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よろしく愛して

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実りがない人生ならば、 長期展望にどんな意味があるのでしょうか。 どんな時でも、しょうがない人でありたい、 そんなしょうがない人を愛していたい。
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#夏

ノー・サマー・ロマンス

ノー・サマー・ロマンス

 「もう戻らない夏」にも、幾つかの種類がある。その中でもとりわけ僕の心に残るのは、「何も起こらなかった夏の日」だ。

 それは、仲間と過ごす汗と涙の青春でもなく、ひと夏の恋のようなメロドラマでもない。ただ、大学の授業をサボって過ごす平日の昼下がり、5畳半のワンルームに佇むベタついたテーブルの上にはビールの空き缶、微妙に中身が残るウイスキー・ボトル、近くの川が放つ磯臭い匂いとそれを運ぶ生ぬるい風。夏

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その景色はいつでも夏

その景色はいつでも夏

#夏に観たい映画 と言われても全く何も思い浮かばないのはなぜだか考えてみた。

僕にとって夏に観たい映画を挙げてみようとする時、まず最初に浮かぶ好きな映画を頭から引っ張りだしてみるのだけど、なんだかそれらは全て夏の風景の中にある気がする。逆に、冬に観たい映画を挙げようとする時、まず最初に浮かぶ好きな映画を引っ張り出しても、ほとんどが冬の景色に無い気がする。

しかしながら、強引に当てはめようとする

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蛍が飛び交う頃、きみは

蛍が飛び交う頃、きみは

僕は蛍をみたことがない。理由は二つある。まず、単純に蛍をみる機会に巡り合わなかったこと。そして、大学生のうちに一緒に蛍をわざわざ見たいと思える人に巡り合えなかったことだ。

毎年この季節になると、早稲田大学の近くにある椿山荘というホテルが、庭園に蛍を放つ「蛍の夕べ」という催しを行う。大都会の中心にそんな催しがあるなんてとても素敵だ。曇りがちな都会の夜にこそ、孤独な人々を照らす星が必要であるように、

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夏の魔物が消えてくれない

夏の魔物が消えてくれない

古いアパートのベランダ。

生ぬるい風にたなびくシーツ。

魚もいないどぶ川。

6畳のワンルームの窓を開けると、初夏の香りが舞い込み、僕をどこか遠いところに漂っているかのような気持ちにさせる。

夏には、不思議な力がある。

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五月下旬になると気温も上がり、夏らしい気候が訪れる一方で、梅雨の気配を同時に迎える。世間が5月病だなんて無理やり自分の無気力さを解釈し始める時期だ。

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