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不条理な設定の不気味さ/横溝正史『青髪鬼』
横溝正史『青髪鬼』
三津木俊助記者と御子柴進少年のコンビが、謎の怪人「青髪鬼」や変装の達人である「白蝋仮面」と頭脳戦を繰り広げるジュブナイル作品です。
1954年の発表。
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「青髪鬼」と「白蝋仮面」という、『白髪鬼』(マリー・コレリ/黒岩涙香/江戸川乱歩)から着想したのだろうかと想像させるネーミング。
「白蠟仮面」はシリーズを通してのライバルなので、今作では場をかき回すためという以上の登場理由が見当たりません。
ストーリーとしてはそこまで荒唐無稽でもなく、大人も楽しめるのではないかと思います。
怪人「青髪鬼」が生まれた理由
気になるのが、怪人「青髪鬼」の由来。
海外のコバルト鉱山で長年労働を強いられていたため、髪がコバルト色に染まってしまったという設定です。
真っ青な髪の怪人が、東京の人々を恐怖に陥れます。
しかしどうしても、恐怖のために一夜で白髪になってしまった『白髪鬼』を連想してしまうため、シュールさが目立つ印象があります。
科学的には一晩で白髪になることはないとされていますが、恐怖の表現として秀逸で、現代でも違和感を感じにくい描写だと思います。
設定そのままだとリアリティに欠けるからなのか、1981年発行の角川文庫版の表紙では、怪人の髪色は暗闇に溶け込ませ、片方の瞳がコバルトブルーに光っているという描写をしています。
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逆に不気味さが増していて、面白い表現方法だと思います。
不条理の恐ろしさ
現代の科学技術や常識から考えると、荒唐無稽と思われてしまうようなストーリーでも、作品発表当時の文化からすると、“あり得る”空想の範疇におさまることがあるのでしょう。
改めて読むと、レトロな作品に見られる科学的にナンセンスな表現は、不条理ゆえに独特の不気味さをかき立てているように思います。
シャーロック・ホームズシリーズの『這う男』を思い出しました。
そして、これを調べていてホームズシリーズの新訳が出ていることを知りました。
読み比べてみたいと思います。
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