令和で一番面白い本を紹介したい
「少子化が問題なら子宮の絶対数増やせば良いのだから、男にも子宮付けられる研究を進めた方が良い」
何年も前、同居人にこんな事を言ったらものすごい怪訝な顔をされた。
何も全員に付けろなんてつもりでも無かったが、多様性を謳われる社会で様々な人たちが居ることも分かり、純粋に欲しいと言う人も存在するだろう。私はまあまあ本気でそう思っている。
そしたらそんな小説が存在した。
物語は疫病により若い女性が大量死した日本である。疫病は国内外への渡航禁止やワクチン開発等の迅速な対応により収束したものの、このままでは日本の存続が危ういとし、そこで国が出した御触れが『徴産制』というものだった…という話である。
徴産制とは徴兵制に掛けた言葉であり、18歳〜30歳までの男性に二年間、手術により完全に女性になってもらうというのだ。
何故こんなトンデモ案が成立してしまうのかという理屈や設定も抜かりない。この該当者は人口の僅か7%に過ぎず、また18際未満には選挙権も無い。将来の漠然とした不安と他人事感が国民を後押しした、というのが一つである。
反対派も勿論居るけれど微力で、国民的アイドルによる率先したPRだったり、割と保証も厚い為流されるままこなそうとする人々など、この無きにしも非ずといった説得力とリアリティが何処となく日本らしさを醸している。
スマホでなくウェアラブルデバイス(WDと表記される)が普及している位の近未来であり、この制度により生殖可能な性転換をした五人の視点それぞれが描かれる訳だが、ディストピアSFとして捉えるには重々し過ぎておらず、案外楽しんでいたり、一縷の希望を見出したりしながら、彼らや彼ら以外の人間たちの心情や関わり合いに思いがけないような感情が湧いてくる。
机上の空論ばかりの世論や未曾有のパンデミックを経験した現代人には、このシニカルさが爽快に刺さるのではないか。
夏の読書候補の一つに、是非お勧めしたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?