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金原知宏「福祉って本当にこれでいいの? ~『自立や成長』『知識や技術』だけが支援なのか」



福祉に携わる人の理想は、自分が満たされていて、他の人にも目を向ける余裕のある優しい人だと考えていました。とはいえ、なかなかそんな人はいないし、いたとしても、福祉に関心を持つか分からない。だから、それぞれ、少し欠けたところを持ちながら、それとどうにか折り合いをつけながら、お金のため、自分の生活のために、福祉の仕事に携わっているのだと考えていました。
けれど、この本を読んで、少し違うのかもしれない、と思いました。

私は福祉の仕事に携わっているかどうか、といえば、微妙なところです。
福祉を広い視点でとらえれば、携わっているといえます。地方自治法第2条には次のように書かれています。

地方公共団体はその事務を処理するにあたっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。

地方自治法第2条

都市計画とか、商工業振興とか、いわゆる福祉とはかけはなれた部署に見えたとしても、「住民の福祉の増進」ということが、その土台にあるはずなのです。
まして今は、障害福祉の分野にいるので、とても身近にあります。

この本は、職場で本を貸し出ししている人の本棚から借りました。
さわやかな表紙と、ぱらぱらっと開いてみると、読みやすそうなところにひかれて、これを選びました。本当はいつも読んでいる分野とは違うものを読みたいときに、行ってみるのですが、結局仕事に絡むことになっちゃったな、と思ったりもしました。
著者の肩書に社会福祉士とあります。色んなことを考える思索タイプの方が、実践しながら、現状の福祉に疑問を呈する、みたいな本をイメージしていました。軽やかに、仕事のモチベーションを上げられると思ったけれど、全く違いました。

確かにいろいろと考えていました。考えたことを実践し、実践しながら、振り返り、ひたすら考えていました。というか、半分以上悩んでいました。

著者は「学問」として面白そう、という動機から、専攻を決める際に、社会、心理、福祉の中から、福祉を選んだと言います。その後、学童のバイトで、子供たちと接しながら、福祉を学び、そして、最初の職業として学童に就職することを選びます。
大学まで出たのに、学童を選ぶのか、と周りには言われたりしたようですが、障害者福祉施設の面接を受けたりした過程でやはり、自分は学童の仕事をしたいのだ、ということに気付いたと言います。学童で、大学で学んだ福祉をどう生かすことができるのか、ということを知りたいと感じていたといいます。

私が関わる子どもたちは、今が十歳前後だとしても、十年後には大人になっている。目の前の子どもたちはそういう未来を持っている人たちで、自分が関わっていられるのは、子供たちの本当にわずかな時間の中の一部分だと強く意識するようになっていた。子供一人一人の傾向、性格、長所短所、あるいは課題、そういったことを統合して、その人生はどのようなものになっていくのか、想像しながら今を見つめて、関わっていく。そのような関わり方は、もしかするとその子の人生に何の影響も与えないかもしれない。それでもあきらめない。

本書

私の子どもも学童を利用していますが、単なる子どもを家に1人でおくわけにはいかないから預けておく、といった以上の価値があると感じています。加えて、宿題をやらせてくれる、ということもありがたいですが、それにとどまりません。他の子ども達、違う学年の子ども達も含めて、遊ぶこともできるし、何より、親以外の大人と様々な会話をすることに、大きな価値があるなと考えています。

実際に学童の仕事をしていく中で、子どもと接したことについて深く考えます。何かトラブルが起きたときに、子どもたちの様子はどうだったのか、子どもたちがどのような言葉を言ったのかということを思い出して、その時自分がどんな風に言えばよかったのか、どう行動すればよかったのか、ということを振り返りノートに記していきます。
徐々に、その時どんな風にすればよかったのか、ということが、どんどん芋づる式に思いつくようになって、様々な可能性を考えられるようになったそうです。

本書

ここまで思い入れを持って仕事をしてくれるのは、すごいことだと思います。でも時折、子供たちが学童の先生に不満を感じたこと、子どもの考えを頭から否定するような言葉を言われたことなどを訴えてきたりします。
たくさんの子どもを見るから守らせなければいけないルールがあって、先生の行動が良くないとか間違っているとかは思いません。ただ、子どもたちの気持ちを汲み取ることまでするのは難しい状況だったんだろうな、と思います。
なので、著者のこの振り返り作業は、貴重というか、すごく特別なことで、そこまでやらなくても、と思ってしまいます。実際、ここまで熱心になって取り組んでいる行動が、他の職員には理解されなかったりすることもありました。

著者はその後、自分がそんな風に扱ってもらえればよかったのに、と思いながら忘れていたことを、大人になった自分が再現しているのだ、ということに気付きます。振り返りノートを書きながら考えたことを実践するたびに、涙目になりそうな自分を感じたといいます。

そう考えていくと、果たして、福祉を担う人は、自分が満たされていて、その余力で誰かを助けるのが一番よいとは限らないということになります。例えば、自分の傷ついた部分で対象の方の傷に共感することで、相手が「理解してもらえた」と感じて安心するようなこともあったりするかもしれません。逆に傷ついたことがなければ、分からないこともあるかもしれません。

けれど、みんながみんな、そこまで相手に寄り添って仕事をすることに必要性を感じているわけではないわけで、徐々に、自分が受け入れられないことに苦しむようになります。
特に障害者のグループホームの仕事に転職してから、なおさら感じるようになりました。

別に努力をあきらめたわけではないし、投げやりになったわけではない。ただ、一人で努力を続けながら仕事をすることが苦しくなっていた。仕事ぶりは周囲から評価されていたものの、嬉しさより虚しさの方が大きかった。当時の私の働き方が、いつの間にか「仕事が全て」のようになっていたのだ。仕事の達成感だけをひたすら求めたにも関わらず、「自分の人生は仕事だけでいいのか」とやりきれなくなったのだ。さらに評価や給料を受け取っても私はもともと自己肯定感がとても低く、「こんなにもらう価値がない」と思ってしまう。その差が苦しかった。

本書

すごく自分の仕事に自信を持っているわけではないけれど、私も同じような感覚があって、自分の可処分時間の全てを仕事あるいは仕事絡みのことに費やしている実感がありました。例えば本を読もうとしても結局福祉のことになってしまうこと、今回はそもそもタイトルもそうだったけれど、どんな本を読もうとしても、福祉的な話が出てくればそちらの視点で考えてしまうし、そうでなければ、マネジメントとか、働き方とか、そんなことに注目してしまいます。
評価や給料については、正直なところ満足しているわけではないけれど、でも、では他の道を選ぶことができるのだろうか、と考えると急に自信を失い、私はここで生きるしかない、と考えてしまいます。

著者は、自分自身がカウンセリングを受けることで、立ち直っていきます。

というわけで、いたたまれなくなって、今日、朝、道路がものすごく混んでいて、始業時間に間に合わないことが分かったのをきっかけに、今日なら休んでもそれほど問題がないことを考え合わせて、急遽休むことを決めました。
私もカウンセリングに行きたいと思いました。
以前何度か行ったことのあるカウンセリングに急遽行けるかどうか確認しようか、といろいろ考えていたけれど、前から気になっていた別のところに予約を取れることが分かって、急遽行ってみました。
そこでの体験も、すごく興味深いものだったのですが、身体中に入っていた力がきちんと抜けて、冷静に考えられるような、頭がすっきりするような不思議な感覚でした。

その後、仕事のパソコンを持ち歩いていたので、途中、リモートでつなごうと考えたりもしたけれど、うまく繋げなくて、まずい、と思うよりは、ああ、ちょうどよかった、少しはのんびりしよう、と考えられました。そんな自分に驚きました。
この頭と体の感覚を忘れてはいけない、と思いました。
明日になったら、休んだこと、リモートでつながなかったことを後悔するかもしれないけれど、それはそれで、仕方がなかったんだ、と思えばいいと考えることができました。

今ただ頭に浮かぶのは、住民の福祉といったって、あらゆる全ての人を幸せにできるわけではない、組織としては、ともかく、自分は自分の手の届く範囲のことを、最大限やればいいのだ、できないことまで思い悩まなくていいのだ、ということです。
完全に満たされた人などいないから、欠けたところのある人たちで、できることをするのが理想ではなくて、欠けたところがある私たちが、悩みながらも、人に福祉サービスとして何かを提供できる余裕を持ちながら、取り組んでいく、というのが本当のところなのだと気づきました。
しかもどれが理想とかではなく、ありのままの自分がどう接していくか。もちろん組織としてのビジョンやルールはあるとしても、個々がどう関わるかについては、突き詰めればどちらがよくて、どちらが悪いとかではない。社会に色んな人がいるように、福祉の現場においても、生きていく上で色んなことの積み重ねでできあがってきた個々人が、それぞれの形で対応する、それが大事なのだろうなと、今は思います。

仕事をしていくうえで、色んな人の情報が入ってきます。
私はそれの一つ一つに対応するのがメインの仕事ではなく、計画を作ったり、仕組みを整えたり、全体としてよりよい方向していくことなのだと改めて思いました。だからこそ、一つ一つの話に振り回され、心を奪われるのではなく、やるべきことをやろうと思います。

著者のnoteを見つけました。少しずつ読んでみたいと思います。サムネがかわいいです。


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