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「宮崎正弘の国際情勢解題」令和2年(2020)9月23日〜9月30日

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「宮崎正弘の国際情勢解題」  令和2年(2020)9月30日(水曜日)弐
        通巻第6656号  
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「任大砲」「中国のトランプ」こと任志強に懲役十八年。
   僅かな言論空間も閉鎖され、次は王岐山の政治生命がどうなるか?
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 9月22日、中国の裁判所は任志強に対して懲役十八年を言い渡した。
これで近未来に政変でもなければ、現在69歳の彼は87歳まで刑務所のなかで暮らすことになる。嘗て政治的迫害をモロともせずに好き勝手な発言ができたのは、うしろに王岐山がいたからだ。

 ということは、今度の任志強への重い判決の意味は、北京奥の院の権力闘争が、次の標的を王岐山に絞り込んだのかも知れない。天安門事件直後にトウ小平が趙紫陽を解任し、自宅軟禁としてように、これは一種のミニ政変である。

 任志強の父親は共産党大韓部で商務部副部長も務めた任泉生だ。文革中に陝西省延安に下放され辛酸をなめた。つまり任志強は「紅二代」の太子党であり、しかも権貴階級でありながらも、12年の軍隊経験を摘んでから実業界に飛びこんたという経歴は、それなrいに軍との繋がりの深さを意味し、この点ではファーウェイCEOの任正非と似ている。

 実業界における任志強は新華人寿保険取締役などを歴て、大手不動産の「華遠地産」董事長(CEO)。この頃から党批判を公然とおこない「任大砲」とも「中国のトランプ」ともいわれた。なにしろ任志強はSNS「微博」で習近平を莫迦扱いし、かならずこの権力体制を倒すと宣言したとされるが、このネットは閉鎖されているため、彼が正確にどういう発言をしたのかは明らかではない。習近平を激怒させたのは事実で、四月に任は拘束されていた。
 
 結審を前にした8月26日に習近平は、公安警察幹部三百名を集めて会議を行っている記録がある。次の焦点は王岐山の政治生命がどうなるか、にある。
     
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樋泉克夫のコラム 
@@@@@@@@       【道中国 2140回】           
 ──英国殖民地だった頃・・・香港での日々(香港22)

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 ここで人口の推移を見ておきたい。殖民地化直前の1841年は7450人。20年後の1861年には12万人ほど。辛亥革命が起こった1911年に46万人余。盧溝橋事件1年前の1936年が100万人の大台に1万人届かない99万人余。殖民地となって1世紀が過ぎた1941年に164万人。1936年から1941年の5年間の急増は大陸での戦乱に由るに違いない。かくて難民が大挙して流れ込む。

 戦争が終わり再び英国の殖民地に戻った1945年には65万人に激減。4年ほどの間に消えた100万人余は日本軍の統治を嫌って中国、あるいは東南アジアなどに流れた。

 ところが1年後の1946年が155万人だ。激増の100万人余は国共内戦を逃れ押し寄せた人々。このなかに、戦後香港経済の復興を担った浙江財閥がいる。彼らは共産党政権を嫌ったが、だからといって共産党中枢との人脈を完全に断ち切ったわけではない。商売になるなら誰とでも手を組む。中国が開放政策に転じカネ儲けに邁進するや、「愛国商人」の衣装を纏って?小平と手打ちして商売に励む。「利」の前には「理」は空念仏同然らしい。

朝鮮戦争が激しく戦われていた1951年には、200万人を突破した。
毛沢東が「百花斉放 百家争鳴」のスローガンを掲げて偽りの自由化運動をでっち上げた1956年に260万人。毛沢東が強行した無謀な急進的社会主義化政策の「大躍進政策」の失敗が明かとなり、中国全土が飢餓地獄に陥っていた1961年が318万人。この時期の急増を「大逃港」と呼ぶ。文革が開始された1966年が373万人。1951年から1966年までの間、毎年11.5万人余。どうやら1日平均で330人前後が流入していたことになる。
 1971年が405万人だから、おそらく私が香港で留学生活を始めた1970年前後に400万人を突破していたのだろう。毛沢東の死と共に文革に幕が引かれた1976年が445万人で、対外開放が始まって2年後の1981年に500万人を突破して516万人。大陸で人民公社解体措置が始まって2年後の1984年が536万人である。

 特区政府が公表している最も新しい統計では2019年末時点で750万人だから、香港の人口は1841年(7450人)から現在までの170年ほど1000倍強に膨れ上がったことになる。加えて70年代初頭から数えて半世紀で400万から750万にほぼ倍増である。やはり「木は動かすと死ぬが、人は動かすと活き活きする」らしい。

もちろん自然増もあるだろうが、大部分は170年ほどの全期間を通じて戦乱を逃れ、共産党を恐れ、独裁を拒否し、自由を求め、さらには一攫千金の夢を描いて中国から押し寄せてきた無告の民たち。香港は中国が抱えた矛盾が集大成され、希望と絶望が凝縮されたような場所でもある。かくして癒されることのない不安が暴動の引き金を引く。

1956年10月、難民や貧困者の専門収容施設が完成した直後の李鄭屋邨で、住民が掲げていた国民党旗を殖民地政府当局が撤去したことから混乱が発生した。当時、蒋介石を支持していた難民の多くは貧しい生活に不満と不安を募らせていた。

大陸で文革が始まった1966年の復活祭前後、尖沙咀の先端と香港島を繋ぐ天星小輪(スター・フェリー)の料金値上げに端を達した暴動が起こっている。
 極め付きは1967年5月、大陸で猛威を振るっていた文革に煽られた香港左派勢力が起こした「香港暴動」──左派用語では「反英抗暴」──であった。

1970年11月に九龍側から初めて香港島を眺めた際、先ず目に飛び込んできたのは香港島の中央部に聳える中国銀行ビルの頂点に翻る巨大な五星紅旗であり、壁面の「毛主席万歳」の巨大な文字だった。
それらに文革の余波を感じながら目線を下ろしてくると、たった1文字の巨大な「ぢ」の看板。痔の漢方薬専門で知られたヒサヤ大黒堂の広告である。

「毛主席万歳」VS「ぢ」・・・いつしか知らぬ間に、共に香港から消えていた。
     
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 ──岐路に立つ日本の「平和論」。欺瞞のヘイワケンポウで国を守れるのか?
 ──日本は世界史でも稀な泰平の日々を送ってきたが、その代償とは?
 ──縄文時代の一万年以上、日本には戦争がなかった
 ──弥生時代に渡来人が混入してから、国内騒乱、権力をめぐる争いがおこった
 ──戦後、日本からサムライ精神は去勢された。闘わない民族に明日はない 
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(読者の声1)「とびっきりの講演会」のお知らせ

演題 「つくられた最長政権─自公連立政権を鑑みる」
講師 元国務大臣 石井 一 先生
日時 令和2年10月20日(火)PM6:00~
定員 先着80名(要予約)
会場 神奈川県民サポートセンター3F 304号会議室
(JR横浜駅西口徒歩3分ヨドバシカメラ裏手)
問い合わせ先 045-263-0055
※ コロナ対策の為マスク着用厳守

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(読者の声2)9月29日は反中共デーでした。令和二年9・29反中共デー東京大会が本日、開催されました。
 中国共産党が支配する中華人民共和国すなわち中共は、我が国の敵です。
 <中華><共産><反日>の悪魔思想は撃滅しなければなりません。
 中共との思想戦争を広く呼びかけるため、本年も午前11時から東京都港区の三河台公園において決起集会、正午には行進を出発、渋谷区の広尾公園まで歩き、その場にて総括集会を行いました。参加者は老若男女167名でした。
「日中国交を断絶せよ!」「中国共産党を打倒するぞ!」「共産主義を撲滅するぞ!」「尖閣諸島を守れ!」「習近平来日反対!」「台湾の独立を支持するぞ!」「香港の自由を守れ!」「南モンゴル、ウイグル、チベットの人々と連帯するぞ!」と、声高らかに叫びながら、中共大使館の周辺を行進いたしました。
 反中共デー闘争は超党派の運動であり、東京だけではなく、北海道(札幌)でも、中部(名古屋)でも、関西(大阪)でも、九州(福岡)でも展開されています。
 銃砲などの兵器を持たない僕ら民間人が思想戦争で勝つためには、草莽の志士として大和魂を武器として戦わなければなりません。
 力およばず斃れることになっても、力つくさず挫けることなく、勝利の日を目指して、奮励努力いたします。
   (三澤浩一)

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(読者の声3)京都大学の上久保靖彦先生と文芸評論家小川榮太郎さんによる新著、『新型コロナ』(ワック)を拝読しました。
 新型コロナへの対処法は国によっててんでんばらばら、WHOも右往左往、日本の優れた専門家も自分の蛸壺から弾を打つだけ、という現状、「ウイルス学」がまだ若くて共通言語の基盤が弱い、ということでしょうか。
 そこのところの壁を、臨床体験から免疫学遺伝子研究まで幅広くマスターされた上久保先生が、みごとに突破されている、といえるのではないか。ゲノム分析に加えて疫学的アプローチを駆使して、病勢の地域別将来予測までつかみ、学者としてのリスクを負ってまで早い段階で公表して、世に警鐘を発せられています。
 小川さんを通じて上久保先生グループの警鐘は、政府中枢に伝えられ、中枢ではおおむね理解され最低限、政策にも反映されたようなものの、専門家世界では共通言語が熟していませんから、政府の方針も奥歯にモノがはさまって、切れ味を欠くことになります。
 上久保「正直にいうと、武漢が騒がずに通常医療で対処していたら、世界中でこんな現象は起こらなかったと思いますよ。」p152
 武漢の騒ぎの原因は、つきつめると専制政治の専横と、これへの不信感です。
元凶のチャイナは涼しい顔をしてひとり商売でもうけているようで、まさに「最悪中の最悪」。
(石川県、半ボケ)


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「宮崎正弘の国際情勢解題」    令和2年(2020)9月30日(水曜日)
        通巻第6655号  <前日発行>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~中国、SMICに加えて半導体メーカー育成に政府補助金
  9335社が名乗りをあげて、面妖な企業まで半導体に参入するらしい
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 株式取引の多くがインサイダー取引の中国で、政府が補助金を出すとなると、鉄工所から家具製造メーカーまでが半導体製造に名乗りをあげた。その数、じつに9335社に及ぶ。ま、いかにも中国らしい風景だ。

 学術研究のプロジェクトで目論見書を作成し、ペーパーが合格して、いざ補助金が出るとマイカーと娘にピアノを買った大学教授がいた。
 「そんなことしていいの?」
 「莫迦か、これは俺の腕の見せ所じゃないか」。

 SMIC(中芯國際集成電路製造)は、米国の制裁を受けたファーウェイがインテル、クアルコムばかりか台湾のTSMCから半導体の供給を受けられなくなったため、その代替供給源メーカーとなる。だからSMICの株価は跳ね上がった。

 ところがSMICが製造している半導体は、よくても一世代前のもの、多くが二世代前の半導体でしかなく、中国が年間外国から輸入してきた半導体の総額は3000億ドルに達していた。潤った筆頭は台湾のTSMCだが、以後ぷっつんと切れて、ハイテクの軍事部門の半導体工場はアメリカへ移る。
 この米中激突の半導体戦争のため、日本では上場を予定していたキオクシアが株式上場を見送った。

 中国政府は次期半導体開発のため、政府補助金を出すとした。次期ハイテク競争のキーは技術力、開発研究費用の多寡、そのための政府支援体制の構築である。この話に飛びついて、じつに9335社が名乗りを上げた。殆どが面妖な中国企業である。

 というのも広東省政府が7億ドルを用意したベンチャーは、早々と倒産した。
 四川省成都市政府が1億ドルを用意して、政府が30億ドルの補助をなしたタコモ南京ホールディング社系の「グローバル・ファンドリー」は八月に倒産した。


 ▼日本の半導体メーカーは周回遅れに、製造装置メーカーも苦境に

9月15日からファーウェイへの半導体供給は原則禁止された。ところが例外がある。
旧世代レベルのパソコン向け半導体はインテルならびにAMD(アドバンスド・マイクロ・デバイス)などが申請し、許可された模様である。
クアルコムもスマホ用の旧世代半導体は対中輸出を申請している。ただしSONYが画像センサーのファーウェイ供給をやめ、またキオクシアはフラッシュメモリーの供給をやめた。

 日本企業の影響度はかなり深刻で、問題は半導体よりも半導体製造装置にある。
 規制前の8月末までに、日本は半導体製造装置を合計で27億ドル弱、輸出している。この中には東京エレクトロン(エッチング装置、成膜装置)、SCREEN(洗浄装置)、SONY,ニコン、キャノン(転写電光装置)などは、これからどうなるのか、米国の規制の具体的な発動を見極める態勢にある。

 一方でトランプ政権は、半導体に250億ドル(2兆6000億円)の補助金をつけ、中国勢の台頭に対抗する方針を固めつつある。
 中国の補助金漬けは悪名高いが、地方政府ファンドが530億ドル、中欧政府系ファンドが205億ドルと合計735億ドルもの巨費を投じてきた。

 米国はペンタゴン予算から100億ドルを割き、さらに連邦政府が150億ドルを向こう五年間に予算化して、次世代半導体の開発強化に充てる。やみくもな政府補助金はWTO違反に問われかねないが、もはやそんなことをいっている場合かということだろう。

 政府補助金と育成予算によって、嘗てはMITI(通産省)が君臨した。米国が悪名高き日本のMITIと攻撃したのも昔の物語になった。
日本はこのような大事なときに、政府資金の効率的分配が出来ず、ますます技術力で台湾、韓国、そして米国に水をあけられている。
 産業政策の抜本的見直しが必要である。
     
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  書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~カンボジアを旅行した三人が別々の角度から分析
  タイ、ミャンマー、ベトナムで何が起きたのか?

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江崎道朗、福島香織、宮脇淳子『米中ソに翻弄されたアジア史』(扶桑社)
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 気鋭の三人に版元の女性編集者とフリーライター、合計五人のカンボジア珍道中。だが、歴史と政治的考察が前面出でて観光気分は本書には殆どない。
 カンボジア観光の定番はアンコールワット、「東洋のモナリザ」、そしてキリングフィールドの現場跡だが、このチームは魔可不可思議なスポットにも足をのばした。団員は女性が三名だから料理への気配りもあり、珍しい写真が多数あるのだが、撮影者の明示がないのも、チームワークの良さからか。
 カンボジア、ラオス、ベトナムはフランスの植民地として搾取され続けた。ところが旧宗主国への恨みより、カンボジアはベトナムを憎み、ベトナムはカンボジアやラオスを侮蔑し、そして大国間のご都合主義から緩衝地帯として辛うじて独立を保ったと自慢するタイの、その面妖な心情の裏側を観察する。
 いま、この三ヶ国へ忍び寄り、いつの間にか政治的影響力を構築して、共産主義の浸透工作を展開するのが中国である。
 なにしろ千年も前から華僑の先祖らは東南アジア各地に深く根を下ろし、子孫を増やし、金融と物流を握ってきたのだ。
 その華僑は「どこまで中国人か」という設問も、現代的である。
 アセアン十ヶ国と未加盟の東チモールを加えての東南アジアで、何が起こっているのか。日本の大手メディアが表層の動きしか伝えないため、読者はもっと深層に存在する真実を知りたいと思うだろう。
 三人はそれぞれ問題意識が異なり、それゆえにものの見方、観察の角度がことなる。
 受け持った分野は宮脇女史がアジア歴史全般をダイナミックは筆致で活写し、福島さんは当該国の中国との関係(とくに各地に古くから根付いた華僑の経済支配の実態)、そして江崎さんがカンボジア独立戦争と日本の関わりを振り返るという構成になっている。
 シアヌークは戦後、なぜ日本に戦後賠償を請求しなかったのか。それは日本軍人に親切にされた恩だったと江崎氏は秘話を挿入する。
 
 最終章では三人の鼎談が展開され、現在進行中のアジアの政治劇などが闊達に語られる。
 本書を通読しながら評者(宮崎)は敢えて、この本がカバーしなかった土地や事柄の補完をするとすれば、まずはカンボジアのシアヌークビルのことである。
 美しい海、しずかなリゾートとして、バックパッカーや西洋人に人気のあったシアヌークビルは、いつしか中国資本に経済的に「侵略」されていた。
 カジノホテルが五十軒、高層マンションがニョキニョキと林立し、あちこちが普請中だから道路がぬかるみ、埃だらけで不潔な町になった。とりわけ重慶マフィアが入り込んで、治安が悪化し、さらにはハッカー拠点、オレオレ詐欺の電話基地にも化け、おそらく三十万人の中国人が棲み着いている。
 評者がとまった波止場に近いホテルは、英語名だったのでうっかり予約したが、100%華僑資本、宿泊客は全員が中国人だった。

 ▼カンボジア周辺の国々でもチャイナ異変
 
 ラオスの中国との国境は新幹線工事中だが、ここもカジノホテル、そして高層マンションの広告を見ると売値が人民元。ラオスの中に中国がある。
 ラオスの外貨準備は僅か10億ドル。三年以内に償還期限の来る債務は50億ドル。債務全体は中国の立てたダムや、新幹線プロジェクトなどで合計100億ドル。国の破産は目に見えているが、中国との交渉は担保をめぐる話し合いであり、電力ならびに送電企業をラオスは中国企業の売却せざるを得なくなった。
 典型の「債務の罠」である。
 ベトナムとて中国と戦争をやって、アンチチャイナ感情が根強い筈なのだが、いまでは中国資本を歓迎し、観光客をもてなし、考えてみればベトナムは一党独裁、執権党のトップは共産主義に染まっている。
 ベトナムにはクチというベトコンの地下要塞があって、いまや観光地となっているが、監獄島として悪名高いコンダオ島すらが監獄跡も観光資源に化けた。そしてかの拷問の地が、ベトナム「最後の楽園」を謳うリゾート地となっている。数年前、高山正之氏らと、この島を訪れたが、海水浴客で一杯だった。
 激戦地ディエンビエンフーにも行ったことがあるが、戦争博物館を訪れる人は稀で、あの独立戦争は風化していた。
 ミャンマーでも、スーチーが西側に制裁され孤立している隙に、やっぱり中国はぬけぬけと入り込んできた。西海岸のチャウピューに大工業団地をつくり、港を近代化すると宣言しているが、評者が取材したときは工事はまだ始まってもいなかった。大看板だけが立っていたが、ここはロヒンギャ居住区だったのだ。 
 そうこう考えながら本書を読み終えた。
    
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 ──岐路に立つ日本の「平和論」。欺瞞のヘイワケンポウで国を守れるのか?
 ──日本は世界史でも稀な泰平の日々を送ってきたが、その代償とは?
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(読者の声1)月刊HANADAの今月号に中国に嵌められてうっかり渡航したらスパイ容疑で捕まった在日華僑の手記が出ています。狙いは王毅だったのではないか、と岡山県華僑総会幹部の劉氏は吉村記者のインタビューに答える形ですが、事件から四年も経って、やっと口を開いたのですね。
 さて取り調べられた裏の狙いは王毅外相にあった由ですが、この裏の意図をいかにご覧になりますか?
   (SS生、神奈川県)

(宮崎正弘のコメント)王毅が望外の「国務委員」になれるか、どうか。その瀬戸際でしたから身元調査? しかし、王毅の強硬発言の数々は、とても国際常識の外交水準ではない、あまりにナショナリスティックは物言いですが、さて、王毅は国際社会に向けての発言ではありません。あれは習近平に向けての発言を繰り返しているのです。身の保全のためでしょう。風貌も仕草も、まるで京劇俳優です。


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「宮崎正弘の国際情勢解題」  令和2年(2020)9月29日(火曜日)
         通巻第6654号  
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~中国共産党、「5中全会」を10月26日から四日間
  向こう五年間の経済路線を策定し、「二つの循環」を決めるそうだが。。
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 中国共産党は第十九期第五回中央委員全体会議を、10月26日から29日の四日間、北京で開催すると発表した。
これは9月28日に開催された政治局会議で決定した。

 絶妙なタイミングである。
米国では大統領選挙が第三回目のテレビ討論を終えて、投票日までの熱気の期間であり、外交は空白に近くなるからだ(第一回目のテレビ討論は日本時間の明日)。

 西側から見ると、習近平政権は経済不振、コロナ災禍、豪雨と蝗害、これらのマイナス要素に加えて米国と激突、EUの対中不信拡大、シルクロートの蹉跌、外貨準備払底が加わり、明日、「解任劇」があっても可笑しくないと予測されるのに、意外にしぶとく習政権は権力基盤を固めた。

 ウィグル問題が西側の「人権」運動を刺激し、とくに欧米は中国批判を激化させているが、ローマ法王は一切の中国批判をせず、むしろポンペオ国務長官との面会を断った。ローマ法王への不信と懸念が高まった。

 メルケルは重い腰を上げて中国との距離を置き始めたかにみえたが、フォルクスワーゲンは新たに1兆8000億円を中国の三つの合弁工場に投資し、EV開発に乗り出す。

 対中ハイテク輸出を制限し、米国は中国との距離を明確に置いているときに、かのテスラは中国に新工場を建設している。だからトヨタもホンダも中国から引き揚げようとしないのだ。

 習近平の権力基盤は第一に軍上層部を固めたこと。第二に香港問題で世界に孤立したことが、却って国内団結ムードを呼び込み、長老たちの習批判が止んだこと。第三に必死の資金投入で、いまのところ人民元暴落、不動産と株の市場崩壊を抑えていること等による。
 これらの動きから判断して5中全会を強行できるとしたのだろう。
     
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  書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~世界史の闇の司祭、チャーチルの実像に迫る
  巨悪の戦争屋、野心家、冷徹で冷酷な打算だけの人生観

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渡邊惣樹『英国の闇 チャーチル』(ビジネス社)
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 副題は「世界大戦を引き起こした男」。
セルビアにおける銃弾、暗殺事件を切っ掛けに欧州での戦争は不可避だったが、地域紛争で終わるはずだった。
オーストリア皇太子夫妻は、サラエボ訪問を始めたときから町の様子の異常を認識していた。
なぜか警備が少なく、町が異様な敵意に満ちていたなかで、行事をこなした。
 橋のたもとのビルの角で、偶然にテロリストに発見され、撃たれた。いま、この場所は『観光名所』となって、評者(宮崎)も、ここで『記念撮影』をしたことを思い出すのだが、この銃弾が、なぜ大規模な第一次世界大戦になったのか。
 世紀の陰謀の主人公はウィンストン・チャーチルだった。
 渡邊氏は多くの資料や、評伝のみならず近年になって初めて公開された関係者の日記やメモから傍証してゆく。
 なんともまぁ、しかしながら英国の貴族階級という特殊な階層社会では、不倫大好き、いや不倫はスポーツであり、文化なのだ。それも男性よりも女性が積極的なのだから、日本的倫理からすれば理解を超える。
 「英国の社交界では不貞関係の詮索がお楽しみの一つでもあった」(64p)。
 チャーチルの父親もそうだが、母親ときたら、百人を越える不倫の相手がいて、父親が急逝すると若い貴族と再婚するほど、日本的価値観からいえば淫乱だった。
 父親は政治家として名声を博し、ロンドンの社交界でも大物だった。
 チャーチルは、母親譲りなのか、次々と恋人をつくり、しかも、その度に財政に恵まれるという強運の持ち主だった。台所は豪奢な生活を維持するための綱渡りだったが。。
 したがって、この英国の支配階級の道徳観、人生観、世界観、結婚観が分からないとチャーチルが分からないのである。
 これまでの私たちの理解では、チャーチルは「FDR、スターリン」とならぶ世界史の三悪人くらいにしか認識してこなかった。
またデブ、高価な葉巻愛好家、英国軍人にしては背が高くなく、ワイン好き、例外的に文章がうまいということくらいしか知らなかった。
 若き日のチャーチルは精悍で、痩身で、神経質そうな風貌をしている。陸軍士官学校では砲撃、騎馬に優れていた。ぎらぎらしたチャーチルの野心は一日も早く、派手な軍功を立て、勲章に輝き、それをバックに政治家になることだった。
 こうした人格形成を重視する筆者は、チャーチルの全体像に迫るため両親の結婚にまで時代を溯り、しかも両親から親戚、そして友人達の愛人関係の相関図に深く踏み込んで、当時の英国の社交界を活写するところから始まる。歴史の裏面である。
 つまり1914年のバルカン半島の銃弾にいたるまでに、本書は浩瀚なページの三分の二が費やされるという、類書にはない構成となっていて、それも冗漫な説明ではなく、一気に読ませる筆力に、引き込まれてしまった。
 チャーチルは乳母に育てられ、名門ハロー校に入学するが、落第生扱いされ、陸軍士官学校でも成績は芳しくなかった。
チャーチルは語彙が豊かで、例外的に表現力が卓抜だった。むしろ作家の資質が勝っていたようだ。
 チャーチルは政治家になるために、第一に軍功を建てることに専念し、自ら戦場を志願してインド赴任中にもスーダンや南アへ行くのである。しかし軍功による勲章ではなく、南アで捕虜となり、収容所を脱獄し、『ヒーロー』となるのである。
 しかも戦争従軍記を、新聞社、出版社と契約して、ベストセラーを量産するという側面を持ち、これらを背景に政治家へ転身した。
 しかしチャーチルの戦記はフェイクに近く、個人的感情が強く、フーバー第三十一代米国大統領は、「チャーチルの著作は信用できない。著作の殆どを無視する」といって嫌った話は有名だろう。
 やがて政治家として、父親の友人たちや、そのコネクションから得たユダヤ人人脈、そして母親の不倫相手のコネも徹底的に利用して、出世階段を強引に這い上がったのだ。
しかも世話になって当選できた政党を捨て、途中で保守党を裏切り、野党が与党になる勢いの時に所属政党を変えた。
 強運が続き、チャーチルは若くして通産大臣、そしてまわってきたのが海軍大臣だった。陸軍出身者が海軍のトップに?
 しかしチャーチルは「海軍狂」になった。
戦争指導のポジションを得て、戦争をするか、しないかの決定権を首相をさしおいて軍を首相の裁断も得ずに派遣して戦闘の既成事実をつくり、開戦へ英国を追い込むという離れ業をやってのけるのである。
 「第一次世界大戦はヨーロッパ各国が夢遊病者のように始めた戦い」(歴史家クリストファー・クラーク)。
こういう解釈が一般的だが、渡邊氏の、歴史修正主義の立場からの解釈は異なる。
 「ヨーロッパ大陸の戦いは不可避であったが、大陸だけの限定戦争で終息できた。それを自己中心的な外交を展開した上で参入した英国があの戦いを世界戦争にした」のである。すなわち「ウィンストン・チャーチルが何としてでもドイツ海軍を潰し、英国海軍覇権(大英帝国覇権)を墨守すると決めたから起きた戦争」なのである(346p)。
 これがチャーチルという英国の闇が産んだ『英雄』の実像だった。
    
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宮崎正弘『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社、1650円)
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 ──岐路に立つ日本の「平和論」。欺瞞のヘイワケンポウで国を守れるのか?
 ──日本は世界史でも稀な泰平の日々を送ってきたが、その代償とは?
 ──縄文時代の一万年以上、日本には戦争がなかった
 ──弥生時代に渡来人が混入してから、国内騒乱、権力をめぐる争いがおこった
 ──戦後、日本からサムライ精神は去勢された。闘わない民族に明日はない 
https://www.amazon.co.jp/dp/4594086195/
      
   ♪
(読者の声1)中共紅二代の反乱の意味するもの
1. 紅二代の体制批判
ネットを見ていたら紅二代の中共党学校の女性教授が、習近平批判の罪で、処罰され年金が停止されたという。この紅とは共産政権の成立に貢献した毛沢東の家来のことで、紅二代はその二代目の子孫である。
2. 社会の深層の変化
紅二代は、独裁政権から生活、就学、就職などあらゆる特権を世襲で与えられている。それなのに、この紅二代の女性は中共の個人独裁を批判し、体制の民主化を主張している。これは一般大衆だけでなく権力層にも寛容な普通の人間の発想を持つ人が出てきたということだ。これがルボンのいう社会の深層の変化である。誰も止められない。
3. 習近平
習近平も紅二代だ。彼の父習仲勳は周恩來総理の下で副総理を務めた高官だ。しかし1963年に内部の権力闘争に敗れ失脚した。これにともない関係者数千人が処罰されたという。家族も同罪で習近平少年も田舎に追放されたので、1976年に毛沢東が死亡し父親が復権するまでろくな教育も受けられず散々苦労した。
だから、習近平は権力闘争の恐ろしさを骨の髄まで知っており、紅二代でも時代の流れに別の感慨をもっているのだろう。それが毛沢東時代への復帰路線としたら救われない。大混乱になるだろう。歴史の時間を戻すことに成功した独裁者は毛沢東を含め人類史上誰もいないのだから。
4. 老子
老子は大きな変化も後になってみると、小さな兆しがあったことが分ると記している。中共の変化は不可避だ。今後の予想だが、共産党勢力が民主勢力に権力を禅譲するのか、主要軍管区間の対立になるのか、全く不明だ。とにかくヘラクレイトスの「万物は流転する」は人類の大原則だ。日本は極東の大混乱に備え今のうちに国防を固めることだ。
   (落合道夫)

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(読者の声2)宮崎さんの最新刊『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社)を読了しました。広範囲な歴史エッセイですが、縄文時代の一万年以上も日本は平和だったが、弥生時代の渡来人が戦争を持ち込んだという説。さらに日本の常識である『平和』が、世界の常識である『和平』と、その巨大なパセプションギャップに関して、若泉敬さんとハーマンカーンノやりとりなど、じつに面白く有益でした。
 この方面のお仕事をもっと増やしていただきたいと思います。
   (TY生、千葉) 


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「宮崎正弘の国際情勢解題」 令和2年(2020)9月28日(月曜日)
         通巻第6653号  
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~南モンゴル(内蒙古自治区)。小中学校の授業でモンゴル語をやめる
習近平、標準中国語に変更を強制し「中華民族の復興」をやり遂げるとか
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 南モンゴル(内蒙古自治区)は日本の敗戦のどさくさに、中国が侵略した。多数のモンゴル人は迫害され、漢族の入植が進み、気がつけばモンゴル族が少数に転落していた。
中国共産党の圧政によって数十万の犠牲がでた。

 チベットでは120万人が犠牲となり、ウィグルでは現在100万から200万人のウィグル人が強制収容所において「職業訓練」と称する洗脳教育を受けている。ウィグル語が消される懼れがある。言語は民族の文化、伝統を守る重要な手段である。

 南モンゴル(内蒙古自治区)では、九月新学期から小中学校の授業に使われてきたモンゴル語をやめ、標準中国語に変更するとした。
 これは中華統一を掲げる習近平の強制的な文化政策の現れだが、モンゴル族から言えば、重要な民族のアイデンティティが抹殺されることになる。
 たちまちSNSで諸外国に伝わり、ワシントンではモンゴル移民らが集会を開催して反対の声をあげた。現地でも住民の抗議デモ、授業のボイコットが続き、相当数の逮捕者がでた。

 2022年までを目標にモンゴル族が通う民族学校で「国語」など3科目の授業を中国語で教え、教科書そのものも中国語に改編してしまう。ただし北京政府は「3科目以外は教科書を変更しない。バイリンガル教育は維持される」と釈明している。

 言葉を失うと民族は文化を消滅させられる。
 げんにチベットの若者たちで、四川省や青海省の都会で暮らすチベット族は中国語しか喋れない。

 筆者自身も四川省のチベット族居住区で体験しているが、チベット族の若い女性らに聞くと「両親は喋ってますが、私たちは(チベットの)字も読めないし、まわりはすべて漢字ですし、教科書も」とあっけらかんとしている。
この悲劇的な現実を帰国後に、ペマ・ギャルポ氏と話していたら、悲しい顔をされた。

 米国のインディアン居住地には多くの遺蹟が残り、いまでも電気もガスも水道もない集落を形成し、文化と伝統を守っている。ところがかれらは「言葉を失った」。英語しか話せず、先祖の言葉は消えている。
 そして集落の長が、日本からのテレビ取材斑とのインタビューに応じ、こう言った。
 「あなた方は自分たちの言葉で生活しているのでしょう?」

      ♪
樋泉克夫のコラム 
@@@@@@@@  【知道中国 2139回】      
 ──英国殖民地だった頃・・・香港での日々(香港21)

 香港版国家安全法などと言う物騒な法律などは夢想すら出来なかった当時である。今では考えられないような奇妙なまでに工夫された商売──長閑で、トンマで、それでいて何処か哀愁を帯びていた──に、時にお目に掛かったものだ。
あの程度の商売で、どれほどの収入が得られたのかは不明だが、兎にも角にも商売として成り立っていたのだろう。

 なによりもお世話になったのは、やはり京劇のカセット・テープ屋だった。
 京劇にのめり込み、年中無休で京劇小屋に通うようになった経緯については、いずれ書き留めておかねばならないが、いまは京劇カセット・テープ屋通いに留めておく。

 ある日の昼休みだった。研究所の廊下を歩いて居ると、どこからともなく京劇が聞こえてくる。戯迷(京劇狂い)の哀しいサガというのか。歌であれ楽器の伴奏であれ、京劇が聞こえてくると心がウキウキし、音の方向に足が自動的にロックオンされてしまう。まるで「ハーメルンの笛吹き男」に誘われるネズミのように進むと、事務員の洪さんがカセット・テープで京劇──それも文革で消えたはずの古典京劇──を、さも嬉しそうに聞いているではないか。

 京劇の基本は歌劇であるから看るのではなく聴く。そこで基本的には「看戯」と言わずに「聴戯」と表現する。
 当時、香港でも文革の影響を受け京劇と言えば革命現代京劇のレコードであり、ビクトリア公園の向かいに店を構えていた老舗レコード店の「楽聲唱片」でも、古典京劇のレコードの入手は困難だった。
なぜ洪さんが文革で打倒された名優たちのカセット・テープを持っているのか。こういう珍品を密かに売っている所がある。紹介してやるから行ってみないか、と。一も二もなくお願いし、教えてもらった住所を訪ねた。
 佐敦道に面した富都酒店(ホテル)の並びの安っぽい老朽ビルの高層階だったように記憶する。ドアの前に立って呼び鈴を鳴らす。暫くすると足音がして木製のドアが開けられた。鉄製のドア越しに新亜研究所の洪さん名前を出して来意を告げると、二重になった鉄製のドアを開けて中に招き入れてくれた。ウナギの寝床のような細長く狭い部屋の壁には、役者名と演目が手書きされたカセット・テープが並んでいる。

 馬連良の『借東風』、周信芳の『肅何月下追韓信』に目が吸い寄せられる。見当たらなかった譚富英の『空城計』と李多奎の『釣金亀』を注文して、その場を後にした。持ち帰って耳を傾ける。
文革で非業の死を遂げただけに、もはや聴くことなどできないと思っていた名優の絶唱と思えば、心に染み入らないわけがない。だが、時々挟まる異音が気になる。雑音ではなく、どうやら中国のアナウンサーによる詳細な解説のようだ。

 その後、何回か通って分かったことだが、中国で放送された古典京劇番組を録音し、それをダビングして売り出した。戯迷の間に噂が広がり、結構な商売になっているという。それにしても著作権もヘッタクレもない不思議な商売である。

文革で古典京劇は封建社会の残滓として完膚なきまでに批判され、兵士や労働者を主人公にした革命現代京劇以外は中国からは消え去った──当時、日本で雨後の筍のように出版された文革関連本では、こう説かれていた。
だが、しがないカセット・テープ屋で知る限り、そうではなさそうだ。日本で喧伝されているほどではなく、適当に息抜きしながら文革が行われていたということだろうか。これを言い換えるなら、やはり日本人の中国理解は日本式に厳格で一辺倒で短兵急に結論を求め過ぎるように思う。

 自転車で回って顧客の車を掃除する洗車屋、荷車に古本を並べた移動販売の古本屋、飲茶の客の間を回って馬票(馬券)を売りつける馬票屋など・・・世界の金融センターへと変貌するなかで、いつしか香港は彼らの生息を許す「空き地」を失っていたようだ。
     
  ☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆ 
 宮崎正弘の新刊『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社)
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絶賛発売中!
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 ──日本は世界史でも稀な泰平の日々を送ってきたが、その代償とは?
 ──縄文時代の一万年以上、日本には戦争がなかった
 ──弥生時代に渡来人が混入してから、国内騒乱、権力をめぐる争いがおこった
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(読者の声1)日本人の報復感情について考えてみました。
小生も宮崎先生同様にTVを観ない主義なので昨今の人気TVドラマ「半沢直樹」も観た事はないが新聞の記事によれば大人気という。どうやら主人公が口走る「培返し」が人気の秘密らしい。
「培返し」とは、理不尽に耐えてきた人間が発する報復感情の言葉であろう。そこで日本人の、その報復魂について論じてみたい。
 12月ともなれば、赤穂浪士の討ち入りの日に合わせ忠臣蔵の映画やTVドラマが相変わらずの人気である。これも理不尽に切腹させられた藩主の無念を晴らすための忠臣達による仇討ち、つまり報復であった。
 江戸時代には、敵討、または仇討ちは、直接の尊属を殺害した者に対して私刑として復讐を行うことを公認した制度である。下手人が藩外へ逃げれば、自藩の警察権は他藩へは及ばないため止むを得ない措置だったのだろう。犯人は大抵は人込に紛れ易い江戸へ逃げ込むことが多く、追っ手も江戸で犯人捜しをすることが多かったようだ。鬼平犯科帳にもそんな話がよく出てくることはファンならご存知であろう。
 さて、日本政府は、敗戦直後の昭和21年3月6日、GHQの英文原案をもとにした「憲法改正草案要綱」を公表させられた。白洲次郎は、翌7日付の手記に「敗戦最露出の憲法案は生る。『今に見ていろ』という気持ち抑えきれずひそかに涙す」と書いている。
 原爆投下と主要都市への焼夷弾投下による無差別殺戮への報復を密かに誓った日本人は、白洲と同様に敗戦直後には数多くいた筈である。
 敗戦後75年、現在の日本人は果たしてどうだろう。
 西鋭夫は、ドイツ人の復讐感情について、当時の事情を語っている。
「第一次世界大戦は1918 から1919年に終わるのですが、そのときにイギリスやフランス、特にフランス連合軍がドイツにもうものすごい、絶対払えない賠償金をかけて。それに重工業、機械を全部取り上げて。ドイツでは餓死が出るくらい、貧困のどん底に落ちるわけです。それで、ドイツの国民の中に共通した1つの心は「必ず復讐する」
 英仏が過酷な賠償支払いを独に求めたことがナチスドイツの台頭をもたらし、ヒトラーは国民から選挙により正当に選出されたのである。ここからドイツによる報復戦争、つまり第二次世界大戦が始まったのである。
 しかし第二次世界大戦敗戦後のドイツは日本同様に、すっかり報復感情を失ってしまったのだろうか。
 話を日本に戻すと、GHQにより押し付けられた米製憲法と教育制度、言論統制により日本人は完全に洗脳され、去勢されてしまい、報復魂まで失ってしまったのではないか。
 50年後、100年後にも「培返し」だと叫べる日本人は果たしているのだろうか。
(ちゅん)

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(読者の声2)貴誌9月26日付通巻第6652号「読者の声」で、私は、辛坊治郎なる人物による、「菅首相と竹中氏に共通しているのは「努力が大切」という意識と「怠け者は嫌いだ」ということです」という見方について批判的に紹介しました。
 物事には、いろいろな見方があることは当然のことで、一つの見方を一方的に非難、否定することは慎むべきでしょう。
 秋田から「上京」した菅首相は、企業等における労働歴はごくわずかで、その「努力」は、政治家の秘書業務に向けられ、それを足場にした地方議員選出から、国会議員選出に向けられたのでしょうが、それは見事に大きく「結実」したわけです。
 菅新首相のように、学歴などが「規格外?」の人物が「出世(成り上がり)」すると、秀吉になぞらえて「今太閤」などと呼ばれ、そのことだけで一部の人気や支持を得たりすることもあり、こうした現象を非難するべきではないのかもしれません。
 しかし井上成美元海軍大将は、海軍兵学校校長の時、同校図書室に吉川英治著『太閤記』を備えることを拒否したと伝えられています。
秀吉は立身出世主義で、出世のためには手段を選ばぬところがあった。兵学校の人間教育にふさわしくない、という理由であったようです。
私は、読書することまで拒否することはなのではないかとは思うものの、この感性には共感します。
 しばしば、「今太閤」と呼ばれることもあった松下幸之助氏は、その孫の結婚式に政治家を招待することを拒絶したと言われます。 「政治家などという連中は、(金を投げ与えて)使う相手であって、借りをつくってはならない」という考え方であったようです。
 私は、こちらの感性にも共感します。
 何らの支援もない一介の上京青年が、(実業に向かうのではなく)、政治家の秘書業務に精勤して、地方議員から一国の総理にまで成り上がった過程(菅首相)を、そして、独立法人職員が、一代の詐欺師とまで呼ばれながらも、政策プロモーターとなり、総務大臣等に成り上がった意欲(竹中氏)を「努力」と呼ぶのなら、「怠け者」である私は、ただただ呆れかえるのみですね。
 『市場と権力』では、郵政民営化が議論されていた際、竹中はジャーナリスト田原総一朗への電話で、あの時点で郵政民営化をする必要はない、ということを打ち明けてきた。これに対して田原が、それを小泉さんに説明すればいいじゃないですか、と答えたら、竹中は「それはダメです。言ったとしても、僕に辞めろと言って、別の人間を担当大臣にするだけです」と答えたという(文庫版327頁)。
 もし竹中が私利私欲ではなく、何らかの志、信念、使命感に立脚して動こうとするのであれば、政策に問題点があるのなら、たとえ辞めさせられようとも、その点を明確に説明するべきだったのではないでしょうか。大臣を辞めて生活に困るわけでもなかったでしょうに・・・
 菅新首相について言えば、基本的には、政治家の評価に「経歴」が関係するべきではないと思います。
黒い猫であろうと白い猫であろうと、適切な成果を出してくれればよいのです。しかしながら一国の宰相には、それなりの見識はもちろんのこと、「品格」が必要ではないだろうか。過早の評価は慎むべきかもしれませんが、私はこの新首相にはあまり期待できないと思っています。
 いずれにせよ、一国民としては、菅新首相がどのような経綸を発揮されるのか、注目するよりほかないでしょう。
(椿本祐弘)

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(読者の声3)安倍晋三政権の八年近くの間に、朝日新聞は250万部も、部数を減らしました。ひとえに安部批判が国民に受け入れられなかったということです。
 もっと激減するだろうと予想しています。
  (TY生、さいたま市)


(宮崎正弘のコメント)小生はすでに十一年前の2009年に「朝日新聞がなくなる日」(ワック)を書いて、予想しておりましたので、とくに驚きではありません。
問題は、極左のアジビラのような東京新聞が残存していること、そして産経新聞が増えていないことです。

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(読者の声4)先週25日放映の「フロント JAPAN」は宮崎先生と河添恵子さんとのコンビでしたが、とりわけ「大阪都」構想批判は有益かつ参考になりました。
 天智天皇の近江大津京や、副都とされた難波京の写真も駆使されて、要は大阪府知事、市長らのとなえる行政改革は賛成だが、名前の付け方がまちがっているとの御指摘でした。こんな角度から大阪都構想に反論されていること、初めて知りました。
https://www.youtube.com/watch?v=fn6dyuEZWLY

(編集部から)御指摘の宮崎の出番は42分から59分までです。



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「宮崎正弘の国際情勢解題」  令和2年(2020)9月26日(土曜日)
         通巻第6652号  
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ウィグルの収容所で作られた品物ボイコット、関連企業制裁
  米国、9月30日期限を11月30日へ延長
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 ウィグル制裁法を適用すると、かなりの米国企業が痛手を受けることが分かった。
 強制収容所でウィグル人を労働させて作られる品物のボイコット、製造や販売に関連する西側の企業を制裁するなどの強硬措置を盛り込んだ法律は、9月30日までが期限だった。

 トランプ政権下、財務省は11月30日まで期限延長を決めた。
 理由は11月3日に迫った大統領選挙である。再選ムードが拡がってはいるが、まだまだ油断できない情勢にあり、とくにブルームバーグ元NY市長が、大金を投じてフロリダ州での民主党勝利を狙っての強化策に、大票田を失うわけにはいかないトランプ陣営としては防戦になる。

 ウィグル自治区では「収容所」と称する強制労働所、あるいは洗脳教育として機能させる場が「職業訓練センター」と呼ばれている実態はすでに衛星写真などによって暴露されており、西側の人権活動家グループは、具体的な企業名をあげて、制裁を呼びかけてきた。

 じつはウィグルは綿花の栽培地であり、綿製品の繊維製品を生産する工場が幾つかあるが、ウィグル綿花を米国も大量に輸入している。また繊維機械などへの投資をなしている米国企業もあり、制裁期限のままに実行すると、失業者が米国にも大量に出ることになる。

 雇用創出を前面に掲げて選挙に挑むトランプ大統領としては、失業率の低減との戦いでもある。雇用を拡大する必要が政治的になり、いったん決めた期限を延長することは、選挙対策である。
     
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樋泉克夫のコラム 
@@@@@@@@   【知道中国 2138回】         
 ──英国殖民地だった頃・・・香港での日々(香港20)

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 ここで「鬼?小販」の根城でもある重慶大廈(CHUNKING MANSIONS)について記しておきたい。それというのも、重慶大廈を知らずして香港を語ること勿れ、と思うからだ。

 重慶大廈が完成した1961年、毛沢東が掲げた急進的社会主義化政策である大躍進が大失敗し、中国は大飢饉に襲われていた。大量の難民が飢餓地獄の中国から逃れ香港に押し寄せる「大逃港」と呼ばれる騒然とした時代であり、もちろん香港も貧しかった。そんな時代に、九龍の先端部に位置する尖沙咀を縦に貫く弥敦道に面した場所に、当時としては最も高かっただろう17階建ての建物が出現したわけだから、誰もが見上げて驚いたはずだ。

壁面になんの意匠も施されず、四角い巨大な棺桶のような無骨極まりないビルではあるが、60年代初頭の香港では珍しかったエスカレーターが設けられ、高級宝石商が店を構え、豪華な夜総会(ナイト・クラブ)もあったというから、さぞや煌びやかであったろう。

 60年代前半には映画スターや英国駐留軍幹部が邸宅を構えていたと説く人もいれば、完成から程なくしてゴミ屋敷同然の惨状だったとの証言もある。
想像するに安普請で、高層ビルのマガイモノだったのではなかろうか。香港製がニセモノの代名詞の時代だった。

 60年代後半から70年代初頭にかけて、一帯にはヴェトナム戦争のニオイが漂っていた。休暇で香港を訪れる米兵が屯し、彼らの求めに応ずる若い女性たちの嬌声が飛び交っていた。
みやげ物を漁るのは、帰還する韓国軍兵士だった。兵士らと入れ替わるようにやって来たのが海外からの観光客であり、バックパッカーやヒッピーだった。
1階の目立つ場所は観光客相手のポルノショップや両替店に、2階以上は安宿に、いつしか模様替えしていた。

安宿が増えれば世界各国──ことに南アジアやアフリカからの漂泊者が定住する。そこで一般の住人は出て行ってしまう。かくて出現した人種の坩堝のような空間では、南アジアを中心に世界各地の言語が飛び交い、彼らの旺盛な生活力が発揮されることになる。国際化などという言葉が日本で話題になる遥か以前に、尖沙咀に一角の老朽ビルには国際社会が出現していたのである。

尖沙咀の裏町で飲み明かした時などは、安宿にお世話になったことも屡々だった。迷路のように入り組んだ廊下を倉庫代わりに、南アジア、中東、アフリカの人々が立ち働き、天井には電線がのたうち回るヘビのように張り巡らされていた。おそらく住人が盗電気味に外から勝手に電線を引いていたに違いない。

 当時、重慶大廈の名物は火事だった。大袈裟な表現だが、重慶大廈の前の弥敦道には消防車が常駐しているかと思えるほど頻繁に火災を起こしていた。タコ足配線が原因だったと思われるが、火災保険目当ての詐欺まがいの失火も珍しくはなかっただろう。

 2020年現在の状況は不明だが、2008年の記録を見ると、重慶大廈の権利所有者は920人。そのうち549人が個人住宅で、371人が店舗。30%ほどが南アジア系で、残りの70%の大部分は中国大陸系。香港生まれは極く少数ということからも、香港の中国化の姿が窺えるはずだ。その典型例が、1997年の返還前後から長く所有者組合理事長を務める林惠龍だろう。
福建出身の彼女は、?小平が開放政策をブチ上げた79年に香港にやって来ている。電気製品工場などで働いた資金を元手に、重慶大廈で安宿経営の権利を買い取り、やがて所有者となり、1994年には所有者組合理事長へ。

 年1回開催の組合主催宴会で飛び交うのは英語にウルドー語。これに次ぐのが中国語、ヒンディー語、スワヒリ語、フランス語、ベンガル語、パンジャブ語など。もちろん誰もが流暢な広東語を話すから、組合員に共通語は広東語になる。「現代の九龍城」で呼ばれるほどに魑魅魍魎の住む重慶大廈は、また香港で最も国際化された社会でもある。
 重慶大廈は、香港版国家安全法下の香港社会をどのように生き抜くのか。
     
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    宮崎正弘の新刊『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社)
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(読者の声1)貴誌前号「雅びの日本文化を破壊する懼れがあるが。『大阪都』構想再批判」について、これまでに多くの方々がメディアでご意見を述べられていますが、正直、大阪都構想に関しては、もうわけがわからなくなっています。
 反対派の言論活動のやり方にも、これが本当に正論化、というようなものが見受けられますし、急先鋒?でおられる、藤井聡さんの言論活動には、彼ご自身「大阪都構想が日本を破壊する」も読みましたが、どうも「きめつけ」や「論理の飛躍」を感じてしまい、どうもひっかかるのです。
また、他でもよく見かける、二重構造を解消してもコストは下がらない、などの意見も果たしてどうなのか、ますますわからなくなっていました。
 というわけで、宮崎先生のコメント『「行政改革の一環としての二重構造の解消、行政の効率化が目的としているこ とは賛成である」を読んで、霧がはれたかのように安堵した次第です。
 ところで、先生のご指摘である「都」という名称の件ですが、宮崎先生に物申すのは本当に恐縮なのですが、書かせて頂きます。
 これは大阪の「都構想」というのが、「大阪市の24区を、現行の「東京23区」と同じ制度にしようという構想だということを、即イメージできる?という意味合いで「都」構想と呼んでいるだけで、「都」という名称自体には意味はありません、その構想内容が広く伝わりやすいのであれば、どんな呼び方であっても構いません。」
 というような説明を、かつて橋下氏から直接なにかの折、もしかしたら区民センターで行われたタウンミーティングだったかもしれませんが、そういった公の場で聞いたことがあるからです。
 万が一、大阪都構想が可決されたとしても、大阪府や大阪市に都の名称が付くことはないと思うのです。    (匿名希望)

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(読者の声2)菅新首相が、首相就任前後の超多忙の中、竹中平蔵氏と会食したという報道には、小生は呆れ果てたのですが、下記によると、「竹中平蔵氏との会食は『怠け者は嫌い』という菅政権の方向性のあらわれ」だそうです。
 https://news.yahoo.co.jp/articles/335884990a7e8d40a7bb72a41988d893571191e1
 物事というのは、当然のことながら、いろいろな見方があることは当然でしょうが、辛坊治郎なる人物によると、「(菅新首相は)かなり初期に会っているのが竹中平蔵であることから言うと「新自由主義」というか、『まず自助からやりましょう』と、自分で努力することが大切であるということを出発点にしている思想や経済運営であること」だそうです。
 そして菅首相と竹中氏に「共通しているのは「努力が大切」という意識と「怠け者は嫌いだ」ということです」ということだそうです。
 佐々木実著『権力と市場』が、新潮ドキュメント賞を受賞した際の藤原正彦氏による選評を、再度引用します。
 「(竹中氏は)学界と政界を遊泳した『一代の詐欺師』との感を深くする。この人物の巧みな弁論術にここ十数年、政治家、マスコミ、そして国民が欺されてきた。彼は今も安倍政権に食い入っている。何故にかくも多くの人々が、かくも長期間、かくも簡単に欺されてきたのか。真贋を見抜く力を失った国民、これは民主主義の根幹に関わる問題」。
 この「一代の詐欺師」(竹中)は、今や、菅政権にまで食い入ろうとしている。いや、菅新首相は、自ら取り込まれようとしている。呆れるほかない。もう一度繰り返します、「呆れるほかない」。
 私の評価なり、感覚が誤っているのでなければ、わが国はとんでもない人物を内閣総理大臣に選んでしまったのではないかと思います。西尾幹二氏が小泉元首相について論じた著書に『「狂気の首相」で日本は大丈夫か』(2005年、PHP刊)がありますが、私は『「見識がゼロの番頭」で日本は大丈夫か』と思ってしまいます。
 小泉・竹中によって破壊された日本国は、菅新首相によってさらなる奈落に突き落とされるのではないかと思うと、暗然となってきます。
 西尾幹二氏は、上記著書で「(小泉政権は)われわれを何処へ連れて行くのか分からない根本的な無知を宿しているように見える」と述べておられますが、あれから15年、いったい日本国はどうなっていくのでしょうか?
   (椿本祐弘)

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(読者の声3)「満州国興亡史」講演会のお知らせです。

とき    10月24日(土曜)午後230-430
ところ   文京シビック26階{スカイホール}
講師    田中秀雄(日本近現代史研究家)
演題    「いま満州国はどうなっているか」
参加費   1000円
問い合わせ (090)6709-9380(佐藤)

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(読者の声4)「サイレント・インぺーションを許すな、緊急国民集会」のお知らせ。
レッドチャイナの「静かなる侵略」が日本でもとうに、しかも本格的に始まっています。実態を議論し、対策を考えるべき時です。

とき      10月2日(金曜) 午後1330-1600
ところ     衆議院第二議員会館 多目的会議室
登壇      山岡鉄秀、中村覚、ペマ・ギャルポ
参加費     無料
要領      1300より一階ロビィで係員が待機し通行証をお渡しします
主催      日本の主権を守る会


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「宮崎正弘の国際情勢解題」    令和2年(2020)9月25日(金曜日)
       通巻第6651号  <前日発行>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~雅びの日本文化を破壊する懼れがあるが。。。
『大阪都』構想再批判
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 吉村大阪知事は23日に記者会見を開き、10月11日に住民投票で「大阪都」構想の賛否を問うとした。松井市長も、賛同を得られなければ辞任すると宣言した。
 行政改革の一環としての二重構造の解消、行政の効率化が目的としていることは賛成である。

 問題は「都」という名称なのだ。「都」とは「みやび」(雅び、宮び)に由来する、天皇の御座所ではなく、皇居がある所である。だから、「大阪都」となれば、必然的に「遷都」を意味することになる。そうした歴史認識が欠如していることが最大の問題なのである。
 ただし吉村知事はすこしニュアンスを変えて「副首都」を目指すとも発言している。
 
 七世紀から八世紀にかけて、大阪の谷町から森ノ宮にかけて、宏大な難波宮があった。しかも戦後に発掘してみれば、難波宮跡地は日本最大規模の皇居だった事実が浮かんだ。

遷都が頻繁に行われた七世紀から八世紀の飛鳥、奈良時代を一覧すると次のようになる。
667 近江大津京(天智天皇)
672 浄御原宮 (天武天皇)
694 藤原京  (持統天皇)
710 平城京  (元明天皇)
784 長岡京  (桓武天皇)
794 平安京  (桓武天皇)
 
 大津に都があったことをすっぽり忘れている向きも多いと思われる。現在の歴史学では近江大津京と呼んでいる。

近江大津京は天智天皇が即位した場所だが、わずか五年間の首都だった。遷都理由は白村江の戦い(663年)に敗れたため、天智天皇は、国防上の理由から遷都を決断された。交通至便で優位な地形の近江大津の地が選ばれた。この遷都は大化の改新から十八年後のことで、天智天皇六年(667)に、ここで即位されている。

 しかし近江大津京は短命に終わった。
最大の理由は九州各地に防御陣地や山城の構築したこと。とくに太宰府には水城を造営したが、これらの造営費用が膨大だったため首都移転は難儀を極めた。最初から臨時の皇居という印象だった。
そのうえ守旧派(飛鳥派)が反対、妨害があった。天智天皇崩御のあと、後継の弘文天皇は壬申の乱で、大海皇子(後の天武天皇)に敗れた。


 ▼近江神宮に祀られる天智天皇

ところで、近江神宮は天智天皇が祭神である。
京阪電鉄の近江神宮駅から七、八分ほど歩くとこんもりとして森があり、その突き当たりの、いくつかの階段を上る。昭和十五年、近江神宮は皇紀二千六百年に創祀された。
小倉百人一首の第一首は天智天皇、いまでは近江大津宮のことより、カルタ競技の祭壇となった。日本で最初に時計を取り入れたのも天智天皇だった。その「遅刻」(水時計)が境内にある。近年、若い人が参詣にくるのは、漫画「ちはやふる」2500万部の影響だろう。

 ちなみに小倉百人一首の第一番、天地天応の御製は、

 あきのたの かりほのいほの 
     とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ

(秋の田の仮小屋に泊まると、屋根の苫(とま)の目が荒く、冷たい夜露が、着物の袖を濡らしてしまった)
 
 壬申の乱で勝利した大海皇子(天武天皇)は飛鳥に戻り、浄御原宮を造営した。近江京の宮殿の主柱や仏殿、内裏正殿などを移設したため近江大津京は廃都となってしまった。
 天武天皇と持統天皇は夫婦である。この天武天皇と持統天皇の18年間が浄御原宮。天武天皇の崩御後、持統天皇は飛鳥の近くに藤原京を造営、またも遷都した。

 さて難波宮のことである。
 歴史教科書には難波京のことを載せていないのである。長らく「まぼろしの都」と言われたのも、『日本書紀』は難波宮「焼失」と記載しただけだからだ。


 ▼難波宮はまぼろしの都ではなかった。実在したのだが。。。

 「なんば」は難波であり、船場(せんば)、水の都。堂島、中之島という地名は海上交通のアクセスは至便である。つまり、大阪は首都というより商都である。
水運の発達は当然だが、当該地区を治める豪族の顔役がいる。縄文の大規模集落はまだ発見されないが、神武東征のおり大阪湾からの突入に失敗、熊野路へ迂回した経緯は古事記にも日本書紀にもでてくる。

周囲は縄文時代から開けていたことは確実であり、森ノ宮から縄文時代の土器が見つかっている。石山本願寺、大阪城の敷地は難波宮の一部ではないか?

戦後、本格的な発掘が始まり、 昭和32年に回廊を発見、天皇宮室と判明した。いま「難波宮史跡公園」として整備されているが、大極殿基盤と八角殿のレプリカがある。難波宮跡の北側はNHKや大阪市歴史博物館があって、これらは明らかに難波宮の敷地内であった。

それゆえ難波宮は「まぼろしの首都」ではなかった。実質として難波宮は大化の改新ののちに孝徳天皇が遷都(652年)している。
この時から元号は「大化」となり、大化の改新の刷新政治は、難波宮が舞台だった。ただし何回も火災に遭遇して、そのたびに仮御所が建てられ、ついに天武天皇は683年(天武天皇十二年)に副都制の詔をだされた。
すなわち難波宮は副都だったのだ。だから正式な首都ではなく、教科書は採用しないようだ。

副都は世界史で珍しくなく、清朝では紫禁城に加え、清朝皇帝は夏、承徳に移った。エカテリーナ女帝はサンクトペテルブルグ郊外に「冬の宮殿」を建設した。
いずれにしても、現在の行革の一環として提言されている「大阪都」構造にも、知事の言う「福首都」という発想にも、このような歴史的考察が一片もないのである。

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樋泉克夫のコラム 
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【知道中国 2137回】                   
 ──英国殖民地だった頃・・・香港での日々(香港19)

       △
 モノはついでと言うから、当時の香港の阿Qたちの仕事ぶりを思いつくままに綴ってみたい。
 例の歌庁辺りの裏町を歩くと、ビルの壁に鏡を立て掛け、その前に木製の折り畳み椅子を置いただけの床屋があった。もちろんバケツに水を用意して、ヒゲを剃ってくれれば洗髪もしてくれる。
もっとも店を構えた床屋では、散髪、髭剃り、洗髪、整髪はそれぞれ別の職人が分業して当たってくれた。

 ビルの陰の路地に並んでいたのは繕い物を商売にするオバさんたちで、歩道に持ち出したミシンを踏んで商売に励んでいる。時に、オジさんの同業者が混じって
いることもあった。オジさんの中に大陸から逃れてきた元国民党の将軍がいるなどといった噂が、まことしやかに流れるような時代だったが、考えてみれば当時は、国共内戦で共産党が勝利し、国民党が中国から追い出されてから20年ほどしか経っていなかったわけだから、繕い物で生計を立てているオジさんのなかに、共産党の追及を逃れ命からがら香港に辿り着いた元国民党の「落魄将軍」がいたとしても、決して不思議ではなかった。

小さな椅子に腰かけて客待ちしているのは、女性客の顔の産毛を抜くオバさんだ。先ず客の顔に白い粉をはたきかけてから、2本の糸の片方の端を歯に挟み、両手を使って巧みに縒りを掛けながら、顔面すれすれに張った糸の縒りが戻る反動で産毛を抜く。何時、何処で、誰が、こんな方法を考えついたのか。いくら見ていても飽きない匠のワザだった。

 野菜市場の近くでは婆さんたちが蹲り、豆もやしのヒゲを丁寧に取って、もやしの1本1本をキレイに並べている。これも商売だが、一帯の怪しげな雰囲気からして、日が暮れて一帯が紅灯の巷に変じる頃になれば、彼女らはヤリ手婆にヘンシンしたのだろうか。

 市場巡りで強烈な印象を受けたのが、例の中国式の丸い分厚いまな板と庖丁1本で肉を解体するオジさんだった。赤銅色の肌に中国人特有の半ズボン。それにシャツの裾を捲り上げて大きな腹を出したまま。片手でまな板をぶら下げ、片手で刃渡り30センチほどの半月型の分厚い庖丁の柄を握っている。
さも重そうな包丁の刃はキラキラ光っていて、見るからに切れそうだ。オジさんの後ろをついていくと、やおらまな板を地面に置き、牛肉を左手で押さえ骨を断った。ものの見事に真っ二つだ。スゴワザと感心して左手を見ると、親指が根元から無い。聞くと、「以前、手許が狂っちまってな」。その瞬間の背中の「ゾクゾク感」は半世紀ほどが過ぎたいまでもハッキリと覚えている。

 歩道にはオモチャ、衣料、日用雑貨、学用品などを商う物売りが並んでいた。もちろん違法だから、要注意は警官の臨検だった。
そこで警官がやってきたら直ぐに逃げられるよう数々の工夫を施す「創意工夫」には舌を巻くばかり。たとえば歩道に四角い大きな布を拡げ、その上に商品を並べる。立ったまま口上をブツが、彼の手許を見ると布の四隅に縫い付けられた4本の紐の先端をシッカリと握っている。その横では、大き目な段ボール箱に商品を入れて売っている。よく見ると、商品の入った箱は深い上蓋に乗せられていた。

 道路の端の方に立った仲間が警官を認めて合図を送ると、4本の紐をグッと手繰り寄せ商品もろとも背中に担いでスタコラと逃げる。段ボールの場合は、上蓋をして肩にヒョイっと担いで、これまたスタコラ。かくて「走鬼(トンズラ)」となる。まさに走鬼を前提にした「店構え」だった。
警官が咎めると「荷物を運んでいます」と逃げの一手だ。警官の方でも分かっているが、余程の悪質でもない限りは見て見ぬふり。持ちつ持たれつ、である。

 外国人観光客相手の「鬼?小販」と呼ばれるモノ売りも街頭をうろついていた。イギリス、アメリカ、ブラジル、ネパール、インド、パキスタン人などの喰いっぱぐれの長期滞在者らしく、流暢な広東語を操る。
扱っていたのは高級ブランドのニセモノだった。
      
   ♪
(読者の声1)貴著新刊の『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社)を購入(例によってAmazonのこすい商法から、間違って2冊届きましたが、これを奇禍として、1冊は高校生の孫にやろうと思っています)。
さて、この「平和と代償」は私の長い海外生活から、少し違う表現をすると、「日本人は二重人格にならざるを得ない」です。
日本人は、日本国内だけを見ると、実に温和でよい人たちです。しかし、これで世界に出てゆくと通じません。
私は海外を担当することが多く、海外出張も多かったのですが、その時の心得は、成田なり羽田の搭乗ゲートを境に、「性善説から性悪説に切り替える」でした。宮崎さんのご著書から到達する一つの結論は、日本人は、二重人格にならなくては、国内での平和と世界で生き抜く双方を満足することはできないということです。
(関野通夫)


(宮崎正弘のコメント)はい、御指摘の通りと思います。

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(読者の声2)貴誌9月24日付通巻第6650号の「読者の声」で、私は「竹中平蔵のような人物と、首相就任の多忙な時期に、1時間も会談するという菅新首相は何を考えているのだろうか?」と述べさせていただきました。
 その後、TVのニュース・ショー番組では、その会談内容についての竹中氏自身とのインタビューなども報じられているようです。これによると、会談の内容は、携帯電話料金の値下げなどについてらしい。
 しかしながら竹中氏は、TV番組では、「東洋大学教授」なる肩書を名乗っていたものの、同時にSBIホールディングスの社外取締役でもあるはずで、携帯電話料金については利害当事者であるはずです。その人物と会談することには利益相反問題が発生することになるのではないか。
 そもそも携帯電話事業は公共の電波を使用する公益事業であり、料金などについて事業法の規制を受けているとは言え、料金については、一定の範囲内では業界内の自由競争に委ねられるべきではないのか。
 その料金値下げ問題を、新内閣の重要課題とするような姿勢に、菅首相の見識の狭小、低劣さが顕現しているように私には思えます。
 なお竹中氏は、SBIホールディングスの社外取締役だけではなく、パソナグループ取締役会長、オリックス社外取締役なども務めているはずで、政府の施策に大きな利害関係を有する業界人であるはずです。そのような人物と、首相就任前後の超多忙な時期に真っ先に会談するべきか、私は、それだけでも、新首相の政治センスを疑いたくなります。
 佐々木実氏は『市場と権力』の「文庫版のためのあとがき」で「竹中氏はとても饒舌だ。けれども、すべてが明瞭に語られているようで、そのじつ、肝心なところは秘匿されたままだ」と述べておられます。
これを読んで、私は、似たような印象を語られた人物として瀬島龍三氏を連想しました。瀬島龍三氏は、敗戦、シベリア抑留問題の責任の少なくとも一半を負う立場であるにも関わらず、明確な反省と釈明を行っていないと思います。瀬島氏の戦後の「活動」について、「瀬島氏にも生活があるのだから、商社の幹部を務めることまでは理解できる。しかし、敗軍の将であるにもかかわらず、一国の政策にまで関与することは許せない」と評した戦中派の方がおられました。
 竹中氏が権力に擦り寄った時期は、日本経済の衰退期とほぼ重なるものです。そして、第二の敗戦とも言えるわが国経済の停滞、劣化について竹中氏にも一半の責任がないとは言えないでしょう。
そうであるとすれば、少なくとも竹中氏は、自らの政治責任を明確にしないままに、国の政策に、饒舌に「口出し」を行うような所業は自粛するべきなのではないでしょうか。もっともご本人は、今もって「自分のやったことが正しいと、心から思っています」ということなのでしょうか。
 竹中氏との会談は、多分、菅新首相の方から提案されたのでしょうが、私はそのような愚かな提案(と私には思える)を行う新首相には、まったく期待できないと考えています。
(椿本祐弘)

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(読者の声3) 久しぶりに投稿させていただきます。宮崎氏と私は同年で生涯現役、生涯健康、生涯勉強を目指していますが、宮崎氏は本当にあちらこちらと活動され、ニュースも無料で発信され本当に日本国の事を憂慮されていることがひしひしと感じられます。
さて竹中氏の事が書かれていましたので一言。
以前「維新の党」顧問と言う記事を新聞で読んだ記憶があります。それを見た時、維新も胡散臭い党だと感じたことがあります。
まだつながっているのでしょうかね? 
(T坊主) 


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「宮崎正弘の国際情勢解題」  令和2年(2020)9月24日(木曜日)
         通巻第6650号  
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ドルの流動性クランチが中国企業を襲っている
  ドル建て社債の償還は年内にまだ1018億ドル、返済の見通しは真っ暗
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 天津物産集団(英語名 TEWOO GROUP)がドル建て社債の債務不履行に陥ったと発表したのは2019年11月22日だった。デフォルトは12億5000万ドルで、過去最悪の負債額となった。同社集団は国有企業であるにもかかわらず、中国人民銀行は黙殺、中国銀行なども追加の緊急融資ができなかった。すなわちドルが手当てできないからだ。

 中国企業全体のドル建て社債の償還は年内期限だけでも、あと1018億ドル、金融筋によれば、この他に「隠れドル債務」が17億ドルあるという。いずれにしても返済の見通しは真っ暗で、中国が理由とするのはコロナ禍だが、それは口実でしかなく、実態は会社管理が杜撰なうえ、財務情報に一つも透明性がないことだ。

 2021年のドル建て社債の償還は1120億ドル前後、2020年には1200億ドルを超える。それなら中国の外貨準備高が3兆1000億ドルもあるのだから、それを取り崩せば良いではないかと考えるのは素人。とうに食いつぶしており、ドルを外銀から借りているのが実態なのである。それも貸し渋りが生じており、金利が14%というのもザラである。

 借り換えのために新規社債を起債するという妙手を思いついたが、今年8月末までの新規ドル建て起債はすでに400億ドルに昇り、市場はドル流動性がとまり、ドル需要があっても、外銀は貸し出しをとめているから、債務不履行は時間の問題である。

 こうした危機に関して筆者は小誌でもたびたび指摘したし、田村秀男氏との共著『中国発の金融恐慌に備えよ!』(徳間書店))でも一番問題視してきた。
     
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   ♪
(読者の声1)貴著新刊『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社)を一気に拝読しました。いかにも宮崎さんらしい闊達な筆の運びに快哉です。
 放哉の以下の句を思い浮かべました。
 「にくい顔思い出し 石ころをける 自らをののしり尽きず あおむけに寝る」
 日本人、こんな気分になり始めている気がします。
   (渡邊利夫)

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(読者の声2)貴著新刊『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社)を拝読し、小生も神社巡りをしたくなりました。また文中にでてきた中国文学の傑作「騒土」ですが、早速、注文しました。
   (福井義高)

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(読者の声3)御新刊の『一万年の平和、日本の代償』(育鵬社)を拝読しつつ、文中に「平和」をめぐっての若泉敬先生とハーマンカーン博士にやりとりの箇所で、膝を打ちました。個人的にもおつきあいいただいた若泉先生は、すばらしい立派な学者でしたが、若くして亡くなられました。日本のために尽力された多くの人々が、鬼籍には入られ、滂沱の日々です。
   (SK生、長崎)

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(読者の声4)樋泉先生の香港時代の回想を興味深く読んでいます。本日(23日付け貴誌)の黒社会の話は面白いですね。
 シナの秘密結社については、宮崎先生も寄稿されている「中国謎の秘密結社」(新人物往来社)を読むと、支那には古来多数の組織があったことがわかります。これは国民にとって政府が敵なので互助会を作り相互防衛をしていたということでしょう。
 今問題の中共も、近代の政治集団ではなく伝統の秘密結社とみることができる。ただこれは政治から国民を守るのではなく、国家を乗っ取り、国民を殺し、収奪しているから、国民は守りあう集団が必要で、それが法輪講を作っているのではないか。
 なお中共は共産主義政党ではない。私の見立ては、毛沢東はソ連の植えたスラブ共産党を乗っ取り、共産主義者を粛清し、自分の私党に変えたという意見です。
だから共産党は看板だけで、統治の実体は世襲の特権階級がおり平等など何処にもありません。近年北京大学でマルクス研究会が禁止されています。共産党は人民の革命を恐れているのです。
 この中共の正体論は世界も日本もまだ分っている人は少ないようです。米国政府高官も中共を共産主義国と見なしています。そろそろ中共の正体に気づいて良さそうです。何の正統性も権威もない犯罪秘密結社集団にすぎないのです。
   (落合道夫)

(宮崎正弘のコメント)御指摘の新人物往来社のものは雑誌ですね。単行本としては上梓した記憶がありませんので。また中国共産党の本質ですが、あれは山賊、匪賊が国を乗っ取ったもので、強盗が突然、貴族階級となった。中国四千年、つねに同じパターンです。

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(読者の声5)私は、上下水道民営化問題について長年にわたってフォローしている者であるが、菅義偉首相の官房長官時代の実績、見識については、この問題(PFI問題は内閣府所管)に関連した動きを見ただけでも、大きな疑問符がつくと思っている。
 しかるに、菅義偉首相が、18日午前、竹中平蔵氏と東京都内のホテルで朝食を取りながら1時間余り懇談した、という報道を知って、完全に呆れてしまった。
 たまたま、期を一にしてと言うべきか、竹中氏のこれまでの軌跡を追ったレポートである佐々木実著『市場と権力』(2013年4月、講談社刊)が、『竹中平蔵 市場と権力』という題名で文庫化された(講談社文庫、2020年9月15日第1刷)。
この文庫化に合わせてだろうか、「竹中平蔵と小池百合子、平成を象徴する『二人の権力者』の意外な共通点」なるテーマでの、対談なども行われているようだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/975ecff253aa9d0771d36e474802613fd95964a0?page=1
 さっそく文庫本を購入して、再読した。あらためて読み返して、読み返すたびに、竹中平蔵という人物のおぞましさに気分が悪くなってくる。
奥田経団連会長が不信感を露にして「竹中が動くときには必ずうしろにカネの話があるんだ」ともらしたというが(文庫版、p344)、要するに、やることがセコく、その言動に賢慮、品格、志、一貫性、責任倫理、が全く感じられない。
 そして、その言動の醜悪さにもかかわらず、「自分のやっていることが正しいと、心から思っています」(p231)というのであるから、たいした思いこみである。 
中谷巌氏の著作(『資本主義はなぜ自壊したのか』)に対し「細かいことがだんだん分からなくなってくると、みんな思想と歴史の話をします。大いにされればいいが、それで政策を議論すると間違えます」などと評しているようである(p374)。
恐ろしいセリフで、謙虚さを全く感じさせないその「自信」がおそろしい。
 ただし中谷厳氏の著作については、私も一応は読んだが、粗雑な内容だと感じた。この程度の粗雑な頭だから、簡単に「新自由主義」を信じられ、そして、簡単に「改宗」できるのだろう。
 西部邁氏は、その遺著『保守の真髄』の中で、「構造改革とは何ぞやということであって、本来ならばストラクチャー(構造)という言葉は歴史的に形成されきたった物事の在り方のことを指すのである。つまり、時間と費用をかけて少しずつしか変えられないし、また変えてしまっては単なる破壊に終わってしまう。それが構造をめぐる変化というものなのである」と述べておられる。竹中の思考は、多くの「歴史的に形成されきたった物事の在り方」を無視していいほどに立派なものなのか? 

 この佐々木実著『市場と権力』は、新潮ドキュメント賞を受賞しているが、この時の選評で、藤原正彦氏は、次のように述べておられる。
 「受賞作『市場と権力』は、竹中平蔵氏を、経済学者(?)、政治家、実業人、人間の各側面から調べ上げたものである。本書を読むと、アメリカの属国でしか
生れない人物であり、学界と政界を遊泳した『一代の詐欺師』との感を深くする。この人物の巧みな弁論術にここ十数年、政治家、マスコミ、そして国民が欺されてきた。彼は今も安倍政権に食い入っている。何故にかくも多くの人々が、かくも長期間、かくも簡単に欺されてきたのか。真贋を見抜く力を失った国民、これは民主主義の根幹に関わる問題だが、これについての考察があればより完全なものになったであろう。」

 文庫版は、一読した限りでは、単行本に見られた初歩的な事実誤認が修正されているのみで、藤原要望は取り入れられておらず、ほとんど増補がなされていないのは残念であるが、文庫版が広く読まれることを期待したい。
 竹中が「権力」に連なった期間は、わが国経済が低落、減衰した期間とほぼ同じであると言ってよい。
その竹中と、首相就任の多忙な時期に、1時間も会談するという菅新首相は何を考えているのだろうか?
藤原正彦氏の(そして私の)評価と直感に誤りがないとすれば、菅新首相には、ほとんど期待できないと私は考えている。
   (椿本祐弘)

(宮崎正弘のコメント)竹中氏は二階氏とおなじく和歌山県出身ですね。ふたりには共通する何かがありませんか?

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(読者の声6)明日(25日)夜、放送予定の「フロント JAPAN」は、河添恵子さんと宮崎正弘さんのコンビでお送りします。テーマは「大阪都構想、再批判」など。
 深夜からはユーチューブでもご覧になれます。
   (日本文化チャンネル桜)

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(読者の声7)三島由紀夫原作の「憂国」が上演されています。日生劇場です。
https://news.yahoo.co.jp/articles/47d077e9a77a8c8569f21c848055c488a6c852ab
  (三島ファン)
 
 << 今月の拙論 >>
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「三島由紀夫事件から半世紀」(『正論』11月号、10月1日発売)
「中国共産党は人類の敵」(『テーミス』、11月号、10月上旬)
「縄文時代へタイムカプセル」(『月刊日本』、10月号、発売中) 
「手負いの竜となった習近平」(『内外ニュース』、9月7日号)
           


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「宮崎正弘の国際情勢解題」  令和2年(2020)9月23日(水曜日)
         通巻第6649号  
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~米国の「チャイナ・ウィルス」犠牲者、ついに20万人突破
  トランプ大統領が国連演説「中国に責任を取らせよう」
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 9月22日、トランプ大統領は国連で演説し、「チャイナ・ウィルスの被害は甚大である。中国に責任を取らせなければならない」と訴えた。
 同日、米国の死者はついに20万人を突破し、最悪記録を更新した。

 トランプはいわゆる「新型コロナウイルス」のことを明確に「中国ウイルス」と呼び、その「中国がパンデミックを世界に拡散させた」と強く批判した。
それゆえに「国連は中国に責任を取らせなければならない」とした。

11月3日に迫った大統領選に向けて対中強硬姿勢を全面に出したものの、チャイナ・コロナ感染防止のため、トランプ大統領は国連本部での演説は見送り、事前収録のビデオ放映となった。

 米国に次いで死者の多いのはインド、ブラジルなど。欧州でも英国、イタリア、スペインで被害が拡大し、都市封鎖の再来が言われている。
 年末には収束し、世界の航空路線は再開されるという予測は崩れ、エアラインの倒産が始まった。主要な航空会社は休便による経営悪化で、大量のレイオフが行われているが、鉄道やホテル、旅館、ガイド、旅行会社などもレイオフの嵐、業界は悲鳴を挙げている。

 ところが、不思議。
 四連休中の日本では行楽地がGWの三倍から、四倍の人出となり、道路の渋滞、鉄道、航路が満員、ホテルも久々に満員という状況が出現した。感染拡大を怖れる世論もあるが、長かった巣ごもりではストレスがたまった結果だろう。
     
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  書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~旧約聖書と日本の神話との類似性にスポット
   前作は『ユダヤ人埴輪があった』。日本の神々と比較

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田中英道『日本国史の源流──縄文精神とやまとごころ』(育鵬社)
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 「すべての学説は仮説である」(林房雄『神武天皇実在論』)。
 本書は仮説が多いが、歴史学とはそもそもが仮説によって成立している学問である。歴史を装った政治宣伝文書は、都合の良い文献だけをつなぎ合わせ、偽書を成立させてきた。
しかし、根本的に不動のものがある。それは精神の源流がどこから来ているのか、日本人のおおらかな、寛容な精神の源流に溯る作業が重要なのである。本書は、その根源に挑んだ。
 たとえば三内丸山縄文遺跡にある大建築は神社の原型ではないか、と田中氏は唱えるが、なるほど、大胆な考察で、唸った。
 六本の柱からなるミステリアスな建築は、時計、暦測定、あるいは天文台、いや物見櫓などと解釈されてきたが、これが神社の原型と唱えた人はいなかったように思う。
 さて、評者(宮崎)、本書を通読して、膝を叩いたのは、旧約聖書と日本神話の類似性の箇所だった。
 過日、評者は神武天皇陵から三輪山、畝傍を歴て吉野へ旅をしたのだが、樫原の宿になぜか、聖書が置いてある。神道の根源的な地域のビジネスホテルの部屋になぜ、聖書が?
 それはともかく、久しぶりに聖書を開いた。
当該訳本はマタイ伝からの編集だが、アダムとイブ、誰それから誰それへと系譜が述べられる。古事記、日本書紀をみるとイザナキ・イザナミから天照大神、スサノオ、ニニギノミコト、カムヤマトイワレビコ(神武天皇)への皇統譜が述べられている。書き出しが類似していることを改めて考えた。
 だから「稗田阿礼」は渡来した西洋人ではなかったのか、と田中史学の真骨頂が飛び出すのだ。評者は、稗田阿礼は職名と考えてきたので(池澤夏樹らも同意見だが)。
 田中英道氏はかく言われる。
 「稗田阿礼は決して縄文からの家系の人ではなく、渡来した西洋人であったと考えられます。(旧約聖書の)オルフェウスの物語を、神話の口踊者である稗田阿礼は、その西洋人としての記憶のなかに遠く伝わる夫婦の悲しみの物語として、イザナギ、イザナミのなかで語らざるを得なかったのでしょう」(136~137p)
 さらに類似性をあげて、田中氏は続ける。
 「ギリシア神話との相似性は、アマテラスとスサノオの関係にも見られます。この二神は、兄・妹のイザナギ、イザナミと異なって姉弟の関係にあります。この関係は、ギリシア神話ではゼウスの姉の太陽の女神デメテールと弟の海神ポセイドンの関係に似ています」。
 ただしどろどろとした夫婦、近親相姦はあっても、母子の相関関係は日本神話には見られない。アダムとイブはエデンの園を追われる。イザナギとイザナミの初期の子らは蛭子だった。それは女性から誘ったからで、男から誘うとちゃんとした子が生まれる。黄泉の国へのぼった妻を夫が追うが、そこで見たものは?
 酷似する物語は旧約聖書でも語られ、アルフェオスとエウルデユケーでも妻が毒蛇に噛まれて死んでしまうが地上に帰る直前に夫は妻を振り返る。
 共通するのは「妻の死を冥界から連れ戻そうとして失敗するという愛の悲しみ」であり、「死というものの真実を見てはいけない」という掟を夫が破るという愚かさにある、という。
 大いに愉しみながら読んだ。
       
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樋泉克夫のコラム 
@@@@@@@@  【知道中国 2136回】      
 ──英国殖民地だった頃・・・香港での日々(香港18)

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 Tさんとの深夜の「常設化した酒宴」に不足があろうわけはないが、やはり時には一人でゆっくりとビールなんぞを・・・貧乏留学生でも許される細やかな贅沢だろうと納得し、佐敦道に面した歌庁──庶民の憩いの場──に出掛けることもあった。広いフロアーに飾り気なく貧乏臭い丸テーブルが置かれ、その周りにはプラスチック製の椅子が並ぶ。ステージの歌手(と呼べるかどうかは不明だが)の歌声をサカナにして、お茶やビールを楽しむと言った式の、至って健康的な、正直に言ってしまえばチャチな仕掛けではある。

 何回か通い顔馴染みが生まれると、ヤアヤアと目で挨拶だ。ある日、年下と思しき若者を連れたアンちゃん風情の30歳前後に「おい、こっちのテーブルで一緒に飲まないか」と声を掛けられた。同席して暫くすると、さっきまで舞台で唱っていた小太りの歌手が舞台衣装の儘で彼の隣に座った。
上半身は薄いブラウスを羽織っただけだから裸同然。いや、ドギマギするばかり。やおら彼が「こいつがオレの彼女で、そっちは舎弟だ。これからも宜しくな」と。
どうやら彼は、この歌庁ではイッパシの顔のようだ。「そろそろ、お開きに」。やおら腰を上げると、「今日はオレのオゴリだ」。ここで割り勘などと言ったら話がこじれる。ましてやコッチが払おうものなら、「オレの面子を潰す気か」とゴネられてしまう。そこで、「多謝、多謝」とその場を離れた次第だ。

 ここからが本題。
 数日後、4人の子供を教えるために大埔行きの路線バスに乗ると、運転手が「お~い!」と声を掛けてきた。見ると歌庁で同席した例のアンちゃんで、車掌は舎弟だった。乗客は私のみ。行く先を告げると、彼はなにを思ったのか、客が待っているにもかかわらず、次々にバス停をすっ飛ばしてスピードを上げ始めた。

 道路の左側は歩道で、歩道を挟んで商店街。右側は中央分離帯の柵。道幅はバス1台程度。前方をサイクリング自転車が走る。バスの前を、まるでこっちの方が早いぞといわんばかりに軽快に飛ばしている。すると運転手が、「これからいいものを見せてやるからな!」とアクセルを踏み込んだ。バスはスピードを一気に上げ、もうすぐ自転車にぶつかるほどに接近する。

 いわばバスが自転車をアオリ始めたのだ。すると、さっきまで時折後ろを振り返りながら余裕を見せていた自転車君の顔にアセリの色が浮かんだ。いや恐怖だったろうか。
慌てた彼はサドルから腰を上げ中腰になり、尻を左右に振りながら必死にスピードを上げ、バスから離れようとする。だが運転手のアンちゃんはスピードを落としたり上げたり、クラクションを鳴らしたり。

 道路の左右に自転車の逃げ場はないから、必死に自転車を漕ぐしかない。しばらく走ると前方の左手にバス停の広場があり、自転車はそこに逃げ込んだ。今にも泣きだしそうな自転車君の顔を目で送りながら、運転手のアンちゃんと車掌の舎弟はゲラゲラと笑うばかり。そのまま幾つものバス停をノンストップで走り抜け、予定よりだいぶ早くに大埔着。バスから降りる背中に「じゃあ、また飲もうや!」の声が掛かった。

 後に知ることになるが、彼は数人の仲間を抱えた黒社会の構成員で、昼の正業がバス運転手だった。じつは香港では日本のように代紋を張り、麗々しく看板を掛け事務所を構え、一見して「組関係者」と分かるような振る舞いは見せない。中には黒社会構成員の噂が消えない弁護士やら大企業経営者もいるほどだから、厄介な至極な世界だ。仲間かどうかは仲間内で分かればいいわけで、だいいち維持費がモッタイナイから組事務所などない。
 運転手、彼女、それに車掌も、当時の香港版阿Qの1人だった・・・のだろうか。

〔訂正:前回の【2136回】(香港18回)は【2135回】(香港17)の誤りでした〕
      
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