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書籍レビュー『腸と森の「土」を育てる』桐村里紗(2021)人間も自然の一部なので、自然に負荷をかけないサイクルが肝要



細菌が大事、
特に重要な腸内細菌

人体の90%は微生物でできている
という事実は、
以前、『あなたの体は9割が細菌』を
読んで知りました。

『あなたの体は9割が細菌』
アランナ・コリン(2016)

人間の身体の中でも、
もっとも多様な細菌がいるのが、
腸内であるため、

人間は腸の細菌に
さまざまな影響を受けます。

腸内ではセロトニン(※)、
ドーパミン(※)といった
物質が作られているので、

腸内環境が乱れていると、
精神にも大きく作用するんですよね。

※セロトニン:精神を安定させる
※ドーパミン:興奮させる

これだけでも腸と細菌の
重要さがわかりますよね。

細菌に守られる私たちの身体

「腸」や「細菌」に関する本は
いろいろ読んできましたが、
本書を読んで斬新に感じたのは、

人間の口から肛門までの管を
「体外」と捉えているところです。

たしかに、人間は食物を
口から摂取し、食道、胃、
小腸、大腸を通って、
肛門から排泄物を出しますね。

その中を通るのは、
外部からのものであり、
それらが通る管が「体外」と
捉えるのはもっともなことです。

消化管に限らず、
問題は外部から入ってきたものの
何を吸収し、何を体内に入れないか、
ということなんですが、

これらの判断はおもに、
人間の身体にいる細菌が
担っているんですよね。

細菌のバリアが
きちんと機能していれば、
体内に入れてはいけないものは、
排除されるようにできています。

ところが保持している細菌の
バランスが乱れると、
身体に吸収してはいけないものを
体内に通してしまうんですね。

そして、身体はさまざまな
不調をきたすように
なっていくわけです。

先ほども書いたように、
こういった細菌の働きは、
消化管の中だけではなく、

皮膚や眼、鼻、耳など
あらゆるところで発揮されています。

ですから、感染症が流行って以降、
手指の消毒を頻繁にするように
世の中の動きが変化しましたが、

これもやり過ぎは身体にとって、
いいことではありません。

人間の身体に必要な細菌も
殺してしまうからです。

人間も自然の一部なので、
自然に負荷を
かけないサイクルが肝要

ここまで読んだ方には、
よくわかることだと思いますが、
人間の身体は外部から
取り込んだものでできています。

本書では、腸の細菌叢を
「土」と捉え、
外部の「土」の大切さも
訴えているのが特徴的です。

要するに私たちが口にするものは、
野菜、果物、魚、肉のいずれもが
「土」から育まれたものなので、
土が重要になるわけなんですね。

土が汚染されていれば、
それをもとに育った食物も
当然汚染されるわけで、

私たち人間の身体も
汚染されていきます。

冒頭に挙げた
『あなたの体は9割が細菌』でも
指摘されていましたが、

かつて欧米では、
家畜の生育を早めるために
抗生物質が積極的に投与されていた
時代があったそうです。

抗生物質は身体の菌を殺す薬ですから、
これを食べた家畜から得たものは
どれも人間の身体にも作用します。

当然のことながら、
家畜の糞便を肥料に用いた場合、
畑の野菜にも影響を及ぼしますね。

こういった食物から不純なものを
多く摂取してしまったがために、

アレルギー、うつ病、肥満
といったものが21世紀病として
台頭することになりました。

本書では、地球環境の観点からも
持続可能な食物の在り方が
提案されています。

土を壊さずに、
自然のサイクルに則った、
「食」の在り方です。

豚・鳥・牛のいずれの肉も
生産にあたっては、
大地に大きな負担を
かけていますから、

肉食は少なめにして、
魚や野菜・果物を多めに摂ることで、
地球環境にも身体にも
優しいサイクルができます。

また、魚にしても、
海洋の環境が大きく作用しており、
これも突き詰めると、
土の問題に行きつきます。

(土壌が悪くなると、もろくなり、
 それらが川や海に流れ出す。
 この辺の詳しい話は
 ジャレド・ダイアモンドの
 『文明崩壊』に詳しく書かれている)

さらに注意しなければならないのは、
野菜や果物も人間の手が携わった
農作物であることです。

今の日本の農業では、
農薬や化学肥料が
多く使われているんですね。

他国と比べても
その量が過剰であることが
本書ではデータでも示されています。

これはおもに日本人が
食べ物の見た目を
極端に気にするからです。

ちょっとでも色や形が悪いと、
売り物にならないので、
そうならないように、
薬が多く使われているんですね。

ここは改善した方がいいことですが、
これは消費者の意識が変わらないと、
市場全体を変えるのは、
難しいことでしょう。

見た目よりも中身を重視するのが、
これからの人類の永続には
必須だと思います。

農薬であれ、医薬品であれ、
薬は毒であるという事実は、
多くの書物で訴えられています。

『コレステロールに薬はいらない!』
浜六郎(2006)
『薬剤師は薬を飲まない』
宇多川久美子(2013)
『「毒と薬」のことが
一冊でまるごとわかる』
齋藤勝裕(2022)

もちろん、命を守るうえで、
薬が必要な場合もありますが、

基本的には
身体にいいものではないので、
なるべくない方がいい
ということです。

農薬や化学肥料もしかりですね。

そういうことを
正しく認識することが、

心も体も健やかに
過ごすことのできる
大事な知恵ではないでしょうか。

人間も自然の一部なので、
自然に負荷をかけない食物は、
人間の身体にも負荷をかけません。

そういうライフスタイルが、
これからの人類には必須ですね。


【書籍情報】
発行年:2021年
著者:桐村里紗
出版社:光文社

【著者について】
1980年、岡山県生まれ。
内科医、認定産業医、
tenrai株式会社代表取締役医師。

【同じ著者の作品】

『「美女のステージ」に
立ち続けたければ、
その思い込みを捨てなさい』
(2015)
『日本人はなぜ臭いと言われるのか』
(2018)

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