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海底炭坑の密室殺人/大阪圭吉作「坑鬼」

大阪圭吉の短編「坑鬼」

1937年の発表です。
他の短編と共に、『とむらい機関車』という本に収録されています。

密室、顔のない死体など多彩な要素を取り入れつつ、スピーディーな展開が魅力の本作。
トリックもさることながら、おすすめしたいのが、稼動中の海底炭坑という特集な舞台設定です。

峯吉・お品という夫婦が担当していた採炭場で爆発が発生。火災の被害を食い止めるため、逃げ遅れた峯吉を取り残したまま坑道が封鎖されてしまいます。

「いやなに、大した事でもないんですよ」
全く一人の坑夫が塗込められた位のことは、或は大した事でなかったかも知れない。しかし大した事は、この時になって始めて持上った。それは鎮火状態を問合せに行った先程の事務員が、間もなく戻って来て、丸山と呼ぶその技師が、何者かに殺害されたことを報告したのであった。

「坑鬼」より

炭坑が舞台であるため、そこで労働する人、監督する人、経営する人の思惑が入り乱れ、プロレタリア文学のようにも見えます。軽んじられた労働者の怒りを象徴するかのように、峯吉を見殺しにして坑道の封鎖作業を推し進めた人たちが殺されていくという展開です。

特殊で完璧な密室

火災が鎮火した後、坑道の火災扉が開かれると、そこには峯吉の骨がありません。

どれだけの火災でも、人間の骨まで焼失してしまうことはないはず。しかし、火災扉は閉ざされていた。人間が抜け出す余地はなかった。

火災坑という特殊な密室からの消失、という展開です。

ミステリにおいて密室がテーマになるとき、それは本当に密室だったのか?抜け穴があるのではないか?ということが検討されます。
論理的に突き詰めるのが探偵の役目です。

個人的に、本作品で1番好きなのが密室の説得力

火災坑は、完全に閉ざされていて、外に通じる抜け道などはありませんでした。
何故なら、唯一外に通じる火災扉を封じたら、火災が鎮火したから!
酸素すら出入りする余地のない完璧な密室という設定は新鮮でした。

裏を返せば、密室からの脱出が不可能であるということは、犯人の所在地点がほのめかされているということでもあり…。

しかし、酸素がなければ火は消えるという科学的な知識を、労働者の怨念渦巻く海底炭坑での非日常的な出来事の中に結びつけるのはなかなか難しいのではないでしょうか。

意外性の演出が、作品を印象的なものにしています。

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