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【書評】現代美術キュレーター10のギモン

学芸員やキュレーターのような展覧会の提供者だけでなく、自ら積極的に足を運ぶような美術館ファン・展覧会愛好家にとっても、面白く為になる。内容・構成(目次)は以下公式を参照。タイトルについては、英題の "Curating contemporary art in Japan : 10 question to help guide your approach"の方が、しっくりくる。


オリジナル/初出はWeb連載で、Web青弓社(下記リンク)で今も読める。Webは(当たり前だが)横書きで、紙の本書は縦書き。個人的には紙の方がかなり読みやすい。また、終盤のギモン9およびギモン10は書き下ろしのため本書でしか読めない。


美術館・博物館の内幕を主題とした本はほかにもチラホラ存在する。キュレーター/キュレーションを論じる本もちょこちょこ目にする。が、この難波祐子の書いたものが、「キュレーションとはなにか」に応える読み物としては、総合的かつバランスが良く、一番だと感じる。

ちなみに本書の前にも同様の主題で2冊、同じ青弓社から本を出している。著者の主義主張は一貫しているが、3冊各々で性格は違うので、3冊全部読んで/揃えて損はない。


ピンポイントな感想としては、現代美術の中でもとくに分からない/掴みどころのない領域だったメディアアートに関し、本書によって領域そのものの背景的知識や見方を学ぶことができたのは、良かった。また、「展覧会の再現」展示(p.231 「4.展覧会を再現する」)については、最近実際に東京国立近代美術館「プレイバック展」で興味深く鑑賞(体験?)したこともあり、本書で「そもそもなぜ美術館・キュレーターがそれに取り組むのか」の解説が非常にありがたかった。本書中で紹介された参加型アートプロジェクト「かえっこ/Kaekko」(p.109 「4 システムとしての作品」)は、率直に素晴らしいと思った。さまざまな面で「今」「社会」と向き合う、これぞザ・現代アートプロジェクトという印象。近場でもし「かえっこ」が開催されるようなら、覗いてみたい。


まとめとしては、

世の中にはやはり現代美術の展覧会を通してしか伝わらない、何物にも代えがたいものがある。

p.243

アナログでもどかしいこの展覧会というメディア

p.243

という著者の意見に、全く同意である。


一点、これだけは惜しいと思ったのは、巻末索引が無いこと。本書で取り上げられる人・作品・イベント(展覧会やプロジェクト等)が、「だいたい最初に登場するその1箇所だけでしか登場しない」ため索引として作り甲斐が薄いのかもしれないが、それでも、読んだ後は資料的に活躍するタイプの本なので、付けて欲しかった。たとえば、今回この書評で「かえっこ/Kaekko」を引用したが、書かれていた箇所を探すのにちょっと手間取った。(電子版(Kindle本)なら、テキスト全文検索できるんでしたっけ??)



以 上


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何となくUNIX(いしい)
誠にありがとうございます。またこんなトピックで書きますね。