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マニアックおすすめ小説

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ミステリや時代物を中心にした、おすすめ小説の紹介やレビューです。筆者の好みによるセレクトなので、万人向きではないかも。少しでも作品の魅力をお伝えできたらうれしいです。
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海底炭坑の密室殺人/大阪圭吉作「坑鬼」

海底炭坑の密室殺人/大阪圭吉作「坑鬼」

大阪圭吉の短編「坑鬼」1937年の発表です。
他の短編と共に、『とむらい機関車』という本に収録されています。

密室、顔のない死体など多彩な要素を取り入れつつ、スピーディーな展開が魅力の本作。
トリックもさることながら、おすすめしたいのが、稼動中の海底炭坑という特集な舞台設定です。

峯吉・お品という夫婦が担当していた採炭場で爆発が発生。火災の被害を食い止めるため、逃げ遅れた峯吉を取り残したまま坑

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猟奇の美学に献身的な怪人と、パノラマ館への憧憬/江戸川乱歩『蜘蛛男』

猟奇の美学に献身的な怪人と、パノラマ館への憧憬/江戸川乱歩『蜘蛛男』

江戸川乱歩『蜘蛛男』
明智小五郎が探偵役ですが、怪人vs探偵ものに分類される作品。トリックのキレより、娯楽色の強いエログロナンセンスのストーリーを楽しむタイプですね。

明智探偵と対決するのは、江戸川乱歩の作品に特徴的な、犯罪の美学に献身的な怪人。
途方もないお金と時間と労力を、理想の犯罪行為のためにつぎ込む、ある意味で健気な悪人です。

一体どうしてこんなひどいことをするのか?
何故なら私は猟奇

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明治を生きる戊辰の生き残り/山田風太郎『幻燈辻馬車』感想

明治を生きる戊辰の生き残り/山田風太郎『幻燈辻馬車』感想

読書の秋!

冬がくる前に、ミステリについて語りたい、布教したい!
そしてあわよくば、この文章を読んだ誰かが作品を手に取ってくれたら。 
そんな願いを込めて、遅ればせながら秋の連続投稿チャレンジ参加です。

山田風太郎『幻燈辻馬車』忍法帖シリーズで有名な山田風太郎の、明治ものの一つです。

山田風太郎と言えば、魔界転生などに代表されるような、独創的かつファンタジックな設定と、登場人物の悲哀を描き出

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団地という、近代的で閉鎖的な空間/横溝正史『白と黒』

団地という、近代的で閉鎖的な空間/横溝正史『白と黒』

横溝正史『白と黒』今回紹介したいのは、横溝正史『白と黒』。金田一耕助が活躍します。
舞台はマンモス団地。なのですが…。

これは昭和のどの時期なんだろう??
あまり馴染みのない描写が多く、時代のイメージが像を結びませんでした。

答えは昭和35年(1960)
日米安保条約締結、安保闘争、カラーテレビの本放送開始、所得倍増計画…
歴史の教科書に載るようなできごとがたくさん起こっている年ですが、世の中

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