
吉田泰己「行政組織をアップデートしよう ~時代にあった政策を届けるために~」
もうなんか、ただただ圧倒的過ぎて、そうだよね、でも私に何ができるんだろう、と思うばかりでした。でも読んだ証を残しておきたくて、要約してみました。
プロローグ 行政組織の経営についてもう一度考える
内閣官房デジタル行財政事務局(兼)デジタル庁企画官の著者が、2021年9月に立ち上がったデジタル庁で様々なプロジェクトを行っている中で気づいたのが、「行政組織であっても、組織経営に関するノウハウを持つ人材が、より効果的、効率的にパフォーマンスを出せるような環境づくりを実施しなければよい結果は出せない」ということ。この環境づくりはデジタル庁だけでなく、すべての行政組織においてなされるべき改革の方向性を示し、解決の糸口になるのでは?
CHAPTER 1 行政組織の直面する経営課題
【外部環境変化による課題】
デジタル化によって単独の部署で対応していたような課題が、他の部署や組織と連携しなければいけない課題になっているケースは多い。これによりコミュニケーションコストがかかり、結果として時間がかかる。
またVUCAの時代で、できるだけ予測し、ことが起きた時にすぐに対応できるようにできるよう、あらかじめガバナンスを設計しておかなければいけない。経営学ではPESTというフレームワークで政治、経済、社会、技術の変化を整理して予測することで事業戦略を考えるが、行政にはバラバラに分析し包括的な対策が打てていないことが多い。
またステークホルダーも従来とは大きく変わってきている。
【内部環境変化による課題】
公務員の数は世界各国と比較して低く、それにより業務負担が増加している。自己都合退職は若い世代でも中堅層でも増えている。ロールモデルとなる上司の役割や働き方が魅力的なものでない場合は、意欲的で新しいことにチャレンジしたいと考えている人ほど、退職しやすい傾向にある。
CHAPTER 2 これまで用いられてきた行政の経営システム
この章では、明治から戦後を経て、2000年代までの行政の経営システムや、行政改革モデルについて振り返っています。これらは組織を変えることが中心で、人材採用や組織文化を変えることにまでは及ばなかった。
CHAPTER 3 成果を上げる新しい行政経営システムを考える
CHAPTER 1で見たような現実の中、個々の行政官の能力に依存した問題解決は限界に来ている。このままでは実務能力が先細りになる。
そもそも組織は目的を達成するための仕組みで、官も民も関係ない。民間企業は時代の変化に対応して、次々と新しい経営システムが生み出されている。行政も同じで、よい組織でなければよいサービスは提供できない。
行政組織のパフォーマンス改善手法として、次が考えられる。
外部の事業者に委託する(能力のある外部の力を借りる)
行政が取り組むべき政策の範囲を見直す(市場に委ねる)
能力ある人材を採用・内部化して実施する(内部の人材の実行能力を強化する)
業務プロセスの見直し・IT投資を通じて効率化する(機械での人の役割を代替する)
利用者と共に解決手法を考え、実践する(コミュニティによる課題解決)
伝統的には1や2の手法がとられてきたが、現状を乗り越えるためには3~5があると考えられる。しかし、行政組織の慣行とは異なる組織文化や行動様式を導入しなければ成り立たない。
組織の億滴が適切に位置づけられ、それに合わせて事業が評価されているか
資源が組織能力を最大化するよう適切に配分されているか
継続的に組織パフォーマンスが発揮される人材採用と人材育成がなされているか
こうした課題をクリアできた上で、経営システムのモデルチェンジが可能となる。緊急性のある課題が優先されがちだが、経営システムの見直しはとても重要で、気付けば緊急で重要な課題にも柔軟に対応できる能力が組織から失われてしまう。
CHAPTER 4 ジョブ型人事戦略
厳しい環境要因の中、成果を出す組織となるためは、個々人のスキルを活かせるジョブ型人事制度が重要となる。具体的にどのようなことを考えるべきか。
【行政組織への外部エキスパートの採用】
採用でどのようなことを目指すのか
・エキスパートのスキルを組織内の業務に活かす(専門性強化)
・エキスパートの知見を組織のナレッジにする(ナレッジ蓄積)
・エキスパートから学ぶことで専門能力を持つ職員を増やす(人材育成)
エキスパートが行政組織内部で活躍できるよう、能力を発揮しやすい環境や待遇を行政組織側が整備することも必要
【既存の行政官の役割をジョブ型に見直す】
行政官が行っている仕事をスキルベースで分解する
マネージャー(統括)
プランナー(政策企画)
プロジェクトマネージャー(事業執行)
リーガルマネージャー(法令担当)
このうち上の3つは民間企業内の役割とそれほど変わらない。外部人材を採用することに加えて、行政官も必要なスキルを身につけていく必要がある。それとともに、デジタル化が進むことで、全ての業務がデジタルを前提としたものになることから、下記の3つに関しての基礎的なレベルは全ての職員が学ぶべき内容である。
利用者の立場に立ったデザインアプローチの理解、業務フローの整理
業務をデジタル化するにあたっての基礎的な知見
デジタル化を通じて蓄積されたデータを有効に活用できるようなデータリテラシー
標準的な知識に加え、業務の進め方の標準が定められていれば、どの部署に配属されてもすぐに業務をスタートできる。
さらに、各部署で働くことでどのような能力が身につくのかが明確になり、自分のキャリアを考えることができて、人事もそれに向き合うことができれば、組織は自分が社会に対して価値を実現するための器であると実感することができると考える。
マネジメントについて書かれている部分に共感したので、引用します。
管理職についてもどのようにマネジメントを進めていくべきかの方法論が確立していないがゆえに、個人のやり方に強く依存することになり、上司の性格によって部署のパフォーマンスが大きく変わってしまう。管理職がマネジメントとしてどのような役割を果たすべきかについても明確化する必要があるが、現状ではこれが十分になされていない。
マネジメントスキルが定式化されていない弊害は、もっと効率的、効果的にチームの能力を発揮する手段があるにもかかわらず、それを知らないことによって、非効率かつ人材の負担が大きくなってしまう点だ。
マネジメント研修は行われているものの、それと現実が結び付ていないのではないか、と思われることがあり、もやもやします。自分自身は、研修以外にも、本を読んで考えたりして、どうあるべきかを比較的意識している方ですが、それも他の目でみるとどうなのか、ということは分からないな、と思います。
CHAPTER 5 行政のアップデートを促す組織文化
【組織文化はパフォーマンスを規定する】
組織内の人材がより緊密に連携すればするほど、乗数的にパフォーマンスは向上する。これを支えるのが組織文化。
終身雇用は組織文化を浸透させるための仕組みだったはずが、今は形骸化している。
組織文化は、その組織のミッション、ビジョン、バリュー(MVV)を言語化し、浸透させるための施策さえあればよい。外部環境が変化し続ける中、ミッションもビジョンも変えていかなければいけない。
また現在の行政組織の多くでは、組織で重視すべき目標が明確でないため、上司の満足度になってしまっていて、結果として上司に忖度し、若手にとってはその非生産的業務の合理的な理由が得られないまま離職につながっているのではないか。
もう一つは、失敗から学び、次につなげる、という考え方が浸透していない。医療や法曹と同様、完璧性を求め、失敗を認めようとしない組織文化が存在するように思われる。メディアや国民からの失敗に対する強い批判によるところも大きい。批判だけでなく、そこからどうすれば同じ誤りを起こさないか、という視点が大切。
【組織人材循環論】
新しい人材を受け入れるには、新しい取り組みをしやすい環境になければならないので、このような組織文化では、化学反応も起きにくい。
外部環境の変化が著しい場合には、そもそも組織内部の人材が入れ替わることを前提とした組織のほうが、より柔軟に外部の人材を取り入れることができる。
例えばリクルートでは8%の離職率を1つのベンチマークとして、組織からの人材の卒業と新しい人材の取り込みを両立させている。
行政においても中途人材の採用が行われるようになっているが、その人の能力が活かされていない可能性も高い。その配置を最適化できるようにしなければいけない。
CHAPTER 6 行政におけるデジタル投資の意義
【投資によって組織の生産性を高める】
行政組織においては、労働生産性は職員の人数や能力として認識される一方、これまで組織のパフォーマンスを高めるための「投資」という考え方自体がなかった。
デジタル技術に対する投資を認識し、生産性を高めることが重要になる。
【ソフトウェアの活用を通じた業務効率化・自動化】
バックオフィス業務や普段のコミュニケーションのデジタル化が必要。
まずはここから実現しなければいけないことであり、それさえできてない人には、行政サービスのデジタル化などできない。
【データの利活用を通じた政策・サービスの付加価値向上】
バックオフィスや行政サービスのデジタル化ができて初めて、そのデータを活用した効率化や新しいサービスの創造による付加価値の向上が実現する。
そこで初めてデータを収集することができて、EBPM(Evidence Based Policy Making)の議論になる。
利用したいデータが行政サービス等のデジタル化を通じて蓄積されている(さらにいえば、加工しやすい形で標準化して蓄積されている)
それらのデータから、何が重要か、可視化等を通じて把握可能になっている
可視化等を通じて課題とその要因に対する一定の仮説が整理されている
といった条件がそろっていることが前提である。
【生成系AIの活用・新技術の扱いに関する考え方】
分かりやすい文章の作成や、調査、データの編集などは、AIを活用することができる。しかしいくつかの注意点がある。
まず一つ目に、アウトプットをチェックする役割は依然として人間が行うこと。
機密性の高い情報を扱う場合には追加するデータリソースの気密性、生成系AIに対するプロンプトの機密性の両方に注意する必要がある。
CHAPTER 7 共創モデルによる政策形成と実施
【「政策」と呼ばれているものの解像度を上げる】
一口に政策といっても、いくつかのレイヤーが考えられる。
今後の世の中がこうあるべきといった「ビジョン」
ビジョンを実現するための「仕組み」
仕組みに基づいて提供される「サービス」
多くの行政組織では、これらをきちんと意識して議論できていないのではないかと思われる。またそれぞれに必要なスキルが整理されていないため、人材配置の最適化がなされていない。
【デザインアプローチを通じたステークホルダーとの共創】
行政組織が新しい政策決定を行う際に、ステークホルダーからの意見聴取のため、審議会等の場を用意して意見を聞いた形を取る。従前は機能していたかもしれないが、今の時代には、政策課題が捉えられているがどうか。
今後は、課題や目指す社会増からステークホルダーと共に考えていくアプローチの政策立案が有効になると思われる。
加えて、実際にその政策手段のユーザーとなるステークホルダーの人物像(ペルソナ)の解像度を高め、その人にとってどのような施策が望ましいかといった視点を深めることも、デザインアプローチを導入する意義である。
この手法の利点は、として次の3つが挙げられる。
ステークホルダーの様々な視点からのフィードバックが得られる
議論を通じて共通理解の構築が可能
対応策の解像度を高めることができる。行政側で見落としていた視点、課題や問題解決のアイデアを得ることができる
【事業を外部委託してきた民間事業者との関係性】
人材不足の対策として、民間事業者への委託を通じてリソースを強化し事業を進めようとすることが多い。
職員が知見やオーナーシップを持っていない場合、委託先の事業者に丸投げになってしまう場合が多々ある。この場合委託金額に対して十分な効果が得られないことがある。
他方、入札の場合、事業者側が知見を持たないまま安価で落札し、行政職員側がかなり関与しないと事業が達成できないといったケースも起こり得る。
社会で評価されるような事業が実現する際には、行政側、受託事業者側双方にその事業に対する深い理解や目指すアウトプットに関する認識の一致が履かれていて、コミュニケーションがうまくとれている。
さらに、公共調達やPFI以外にも様々なパターンが生じている。
オープンデータ・オープンソースを通じたサービスの共創
非営利団体をベースとした官民が▼したガイド策定
民間事業者側がサービスを提案し行政課題を解決する
CHAPTER 8 新しい行政経営システムへの行動変容を促す
【これまで行政組織の経営システムに変化が起きなかった理由】
『「変化を嫌う人」を動かす」(ロレン・ノードグレン、ディヴィッド・ションタル著、舟木謙一監訳、川﨑千歳訳)では、「惰性」、「労力」、「感情」、「心理的反発」の4つの要素が、人が新しい考え方を受け入れる抵抗になっているとしている。
行政においても、この4つで説明できるのではないか。そして、この一つ一つに対応していくことで、変化を起こすことができる。
【行政経営システム改革は組織的な行動変容である】
こうした取り組みは一人で進めることはできない。常に協力者が必要で、幹部も含め、誰が組織における理解者かを見定め、その人に動いてもらうことでどんなインパクトを組織にもたらせるかを図りながら進めることが重要。
また、諦めず続けられる持久力が必要で、野心的なプロジェクトが企画倒れになるのは、周りから反発や否定で諦めてしまうから。
実際には組織内の人材配置やその時の組織内のムードで、一気に進む時とそうでない時がある。だから、実現したいことがある場合には、時期を見定め、そのタイミングで施策を打てるように準備しておくことが重要。
CHAPTER 9 デジタル時代における国と地方の役割
【国はデジタル公共インフラ(Digital Public Infrastructure)を提供する】
デジタルのメリットはスケーラビリティにある。これまでの地方分権の議論は「人」がサービスを提供することを前提としたため、負荷分散が有効と考えられてきた。
しかしデジタル技術は、手続き処理が共通化しているものは、プログラムを通じて同じように人手を介せず処理することができる。
さらに、システムの物理的なインフラに限らず、国際的には、国連、世界銀行、国際通貨基金などによって、デジタル公共インフラ(DPI)という概念が提唱され、オンラインでの社会活動におけるインフラの整備を担うことを示唆している。
デジタル時代において、改めて、国・広域自治体・基礎自治体のデジタルサービス提供での役割を見直す必要がある。
CHAPTER 10 行政経営システム改革のヒントとしてのデジタル庁
この章は浅沼尚デジタル庁デジタル監自身による、これまでのデジタル庁の経営システムや組織づくりに関しての取組の記述となっています。
要約をしてみて、少しは理解できたような気がしますが……自分の職場でどう活かすかとなると、まだまだ抵抗勢力があり、ほんの小さなことを変えるだけでも結構苦労しています。
しかし、自分の身の回りでできることからやっていきたいと思います。