を実現されていますが、八重樫先生にとって改革を進める原動力とは何でしょうか。
■校長として教員が苦しんでいる姿を見てみぬふりできない
教員になった方々には日本の未来を担う子どもたちの将来を想い、「こういう教育がしたい」という熱い志が少なからずあると思います。
そのような教員たちが、教員としての本務以外に時間とエネルギーを取られ、「理想の教育と現状とのギャップに苦しんでいる状況」を何とかしたいという想いだけです。これまで、心身の体調を崩し夢だった教員という仕事を休職または辞めざるをえなかった人達を何人も見てきました。
学校経営の責任者である「校長」という立場にいる者として、そのような状況を見てみぬふりをすることはできなかったというのが率直な思いです。そのような思いから「学校現場はすでに破綻している」という強いメッセージを発信させてもらっています。
■本当に実現したいことは新しい時代に合った教育を提供すること
部活動改革が注目されていますが、私が本当に実現したいことは、学校現場を新しい時代に合った教育を提供できる場にすることです。
少し大きな話になりますが、学校とは「100年先の未来を創造する場所」だと考えています。これからの時代を生き抜き、社会をより良い場所に改革できる人材を育むことが学校教育に求められています。
今の学校教育は、その要求に十分に応えることができているでしょうか。私はこれからの時代にさらに必要になる能力として「問題解決能力」があげられると考えています。その「問題解決能力」を学校教育を通して身につけてもらうために、実行しなければならない教育改革は多岐に渡ります。
子どもたち、そして日本の未来のために、まずは教員の本来の業務である「教科教育」のさらなる改善にエネルギーを注ぐことが今の教育界に求められていることではないでしょうか。
■教育の在り方を改革するためにまずは「部活動」を改革する
現在の学校現場では課外活動である「部活動」に多くの時間がとられています。部活動の教育的価値やスポーツをすることの意義を否定する気はありません。
しかしながら、それを教員がほぼボランティアの状態で提供することが学校教育全体の視点から最適かということについては疑問を感じています。
よって、まずは現状の部活動のあり方を改革し、教員が本来の業務に集中できる環境をつくること、そして、もちろん生徒にとっても充実した「文化・スポーツ活動」が経験できる体制をつくることを目指して様々な取り組みをしてきました。
改革を進めていく中で、いくつもの困難に直面しました。中でも大変だったことは、生徒や保護者、教育関係者に改革の意義を理解してもらい納得してもらうことです。時には、非常に厳しい言葉も浴びせられました。
協力が得られないことや、相手にされないことも多々ありました。しかし、今では文部科学省含め教育界全体が「部活動」の問題に関心をもち、改革のために動き出したと感じています。この機会を逃していはいけないと強く思っています。
つくば市立谷田部東中学校が取り組む、部活動の地域移行の概要
学校・地域・民間が協働した「地域」部活動
■一番苦労したことは「コンセンサス」を得ること
ーーー改革を進める上での課題は何でしたか?
大きな課題は、①財源の確保、②責任の明確化、③指導者の確保の3つでした。特に、公立中学校ですと、新しい財源を確保することは非常に困難を極めます。そこで、DCAA(前頁参照)では、スポーツ活動に参加する生徒が受益者負担で会費を支払うという仕組みにしました。
これまで、部活動の指導に対する謝金が発生しなかったのは、教員がほぼボランティアのようなかたちで行われてきたからです。これは健全な形ではありません。責任の所在を明らかにするためにも、専門家による指導には適切な対価が支払われるべきです。
また、改革を進める上で一番苦労したことは、生徒や保護者、他の教育関係者のコンセンサス(理解と同意)を得ることでした。それぞれの立場で、真剣にこの問題を考えているからこそ様々な意見が出てくることは理解しています。
しかしながら、学校のリーダーである校長という立場で、現在の部活動のあり方を見過ごすことはできませんでした。
コンセンサスを得る方法は丁寧に「対話」を重ねていくことしかないと思います。そして、生徒が「生き生き」と活動できる環境を作っていくことです。保護者アンケートで、DCAAの活動に対して肯定的な意見が多く得られたことは、これまでの取り組みが受け入れられていることの証拠だと思っています。
■多様な「文化・スポーツ活動」を提供できる環境を地域一体で創っていく
ーーーこれからの時代の部活動の在り方をどうお考えでしょうか?
現在の仕組み(DCAAの活動等)によって部活動の改革が完了したとは全く思っていません。また、この仕組みが全国の全ての地域に適しているとも考えていません。まだまだ改革の途中ですし、それぞれの地域の状況によっても最適なかたちは違うと思います。
大切なことは、まずは学校教育が本来果たすべき役割をしっかり果たせる体制を創っていくこと。その上で、「部活動」といったかたちではなく、多様な「文化・スポーツ活動」を提供できる体制を地域と一体になって創っていく必要があると考えています。
■学校が動き出すしかない。まずは「部活動を1日減らす」提案から
ーーー最後に全国の先生へメッセージをお願いします
文部科学省や経済産業省含め社会全体が「部活動改革」へ向けて動き始めました。しかし、現場の改革が実現できるのは校長先生をリーダーとした学校現場しかないと考えています。
「行政がやるべき」「教育委員会が主導すべき」といった考えはもっともですが、それでは変わらないことを痛いほど経験してきました。その気になれば校長先生ができることは意外と多くあります。
もちろん、現在の仕組みを変えることには批判がつきものです。特に、部活動については、生徒と教員だけの問題ではなく、多くの関係者が様々な思いを持ちながら関わっています。
その方々とコミュニケーションを取りながら、一つひとつより良い体制を構築していくことは簡単な作業ではありません。しかし、批判されるからといって改革をしなくて良い理由にはならないと思います。
これからの時代に求められている資質やスキルは、まさにこの、「多様な考えをまとめて、より良い解決策を生み出し、実現していくカ」だと思います。子どもたちにその資質やスキルを身につけてほしいと願うなら、まずは教員がそのロールモデルになることが一番の教育ではないでしょうか。
このような話をすると、「何から始めたら良いでしょうか?」とよく聞かれます。その方々には「まずは部活動を1日減らすことから始めてみては?」と言うようにしています。
部活動を1日減らそうとすると、多くの関係者から様々な意見が出てくるはずです。それが議論のスタートです。議論を避けていては物事は前に進みません。未来の日本社会、そして現在、必死になって教育と向き合っている教員仲間のためにもその一歩を勇気をもって踏み出してもらえればと思います。
(終わり)
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