THEインタブー『逆サイキックリーダーという男編』
今回の取材相手は、今までにも増して相当ヤバい人物でした。
あまりにも意外な結末を迎えたため、ショートインタブーとしてお送りします。
NONノンフィクションライターという職業柄なのか、私の元へは超能力者と名乗る人物の情報が数多く寄せられる。
念動力が使える、予知能力がある、触れただけで病気が治せる、ただただスプーンが曲げられる……。
そういった超能力者の中でも、今回私が取材した人物はかなり特異な性質の持ち主であった。
その能力とは、逆サイキックリーディングという聞いたこともないものだ
私はこの人物に会うため、飛行機と船を乗り継ぎ小さな島へと向かった。東京を出発しておよそ8時間、港にたどり着いた私をその男は大きく手を振り出迎えてくれた。
浅黒く日焼けした顔から覗かせる、少し歪に並んだ黄ばんだ歯が特徴的な40代の男性。
その第一印象は、『島育ちののんびりした気のいいオジサン』という感じだったが、話しを聞いていくうちにその印象は徐々に裏切られていくこととなった。
逆サイキックリーダーと自称する彼へのインタビュー、その一部始終をここに記しておく。
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――それではよろしくお願いいたします。改めまして、職業を教えていただけますか?
職業ってほどのものじゃないですけどね、まぁ逆サイキックリーダーって一応名乗らせてもらってます。
――その逆サイキックリーダーという言葉を今回初めて聞いたのですが、どういったものなのか教えていただけますか?
まぁこれはね、本当に何度も何度も聞かれてて、ちょっと辟易としてる部分でもあるんですけどね。一応説明しましょうか。
サイキックリーダーというのはご存知ですか?
――なんとなくはわかります。
人にはね、それぞれ魂ってのが宿ってるんです。さらにガイドといってね、俗にいう守護霊です、そのガイドは我々一人一人に必ずついているんです。
では、なぜついているかって話なんですが、魂やガイドってのは膨大な量の情報をもっているんです。
森羅万象、宇宙の英知、過去、現在、未来、それら全ての情報をもっているんですね。
例えば、この人に近づいたらよくないよ、この場所は危険だよ、とかってね。
それを我々に少しでも教えようとしているんです。それがガイドの役割です。
でもね、その声を聞こえる人っていうのは限られています。みんなが聞こえちゃったら、うるさくて仕方ないでしょ?
だから選ばれた人間だけが聞こえるようになるんですけど、その能力者のことをサイキックリーダーっていうんです。
――なるほど。霊媒師のようなものですか?
うーん、サイキックリーダーにそういうと怒るかもしれないですけれど、わかりやすく言うとそういうものです。
サイキックリーダーはガイドからの言葉が直接聞こえるから、世の中の理が全てわかる。
ただ、私は逆サイキックリーダーでしてね、私が聞き取る声っていうのは全て、間違った情報なんです。
――どういうことですか?
つまり、私はガイドからの声を聞き取ることはできるんですが、その声は全て正しくない情報なんです。
――ちょっとよくわからないんですが……。簡単にいうと何もわからないということですか??
そうじゃないんです。ちゃんと声は届いているんです。ただ、その声は全て間違っているので、逆ということです。
私が聞き取った情報は絶対に当てはまらない、ということです。
――それって、何か意味があるんですか? 正しい情報だから人から依頼されるんですよね? 間違っていたら誰からも視てほしいと言われないんじゃないですか?
それがそうでもないんです。
考えてもみてください。明日あなたは死にます、と私が言ったとします。でもそれは絶対に間違った情報です。ということは、あなたは明日は絶対に生きるということになります。
私はニセ情報を届けることによって、その逆の意味を受け取ってもらえるようにしてるんです
――複雑ですね。なぜそのような能力を身に着けることができたのですか?
それは私にもわからないんです。
物心ついた頃には、ガイドの声を聞き取ることができました。
当時は何もわかりませんから、聞こえたままを回りの人に言っていたんです。けれども何ひとつ当たらないので、いつの間にかウソつき男爵って名前で呼ばれるようになりました。
自分は受けとった言葉をそのまま伝えていたのに、全てはずれるからです。
そのうちに、もしかして? と自分の本来の力に目覚めたんです。
逆サイキックリーダーとして自分を認識してからは、全てがうまくいくようになりました。
それまでは本当につらい日々を送っていましたね。
――今まで何人くらい視てきましたか?
どれくらいでしょうか。仕事にする前から視てきましたから……。
お金をもらうようになってからは、100人くらいでしょうか。
――かなり多くの人を視ているんですね? みなさん満足されていきますか?
人それぞれです。
私は逆だということを理解した上で、リーディングを受けてもらわないと満足できない部分もあります。
あくまで私は逆のサイキックリーダーですから、そこを踏まえていただきたいですね。
――では、早速ですが私の過去についてわかることを当ててもらえますか?
当てることはできません。私は絶対に外すことしかできませんから。
――そうでした。では、私の過去のことを外してもらえますか?
もちろんです。ちょっと待ってくださいね
そういうと、左腕にはめていた数珠を右手に取り、口の中で何やら呪文のようなものを唱え始めた
はい、聞こえてきました。聞こえてきました。はい。
あなた、今日はここまで自転車でやってきましたね?
――いいえ、東京からなんでムリです。
今朝は、ミャンマーにいたでしょう?
――ですから、東京からここに来ました。
フゥ……。やはり、外しましたね。これが私の能力である、逆サイキックリーディングです。
私があなたのガイドから聞いた声をそのまま言っているのですが、その全てが外れてしまうんです。
――こう言っては失礼ですが、絶対に外れるようなことを適当に言ってませんか?
そう言う方も大勢いらっしゃいます。ですが、私にはハッキリとあなたのガイドの声が聞こえているんです。
その言葉をそのまま伝えています。ガイドの声を聞きとれる以上、私には逆サイキックリーディングの力があるとしか、言いようがありません。
――そうですか……。私にもできると思うのですが?
それも大勢の方がおっしゃいます。
ですが、私のように声が聞こえるかどうか? そこが問題なんです。
あなたは適当なウソをついているのではないか? と疑っているようですが、私にはハッキリと声が聞こえているんです。そこは大きな違いです。
ウソを言うのは簡単ですが、声を聞きとることは容易なことではありません。
――わかりました。では、私の家族のことを視てもらえますか?
もちろんいいですよ。
(再び呪文を唱え)
聞こえてきた。聞こえてきた。
あなたには今年で2歳の双子の妹がいます。
――いません。
あなたのお父さんとお母さんは、現役の夫婦漫才師ですね?
――ちがいます。
自宅の庭に、大きな自由の女神像がありますね?
――ありません。
弟さんは最近、アボカドアレルギーで入院しましたね。
――そもそも弟はいません。もう結構です。
いかがですか? 全てが逆を言ってしまうのです。あなたのガイドの声が全て、偽りの情報を私に送ってくるのです。
――逆の意味がよくわからないのですが? 適当なことを言ってるだけじゃないんですか?
違います。正解の反対だから逆です。
なんらおかしな点はありませんよ? それにきちんと声が聞こえています。
――確認ですが、これで料金はいくらでやっているんですか?
1時間8000円からになります。
――高いですよ! 納得する人いないでしょ?
あなたのガイドの声も8000円では高すぎると言っていますね。
つまり、その逆。8000円では安すぎるということです。
――もういいです。あなた本当に声が聞こえているんですか?
もちろんです。ですが、それを証明しろと言われても難しいです。それを行おうとすると、それは魔女狩りになります。
私はこれからもガイドの声を聞き、絶対に当たらないことを言う、それで証明するしかありません。
あなたは、今パンティーを履いています。
――履いてませんよ
しかもパープルのレースのヤツです。
――だから履いてないですって
おでこに肉というタトゥーを入れてますね?
――入れてませんよ、見ればわかるじゃないですか!
体重100キロを超えてます。
――バカにしてるんですか? もういいですよ。そういうのは。
私も、続けてリーディングしたので少々疲れました。
それでは、8000円だけいただけますか?
――……。
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私は最終的には呆れてモノが言えなくなっていた。
逆サイキックリーダーと言い張るこの男の根底に、果たして罪の意識は存在するのだろうか?
唯一、彼を救う言葉を探すとすれば、『逆サイキックリーダー』という職業を生み出し世間を騙せたという発想力が備わっていたということだろう。
東京までの帰りの飛行機の中、沈鬱な私の心を読み取ってくれたキャビンアテンダントが疲れ果てた体に毛布をそっと掛けてくれたことが、何よりの救いとなった。
おわり