書籍レビュー『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』町山智浩(2009)アメリカで活躍するアスリートは2400人程度
在米日本人の
コラムニストが書いた
著者の町山智浩氏は、
映画評論家、コラムニストの
在米韓国系日本人です。
(父が在日韓国人1世だった)
そのキャリアは'80年代に
マンガやアニメを扱った出版物を
制作していた
スタジオ・ハードにはじまり、
宝島社の編集者を経て、
洋泉社への出向、
『映画秘宝』の創刊に至ります。
『映画秘宝』に町山氏が
連載していたコラムが、
『〈映画の見方〉がわかる本』という
単行本にもなっています。
このような映画評論の
仕事と並行して、
町山氏が手掛けているコラムには
アメリカの文化を扱ったものが
あるんですね。
本書はおもにアメリカの
スポーツ文化を題材にした
内容になっています。
強いアメリカに憧れて
タイトルにある「ステロイド」とは、
筋肉増強剤で、本書によれば、
アメリカで「筋肉」を
象徴するような
ハリウッドスターや
スポーツ選手の多くが
この薬を常用しているそうです。
これはなかなか
ショッキングな話でもありますが、
ここで話は終わりではありません。
なんとステロイドを常用しているのは、
ハリウッドスターや
アスリートだけでなく、
それに憧れを抱く一般人も
多く愛用しているというのです。
アメリカのステロイド使用者の
100%のうち、
アスリートは15%に過ぎず、
残りの85%は一般人が
使用していると書かれています。
(本書 p.5「まえがき」より)
ステロイドを使って
筋肉を増強するのは、
特にスポーツの場合は
倫理的な問題があると思うのですが、
それ以上に深刻なのは、
ステロイドを使ったことによる
副作用です。
ステロイドを常用すると、
怒りが抑えられなくなり、
暴力的になる傾向があります。
また、その矛先が
自分に向いてしまうこともあり、
自殺に繋がることも多いんだそうです。
一方で、ステロイドと
そういった事象に相関関係はない
とする主張もあるそうですが、
本書を読んでいると、
ステロイドの常用者に限って、
そういったことが多くあるのが
よくわかるでしょう。
アメリカで活躍する
アスリートは2400人程度
本書は雑誌に連載されたコラムで、
ほとんどの記事が2~3ページの
軽い読み物になっています。
しかし、そこに書かれた内容は、
ショッキングなものもあり、
感動的なものあり、
バカバカしいものあり、
決して一辺倒の内容ではありません。
さらに全体を通して、
「スポーツ」というものが
アメリカの社会において
どういう位置づけなのかも
よくわかる内容になっています。
本書を読む限り、
アメリカでは幼い頃から
親の言いつけで
スポーツに打ち込むことを
強要される子どもが多いようです。
親は自分が叶えられなかった夢を
子どもに託して、
あらゆるサポートをします。
しかし、その中で、
プロのスポーツ選手になって、
生涯活躍できるのは、
アメリカ国内で
2400人程度である
とも書かれています。
(2024年現在、アメリカの人口は
約3億4542万人。
アスリートの数と対比して
本書ではマイクロソフトの雇用を
1万人とのこと)
つまり、親は子どもに
勉強もそっちのけで、
スポーツ漬けの毎日を
送らせても、
ほとんどの子どもは、
スター選手になれず、
そのスポーツのこと以外を
まったく知らない大人に
育ってしまうんですね。
そういった愚かさを
本書ではユーモアも交えつつ、
冷静に伝えてくれます。
アメリカに限らず、
海外のことはわからないので、
なんでも立派に見えることがありますが、
その実態は現地に住んでみると、
意外とお粗末な部分も
多いのかもしれません。
本書はアメリカという国を
理解するうえでも、
貴重な本だと思います。
【作品情報】
初出:『Sportiva』(2002~2010年)
単行本 2009年
文庫版 2012年
著者:町山智浩
出版社:集英社
【著者について】
1962年、東京都生まれ。
編集者、映画評論家、コラムニスト。
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