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不思議な話

私が四歳か五歳の頃だったと思う。
店をやっていた祖父の商売先に
よく、くっついて行っていた私は
祖父の用事が済むまで待てなくて、
一人でよく立ち寄っていた所があった。
其処は、すぐ傍にある小さな庭園で鯉が泳ぐ池があり、池の上には可愛らしい赤い橋がかかっていた。
春には桜、秋には紅葉が見事で、
私は、その橋を渡りながら見る四季に
幼いながらワクワクしていた。
そんな或る日、いつものように祖父と一緒に
に行き、その庭園に向かった私は、
おかしなことに気がついた。
庭園が無いのだ。
何度も周りを探したが、やはり庭園はない。
庭園があった場所には木が鬱蒼と茂り、
人が入れるような道は無かった。
すると、近くを通りかかった年配の女性が
私に声をかけてきた。
「あなた、どうかしたの?」
私は、なんとなく答えた。
「お庭は?」
「え?」
「ここにお庭があったでしょ?」
「何処に?この辺りは、ずっと手入れがされていなくてね。木や草がボウボウで入れないの。危ないから入っちゃ駄目よ。」
「赤い橋のお庭は?」
「赤い橋?狸にでもばかされたのかな?」
年配の女性は、そう言って微笑んだ。
と、後ろから祖父の声がした。
「一人で何を話しているの?もう帰るよ。」
                      記憶というものは曖昧なのかもしれない。
しかし、私ははっきりと覚えている。
鯉が泳いでいる池と池の上にかかる赤い橋、
見事な桜や色鮮やかな紅葉。
そこを訪ねることが楽しみであったこと、
そして、私に声をかけた年配の女性。

今でも、その庭園の紅葉の葉が風にゆれる風景と、鮮やかな赤い色の橋と、
そして、年配の女性の品の良いねずみ色の着物と女性から漂う微かなシナモンの匂いを私は鮮明に覚えている。




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