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西川貴清「現場から社会を動かす政策入門」
事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きているんだ!
あの名ゼリフじゃないですけど、市役所という建物の中で毎日仕事をしていると、そう言いたくなる瞬間があります。
でも多分それは、自分のプライベートに絡む部分だけ。例えば、重度の知的障がい児と一緒に暮らすこととか、スーパーで買い物をすることとか、PTAのこととか、ワンオペ育児、兼業主婦のこととか。
あと、結構、簡単に世の中を二分してしまう、ジェンダー問題とか。
そういう現場を知っているだけで、それはほんのごく一部、あらゆることを知っているわけではありません。
でもできるだけ、まちに出て、いろいろ体験して、話をそれとなく聞いて、肌感覚で知りたいと考えていました。
だから、それなりに色んなことを分かっているんじゃないかと自負していました。
外の人とつながりがほとんどないような人のことを、心の中でちょっと見下しながら、私は現場に近い方にいながら、色んなことに取り組んでいる、と思ってしまっていました。
でもこの本を読んで、違うな、と気付きました。
私が知っていることなんて、ごく一部だし、世の中には、まだまだ問題がたくさんあります。
もちろんそれを問題として認識し、課題を特定し、解決策を考え、理解を得て、制度化し、実践するのが、行政の大切な役割です。
でもそれが完全にできるわけではない。
(無謬性とかもう違うし)
だからこそ、どうすれば世の中をもっとよくできるのか、現場から、(行政の立場ではない)私たちが声を上げていこう。
というのが、この本の言いたいことなんだと思います。
そして、ただ訴えるだけじゃなくて、社会を変えていくために、どんな方法をとればいいのか、その様々な戦術や気を付けるべきことを丁寧に解説しています。
こんな内容です。
第1書 政策づくりのプロセスと政策を取り巻く環境の変化
第2章 民間団体と政府の価値観の違いについて
第3章 7つの政策ツール
第4章 制作の実現可能性を上げる6つの変数
第5章 官僚と政治家の違い
第6章 与党と野党の違い
第7章 省庁の違い
第8章 政策のタイミング
第9章 仲間を増やして政策を実現する方法
第10章 自治体での政策実施
第11章 4つのケーススタディ
この本に書かれている範囲は、問題認識をするところから、制度化するところまで及んでいます。行政がやらなければいけないけれど、何かを進める時に支障になることを一つ一つクリアした状態で持って行くための方策が書かれているわけです。
そこまで整えられてきた場合、あとは予算や施策の優先順位、他に及び影響などを勘案して支障がなければ、進めるしかない、という感じになるのだと思います。
行政職員としては、そこまでやられてしまうと、悔しい気がします。ですが、自分が課題の特定ができず、制度構築ができなかったところに提案されたとしたら、あと残りの実現までの少しの道のりを何としてでもやらなければいけないだろうと思います。
制度が機能するか、反対意見に対応できるか、他にどんな影響が出るのか、その手当てができるか、その判断をきちんとできるようにしなければいけません。
つまり、提案されたことを、適切に受け止められるようにならなければいけない。
ひょっとすると、現場で起きていることを知ろうとするよりも、会議室の中で、現場からの声を受けて、社会を変えるところに専念しなければいけないようになるのかもしれません。
この本を書かれた方は、元官僚だそうです。ご自分も実際に取り組まれてきたので、どのように政策がつくられているか、ということを熟知されています。私は自治体の部分しか経験がありませんが、その部分も自治体ごとに多少のずれがあったり、そんなにきれいに動くわけではないこともありますが、書かれている通りです。
読みながら、新たな社会の流れに合わせて仕組みを変えていく、新しい行政の形を想像して、ワクワクしました。
著者は株式会社千正組の取締役をされています。