寺本英仁「A級グルメが日本の田舎を元気にする スーパー公務員が役場を辞めた理由」
「平野レミさん推薦!」と書かれた帯に「寺本さん、なんで課長さんを辞めちゃったのよ!」とある。私も本当に同じことを考えていた。というのは寺本さんだけに限らず、全国的にも有名になるようなすごい公務員たちが次々と辞めていってしまうのを目の当たりにしていたからだ。
この本は、寺本氏の最初のチャレンジから、今年3月に退職した後、<A級グルメ>をコンセプトにしたアンテナショップ「ちよだグルメショップ+A」を立ち上げて西伊豆町をテーマにした6月のマンスリーイベントの振り返りまでについて、書かれている。寺本氏はこの間、本当に色んなことを邑南町で、また他の自治体にも影響を与えたりしながら、変えてきたと思う。
社会が少しずつ変わっていく中で、組織の中でやるべきことがずっと同じでよいということはない。常に変わっていかなければいけない。一方で大きく変えたときには、それが続くように一連の流れを構築しなければいけない。
すごい公務員たちは、やるべきことをやって変えた。それはとてもすごいことだ。けれど、辞めた後その役所は、まちはどうなっているのだろうか、ということが気になっていた。だから私も、「え、寺本さんも辞めてしまったのか」と思っていた。
私のいる組織の中でも、あの人がいる時は、この部署ですごいことがたくさん行われた。でもいなくなったら、やらなくなってしまった、ということがよくある。私はそれがとても残念だった。そういうすごい人の一人に訊いてみたことがあった。自分が良いと思って始めたことが、続かなかったりしても気にならないんですか?と。その人の答えはこうだった。
「次の体制で必要ないと思えば、それは仕方のないことだから」
私は結構ストーカーみたいに過去に自分がいた部署の動向を見張ってしまう。でも、その人みたいに軽やかに考えられれば、今の仕事に注力できるのかもしれない。そして、数々の実績を残せるのだろう。そして、確かに時代が変われば、必要なことは変わってくる。でも例えば、翌年、あるいは翌々年に消えてしまうって、どうなんだろう。
とはいえ、それが続けられない事情もあるのだと思う。例えば、仕事が属人的過ぎて、継続できなかったとか。マニュアルとかは整理しているとしても、その他の業務も抱えながら(スクラップしていればまだ良いけれど)、新しいやり方が難しくて後戻りしてしまったとか。
変えるならその部分をちゃんと続けられるようにしておかなければいけないと思う。
寺本氏の「ビレッジプライド『0円起業』の町をつくった公務員の物語」を読んだときに、この方は、事業をしながら、すごく考えているんだな、と思った。自分の力技で変えようとするのではなく、色んな人が関わるようにしている。というか、色んな人と関わる中で、その人がやりたいと思っていることをきちんと把握しているから、新しい取り組みをするときに、どんな人に声をかければよいか、ということがよく分かっていて、ちょっと無茶ぶりな時もあるかもだけれど、ちゃんと関わってもらうことができる。もちろん最後まで断られてしまうこともあったのだろうけれど、それでもビレッジプライドの中でも今回の本の中でも随所で、色んな方にお声掛けを承諾してもらった話が紹介されていた。返事を保留されながらも、最終的には合流してもらったということもある。その人のやりたいことやミッションと事業が合っていれば、自分がいなくても事業の魂、ビレッジプライドが生き続けられるということなのだと思う。
さらに、この本の中では、自分よりも先に退職し後に地域商社となる「食と農人材育成センター」で働いている元上司に、無茶ぶりを発揮しながらも、新たなチャレンジをするように仕向けている。
邑南町を実際に見てきたわけではないけれど、しっかりとビレッジプライドが根付いることで、寺本氏が仕掛けたことはもちろんのこと、色んなことが進んでいるのだろうなと思った。
この本を読んでみて、寺本氏がなぜ役場を辞めたのか、頭では分かったような気がしている。寺本氏はもちろん、邑南町のことを忘れたわけではない。エピローグの一番最後にこう書いている。
そして、最終的には自分の生まれ育った邑南町の人々の笑顔が見られることを夢見ている。
これが、本当に、本心から出たものであるということを、理解できたような気がする。でも、心から分かるためには、相当に色んなことに取り組んで、寺本氏の域に達しなければいけないのだろうなと思った。
※寺本氏が今、取り組んでいることのご紹介です。寺本氏に講演に来てもらえるプランもあるけれど、あと11日間(令和4年12月28日が期限)で仲間を集められるかな……? でも少なくとも、自分のできる範囲で応援したいです。
新しい日本のあり方を提唱するドキュメンタリー映画を制作したい!(藤原淳 2022/11/01 公開) - クラウドファンディング READYFOR
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