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生活支援員95「ゆるくてディープな知的障がい者グループホームの日常 靴下は今夜も宙を舞う」
ゆるくてディープ、なんかすごい分かります。我が家にも一名、知的障がい者がいるわけなのですが、確かにそんな感じなのです。朝方、何かが起きている音を聞きつけて飛び起きるとか、想定されるいたずらをどう防ぐか必死に知恵をしぼり出すとか、海に連れて行ったら信じられない速さで砂浜を走るから気を抜けないし。
大変じゃないと言ったらウソになりますが、どちらかといえば、笑うしかない、という感じなんです。
障害者グループホームは、世話人による日常生活の支援を受けながら、共同生活を送る社会福祉施設のひとつです。様々な程度の障がい者が一緒に暮らし、就労支援施設などにでかけて作業をする人や、日中もグループホームで介助を受けて生活する人もいます。以前は、入所施設に入るか、在宅で過ごすか、という二択でしたが、入所から地域移行へ、ということで、グループホームの入居者数が年々増えています。
私はこの4月から障がい者支援課に異動となり、グループホーム運営費補助金や家賃補助の仕事に触れることになったわけですが、制度の内容は分かっていても、グループホームがどういうところなのか、具体的なイメージが湧いていませんでした。そんなところにこの本に出会い、この素敵なタイトルに惹かれて、読むことにしました。
生活支援員95さんは、他の職種を経て、福祉の業界に入った方です。グループホームの利用者のことを一人の人間として、大切に向き合っていることが分かります。なんでもやってあげるとかではない、相手の考えていることを探ろうとしたり、でも決してそれを突き詰めようとして無理をするということもない。なんというか、福祉という言葉の持つちょっと本来的でない善意の押し付けみたいなところが少しも感じられなくて、いいなと思いました。もちろん仕事としての、利用者と支援員としての立場はわきまえていますが、対等な関係を大切にしているのです。そこにあるのは、支援する側、される側ではなくて、友情な気がします。
なので、「靴下は今夜も宙を舞う」ということになるのかもしれません。
はじめに、の中にこんな言葉が書いてありました。
最後に一言。
なぜ障害があるってだけで、肩身がせまい思いをしなければならないのか。
なぜ、障がいがあるってだけで、悲壮感を漂わせて生活をしなければならないのか。
95は、知的障がい者だって面白おかしく、幸せに生きていくことができるってことを、世間の人に知ってもらうために、この本を書き上げました。
この95さんの言葉、とても嬉しいなと思います。知的障がい者の親である身としても、障がい者福祉に関わる身としても。
一つ、印象に残るエピソードがあります。
10分程度の職場まで毎日通う自閉症の及川さんの話。ちょっとした問題行動を起こしてしまいます。女性を見ると「おねーさん、おねーさん」と呼びかけながらボディタッチをしてしまうそう。ダメですよ、と注意しても、つい。後をこっそりつけていくと、すれ違った女性に駆け寄ろうとして……95さんが飛び出して注意すると、及川さんは逃げていきました。
どうしたらよいものか、と95さんは頭を抱えますが、しばらくすると、苦情が来なくなります。
そこで95さんが後をつけていくと、なんと、10分間のみちのりの間に、色んな人が声をかけてくれるようになっていたのです。タバコ屋さんのおばさんはお菓子をくれて、信号機のボタンを押しちゃう癖は、「押しちゃだめだよ」と通りがかりの人に声をかけられて、ごみ捨て場を漁ったこともあったけれど、掃除当番の人にたしなめられたことがあったからか素通りして。色んな人が気にかけてくれたから、未然に防ぐことができるようになった、ということなのです。
こういうのが、地域で生活するということなのだろうな、と95さんもおっしゃっています。
95の生活支援員としてのモットーは、「みんなが笑って暮らしていく」こと。利用者さんはもちろん、その保護者さんも、支援員も、またそこに関わるすべての人が笑って暮らせる世界がつくれたらいいなと思っています。
私もそう思います。そんな日に少しでも近づくように、多くの人がこの本を手にとって温かい気持ちになってくれたらな、と思います。