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映画レビュー『Love Letter』(1995)女優・中山美穂の「転機」ともなった作品

【約1800字/4.5分で読めます】

【こんな人にオススメ】
・ラブロマンスが好き
・雪景色が好き
・不思議な話が好き

【こんな時にオススメ】
・まったりしたい
・せつなさに浸りたい
・映像の美しさを味わいたい

中山美穂の「転機」ともなった作品

岩井俊二監督の作品です。

舞台は神戸と小樽(北海道)、一通の手紙がきっかけとなり、物語は進んでいきます。

主人公の女性は、亡くなった恋人の三回忌で、彼の実家を訪れていました。

母親から彼の中学校の卒業アルバムを見せてもらい、その中にかつて彼の実家があった古い住所を見つけます。

「亡くなった彼と話したい」と思った主人公は、「お元気ですか?」と書いた一通の手紙をその住所に送ることにしました。

そこにかつてあった家はもうなく、届くはずのない手紙です。

舞台が変わり、今度は小樽の図書館に勤める女性が出てきます。

彼女の元に見知らぬ人からの手紙が届きました。

彼女は不審に思いながら、見知らぬ人への返事の手紙を書くことにしました。

こうしてお互いに見知らぬ二人の奇妙な文通がはじまったのです。

いつもならば誰が演じているのか
記載するところ

例えば、いつものレビューでは「主人公(〇〇)」というように、演じ手を表記しています。

これは誰が演じているのかを伝えて、視覚的なイメージを持ってもらうためです。

なぜ、このレビューの冒頭ではそうしなかったのかというと、この二人の女性(手紙を送った側、受け取った側)はどちらも中山美穂が演じているんですね。

そこを隠すことで、ちょっとしたサプライズを提供しようと思ったわけです。

最初は私もそのことを知らずに観ていたので、観はじめた時は「?」となりました。

「えっ? さっきの中山美穂と今の中山美穂は別の人?」と、気が付くまでは何がなんだかわからない状態です。

これは敢えて、わかりにくくして、観客を驚かせる意図があるのでしょう。

そういう意味では、ここでそれを伝えてしまうことによって、はじめて観る人の驚きを奪ってしまったことにもなります。

申し訳ないところでもあるのですが、本作に関しては、そこに触れないわけにはいかないので、敢えて書かせてもらいました(というか、そこを避けてストーリーを伝えるのは不可能と思われる)。

観客に「?」と思わせるのが大事

本作には、そういう仕掛けが多く出てきます。

中には観終わってからも「?」が続くシーンもあるかもしれません(私自身にはそう感じるシーンがあった)。

これらはどれも「つたなさ」からくる「?」ではなくて、敢えて「わかりにくく」しているんですよね。

その目的は観客に興味を持ち続けてもらうためです。

「一言で簡単に伝えられること」は、映画にする必要がありません。

「わかりやすくする」というのは、時と場合によっては、大事なことでもあるのですが、このような「疑問点」を入れることによって、観客は物語に興味を持つのです。

他にもたくさんの疑問点が出てきます。

最大の疑問は、「どうして、ないはずの住所に手紙が届いたのか?」という点です。

その真相は、物語の中盤以降でわかりますが、それがわかってからも新たな疑問点が出てきて、またそれが気になる構造になっています。

私は岩井俊二監督の初期の作品が好きで、過去にもレビューに書いてきました(この記事の一番下にリンクを貼っている)。

それらを総合的に見ると、岩井俊二監督の作品の魅力は「違和感」と「美しさ」なんですよね。

「なんだこれ!?」という「違和感」と、臨場感あふれる画面の「美しさ」が見事に融合しているのが、岩井作品の大きな魅力です。

そういう観点で見ると、本作は「違和感」よりも「美しさ」の方に、針を振った感じがあります。

もちろん、「なぜ手紙が届いたのか?」といったような大きな「違和感」はあるものの、それよりも前の岩井作品(『PiCNiC』『スワロウテイル』など)に比べると、それほど衝撃的な違和感ではありません。

これまで私はどちらかというと、岩井作品の大きな「違和感」に興味を持ってきたのですが、本作のようなバランスの作品も魅力的だと思いました。

映像の素晴らしさを挙げると、なんといっても、本作に出てくる雪景色の美しさは外せません。

広大な雪原で繰り広げられる有名なラストシーン(中山美穂の名演)は、これからも多くの人の心を打つでしょう。


【作品情報】
1995年公開
監督・脚本:岩井俊二
出演:中山美穂、豊川悦司、范文雀
配給:日本ヘラルド映画
上映時間:117分

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いっき82
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