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書籍レビュー『スパイスの科学』武政三男(1990)スパイスのプロが教える秘伝のテクニック
※2000字以上の記事です。
お時間のある時に
お付き合いいただけると嬉しいです。
スパイスのプロが教える
秘伝のテクニック
本書は、歯磨き粉や石鹸で
おなじみの「ライオン」で
スパイスの研究をされていた
経験を持つ著者が
スパイスについて、
まとめた本です。
もとは’90年に発行された
本でしたが、
それに加筆・改訂をし、
’15年に文庫化されました。
スパイスの基礎知識から、
プロが使うテクニックまで
幅広く書かれています。
本書を読むと、
日頃、いかに我々が、
スパイスを多く使っているかが
よくわかるでしょう。
そして、スパイスを
知ることによって、
料理を食べる楽しさが増え、
料理をすること自体にも
おもしろさが
感じられるかもしれません。
我々の日常に潜むスパイス
「スパイス」というと、
日本では馴染みが薄く、
海外の食文化のイメージが
強いかもしれません。
ところが、私たちは、
無意識のうちに、
日々の食事の中で、
たくさんのスパイスを
摂取しており、
その事実を知ると、
多くの方が驚くことでしょう。
例えば、本書を読んでいて、
驚いた話に、
カレーパウダーの話があります。
実は、日本はカレーパウダーの
消費量・生産量ともに
世界第二位なんだそうです。
(もちろん1位はインド)
私たちが子どもの頃から、
食卓でよく食べるカレーには、
たくさんのスパイスが
使われています。
どちらかといえば
「スパイスが苦手」
という方が多いにも
かかわらず、
カレーが好きな方は
多い印象ですよね。
また、私たちが日常的に使う
ソースやケチャップにも
多くのスパイスが
ブレンドされています。
これには理由があって、
そもそもスパイスは、
1種類だけ使うことは少なく、
いくつものスパイスを
ブレンドして使うのが
普通なんだそうです。
複数のスパイスを
ブレンドすることによって、
スパイス特有の
薬臭さがなくなり、
深みのある
芳香性が出るのです。
本書によれば、
そもそも、スパイスの起源は、
紀元前の宗教儀式に
あるのだそうです。
宗教儀式では、
神に祈るために、
生贄を捧げることもありました。
その時に、獣肉を焼くことで、
肉の臭みが出てしまいます。
そこで、香料(スパイス)も
一緒に火に入れることによって、
臭みが解消されたんですね。
これがのちに、
料理にも使うスパイスに
発展したわけですね。
スパイスといえば、
「辛み」が連想されることが
多いですが、
もともとは、
臭みを消すために、
生まれた技術だったんです。
私自身も本書を読んで、
はじめて知ったのですが、
大根もスパイスの一種で、
焼き魚に大根おろし、
刺身につまを
添えて食べることが多いですが、
あれも魚の臭みを消すための
スパイスだったんですね。
スパイスの三要素を理解する
本書によれば、
スパイスには三つの
基本要素があります。
「芳香性」
「辛味性」
「着色性」の三要素です。
「芳香性」の強いスパイス
といえば、
シナモンが挙げられます。
海外ではフルーツの
コンポートや、
アップルパイなどに
シナモンが使われており、
独特な甘い香りをつけて、
食欲をそそる効果が
ありますよね。
日本でも、
ケイヒ、ニッケイ、ニッキ
などの名前で親しまれており、
古くから「八つ橋」などの
和菓子にも使われてきました。
この他にも芳香性が高く、
使われる頻度の
高いスパイスには、
ガーリックもあります。
ガーリック特有の芳香で、
肉の臭みを消すことが
できるのです。
「辛味性」のスパイスの
代表格といえば、
やはり、レッドペパーでしょう。
原産地は南アメリカで、
アメリカ大陸を発見した
コロンブスが持ち帰り、
世界中に広まったそうです。
カプサイシンによる
刺激的な辛味は強烈ですが、
芳香性はほとんどありません。
これはレッドペパーの
精油成分が少ないためです。
逆にいうと、
芳香性が強いスパイスは、
精油成分が多い特徴があります。
最後は、「着色性」の高い
スパイスですが、
パプリカが挙げられます。
パプリカの先祖は、
レッドペパーと同じ、
カムシムペパーですが、
パプリカは、
品種改良によって作られた
辛くないレッドペパー
なんだそうです。
辛味性、芳香性ともに弱く、
おもに、料理に色を付けるために
用いられます。
また、パプリカは、
β-カロテンが豊富です。
生のピーマン100g に
カロテンが
270マイクログラム、
同じ量のパプリカには、
20,000マイクログラムが
含まれています。
(マイクログラム:
100万分の1グラム)
つまり、パプリカは、
ピーマンの74倍もの
β-カロテンがあるわけです。
単純に β-カロテンを
比較するならば、
パプリカは1.35グラムで
(小さじ3分の2)
ピーマンに匹敵する
栄養があることになります。
ですから、ピーマンが
嫌いなお子さんには
料理にパプリカを加える
なんていう使い方も
できますよね。
パプリカは、
芳香性も辛味性も弱いので、
この使い方に、
最適だと思います。
スパイスは、
このような三つの要素があり、
さらに、原産地、収穫時期、
調理方法などによって、
変化するので、
それらを正しく理解すると、
抜群の効果を発揮します。
本書では、
さらに細かいテクニックが
書かれているので、
料理をよくされる方には、
かなり役に立つ本でしょう。
「食べる」専門の方も、
本書を読めば、
立派な食通に
なれるかもしれません。
【書籍情報】
発行年:1990年(文庫版2015年)
著者:武政三男
出版社:文園社、河出書房新社
【著者について】
スパイスコーディネーター協会
理事長。
株式会社スパイススタジオ代表。
元ライオン株式会社
生活行動研究所
テストキッチン室長として、
同社のスパイスブランドの
開発・啓発に携わった。
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