書籍レビュー『マイケル・ジョーダン物語』ボブ・グリーン(1992)'90年代はジョーダンの時代だった
※2500字以上の記事です。
お時間のある時に
お付き合いいただけると嬉しいです。
'90年代はジョーダンの時代だった
私はスポーツを
ほとんど観ないのですが、
バレーボールと
バスケットボールだけは、
たまに観戦することがあります。
これは妻の趣味も
影響しているかもしれません。
私たち夫婦は、
ともに野球やサッカーを
観ることがないんですね。
自分たちで
分析したところによると、
どうも私たちは気が短いようで、
野球やサッカーのように、
長時間プレイしていても、
1点も入らない展開があるのが、
ダメなようです。
しかし、先に挙げた
バレーとバスケは、
試合の展開が速く、
点数がポンポン入る
というのもあって、
好んで観ることがあります。
とはいえ、私は NBA の試合は、
テレビ番組のちょっとした場面で、
映像は観たことがありますが、
一試合を通して
観たことはありません。
どんな選手がいるか、
ほとんど知りませんし、
すべてのチーム名すら把握していません。
そんな私でも、
本書が取り上げた
マイケル・ジョーダンは
興味の対象になっています。
彼のことを書いた本があったら、
読んでみたいと
思っていたところに、
たまたま中古の本屋さんで、
この本を見かけて
手にしました。
手に取ったものの、
最初は躊躇したんですよね。
なんせ、600ページ以上ある
分厚い本だったので、
バスケの知識がほとんどない
私が読み通せるか、
自信がありませんでした。
しかし、この表紙には
惹きつけられました。
表紙には試合中の
ジョーダンの姿を捉えた写真が
前面に使われており、
当時の空気感が伝わってきます。
当時の空気感を伝えるのは、
表紙だけではありません。
集英社文庫の帯には、
若かりし頃の広末涼子の
写真が使われており、
これも当時の空気が
鮮明に甦るものでした。
この頃の集英社は、
マイケル・ジョーダンに
力を入れており、
当時、中学生だった私は、
『週刊少年ジャンプ』でも、
ジョーダンの特集を見た気がします。
(『スラムダンク』の全盛期)
そんな懐かしい思い出も
手伝って、私はこの本を
読むことを決意したのです。
'90~'92年のジョーダンの記録
個人的な前置きが長くなりましたが、
本書は NBA において、
圧倒的なスター選手だった
マイケル・ジョーダンの足跡を追った
ルポルタージュです。
取材期間は'90~'92年で、
その頃のジョーダンは、
シカゴブルズに在籍していました。
バスケット選手として、
もっとも脂が乗った時代で、
前人未踏の記録を次々に
打ち立てた時代です。
ジョーダンは選手として
優れていただけでなく、
そのカリスマ性の高さにも
注目が集まりました。
多くのスポンサーが彼を
広告に起用し、
'90年代には映画にも
出演することがあったんですよね。
▼バックスバニーと共演した
『スペース・ジャム』('96)
マイケル・ジョーダンは、
「バスケット」の枠を超えた
世界的なスターでした。
『マイケル・ジョーダン物語』
というタイトルから、
彼のバスケット選手人生を
追った「半生記」のようなものを
期待していましたが、
実際に読んでみると、
昔の話はそれほど出てきません。
あくまでも、著者が取材していた
'90~'92年のジョーダンのことが
集中的に語られています。
世間からバッシングされた頃の
ジョーダンの本心
著者は、もともとスポーツ記者では
なかったそうで、
NBA のことはおろか、
マイケル・ジョーダンのことも、
それほど知らなかったそうです。
著者のボブ・グリーンは、
新聞社で一般市民の生活に
密着した記事を
書いていた記者でした。
そんな彼がジョーダンに
注目するきっかけとなったのが、
悲惨な事件の被害者となった
少年の存在です。
少年は親から陰惨な
虐待を受けており、
最終的には、少年は両親と
離れることになりました。
著者は事件について
取材する中で、
少年と親しくなり、
彼がバスケットボールが
大好きなことを知ります。
著者は少年を連れて、
彼が大好きなバスケットボールの
試合を観に行きました。
そこで出会ったのが、
マイケル・ジョーダンだったのです。
少年の悲惨な体験を知った
ジョーダンは、
少年のことを気にかけ、
直接対応してくれました。
悲惨な目に遭ってきた
少年にとっては、
この一日がかけがえのない
思い出となったのです。
この体験から間もなく、
著者は毎日のように、
スタジアムに足を運び、
バスケットを
観戦するようになりました。
この他にもジョーダンの
ファンに対する紳士的な
振る舞いは、
本書の中で多く語られています。
特に、彼は、
身体にハンディキャップを
抱えたファンに、心から寄り添い、
自身のチームの試合では
いつも特等席に
招待していたそうです。
ホームで試合が終わったあとに、
いつも同じ場所で待っている
少年たちに一人で向き合い、
彼らと語り合う日課があった
というエピソードも
微笑ましいものでした。
これらのエピソードから、
ジョーダンは選手として
優れていただけでなく、
スターであり、人格者だったことが
よくわかる内容になっています。
正直なところ、
前半部分は、著者自身の話も多く、
退屈に感じる箇所もあったので、
途中で読むのを
断念しかけた時もあったのですが、
終盤がもっとも
魅力的な部分だったので、
最後まで読んで良かったです。
後半では、
そんな紳士的なジョーダンが、
世間からバッシングを浴びる
状況が出てきます。
「オリンピックに出ない」
といった発言や
(最終的には出場したが)
賭博疑惑がバッシングの原因です。
それまで記者たちに対して、
友好的な態度だったジョーダンは、
バッシングをきっかけに、
シャットアウトの姿勢を
見せるようになっていきました。
それまで試合がはじまる前には、
一人でコートに出て練習をするのが
日課でしたが、
それも控えるようになります。
そんな状況の中でも、
ジョーダンのことを熱心に
取り上げ続けた著者にだけは、
ジョーダンは以前と
変わらない対応を見せてくれたため、
著者はこの時の彼の胸の内を
聴くことができたのです。
この辺りのエピソードは、
読む者の胸を打つことばかりで、
本書のハイライトとも言えます。
ここで感動できるのも、
前半部分の話が
あってこそのものなので、
やはり、本書を読む方には、
そのすべてを読むことを
オススメします。
ジョーダンが活躍した
'90年代の NBA の空気感が
バシバシ伝わってくる良書です。
【作品情報】
発行年:1992年
(日本語版1993年)
著者:ボブ・グリーン
訳者:菊谷匡祐
出版社:集英社
【著者について】
'47年生まれ。
アメリカのジャーナリスト。
【同じ著者の作品】