【特別支援教育】エジプトから日本の支援学校に転校してきたASDのMちゃんのこと
もう20年くらい前、私が知的障害支援学校の小学部に勤務していた頃のお話しです。
私のクラスに、エジプトからMちゃんがやってきました。
Mちゃんには重度の知的障害を伴うASDがあります。
ご家族が使うことばはアラビア語。
そして、イスラム教徒です。
私は初め、「えらいこっちゃ~!」と思いました。
けれども、最終的には本当にいろんな勉強をさせていただくことになりました。
かなり稀な事例ではありますが、ことばや文化が違う国から、ASDなどの障害のあるお子さんを受け入れることになった先生や支援者の方がおられましたら参考にしていただけるかもしれませんので、ここにまとめさせていただきます。
課題1 保護者さんとのコミュニケーションをどうする?
Mちゃんは重度の知的障害がある上、文化・宗教上の違いもあります。
その分、詳細な保護者さんとのやり取りが必要です。
支援学校では、日々の連絡は連絡帳を通じて行います。
Mちゃんのご両親は英語を理解されるので、私も英語で連絡帳を書いていました、と言えたらカッコいいのですが、全然無理。
子どもたちが帰ってから、メールで、グーグル翻訳を使いながら、何とか必要最小限の連絡をしました。
けれども、片言の英語では通じないことがたくさんあります。
そこで、一か八かで市の国際交流協会に電話をしてみました。
するとなんと、エジプトからの留学生の方が見つかり、通訳をしてくださることになりました。「国際理解教育」という名目で、少ないながらも報酬をお出しすることもできました。
課題2 保護者さん向けのプリントどうする?
配布するプリント類は全部日本語です。それではMちゃんの保護者さんには何も伝わりません。
どうしよう?特に困るのが年度の初め。お金のことや、健康診断のことなど、大事なプリントが山ほどあります。全部英語に訳すなど到底無理。
これも国際交流協会に聞いてみると、学校で使いそうなプリント類を様々な言語に訳したひな形があるとのこと。それを使ってプリント作成ができました。
☆今は、文部科学省HP「かすたねっと」にいろいろな資料があります。
☆ちなみに、大阪府の、外国から来た高校生向けには、「ぴあにほんご」が頼りになると思います。
課題3 給食どうする?
Mちゃんはイスラム教徒。食べてはいけないものがたくさんあります。
そのため、給食メニュー表の「材料」に英訳をつけて、早めに渡すことにしました。
そして、保護者さんに「食べられないもの」に×を入れて返してもらいました。
食べられないものが多い日は、お弁当を持参してくださいます。出身国ではお弁当の文化はありませんが、お母さん、がんばってくださいました。
課題4 アラビア語 どうする…??
そんなこんなでひと月ほどたったころ、お母さんからこんな提案が寄せられました。
「MちゃんはASDなので、言葉の獲得が難しい。アラビア語と日本語の両方を使うと、余計に混乱してしまう。だから、学校でもアラビア語で話しかけてほしい」
確かに!
でも…。
私は、アラビア語、話せません!!(日本語もなかなか出て来ないのに)
そこで、お母さんに来てもらって、あいさつのことばや、1から10までの数のことば、色を表すことば、そのほか、日常生活でよく使う、「トイレ」とか「たべる」とか「おしまい」とか「すわりましょう」とか、そういう言葉を教えてもらいました。
初めは対訳のメモを持ちながらできるだけアラビア語で話しかけるのですが、発音も上手にできないし、きっとMちゃんは私のアラビア語を理解できなかったことでしょう(笑)。
Mちゃんは、1年半ほど日本にいましたが、その後帰国しました。アラビア語圏の支援学校なら安心です。
私はMちゃんの「個別の教育支援計画」を英語で書き(もちろん添削してもらって)転学先の学校に持って行っていただきました。
日本にいる間、ご両親もMちゃんも大変だったことでしょう。
Mちゃんはクルクル動く大きな目で、ふっくらした口を大きく開けて、本当にうれしそうに、ひまわりのように笑う少女でした。彼女の笑顔を忘れられません。
そして、家庭訪問の時にお母さんが食べさせてくださった「デーツ」の味も。「デーツ」はラマダン明けに最初に口にする食べ物だそうで、栄養価が高くてとても美味しい!
しばらくデーツにはまって、「マジョール種」という一番ふっくらおいしいデーツを通信販売でお取り寄せしていましたが、だんだんお値段が高くなってきてしばらく食べていません。ちょっと奮発して買おうかな。
残念ながらアラビア語は…すっかり忘れてしまいました😢
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