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寝ても覚めないという地獄

『寝ても覚めても』を読んだ。

誰かを愛して、誰かを失くして、それでも誰かがずっと側に、そして遠くに居るなんて地獄以外のナニモノでもないっすね。

なかなか特徴のある作風で、固有名詞を散りばめて、どうでもいい会話の中にクセのある口調を織り交ぜながら、時折思い出したかのように空気の抜けた一文を置いてくる、わかるかな。限りなく主観的でありふれた日常に主人公の偏愛性を見出した小説で、つかみどころがなく、実態すらなく、地から5㎝ばかし浮いて物語を読んでいるような感覚に容赦なく陥れてくる。

ストーリーも在って無いようで、読み手に能動性を全面的に委ね、そこに答えはなく、それどころか「問い」すらなかったような気がする。きっと「前の恋人と似た顔を持つ今の恋人」という状況において「似た顔」または「同じ顔」というところに然したるテーマは無く、もっと普遍的なもの。過去の強烈な思い出から逃れることはできないその地獄を描いているのではないか、なんて思った。

これを読み終わったらこの作品を教えてくれたあの人に連絡してみようかな、なんておもったけど、あの人も未だにそんな強烈な恋心に憑りつかれている理由が何となくわかった気がする。

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井出崎・イン・ザ・スープ
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