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書籍レビュー『the TEAM ザ・チーム』井上夢人(2006)霊導師がお悩みを解決!

能力が異なる4人のチーム

霊導師・能代あや子は、
テレビ番組で相談者から
お悩み相談を受け、

それらの悩みを次々と
解決に導き、世間の注目を
集めていました。

時にその相談事は、
殺人事件の真相を
暴くこともあり、

ニュースや新聞でも
話題になるほどです。

能代あや子の正体は、
世間に知られていませんが、
その正体を知る仲間が
他に3人います。

鳴滝昇治、
彼は能代のマネージャーを
務める人物で、

常に彼女の側で、
能代をサポートします。

というのも、能代は
全盲で耳も難聴なので、
彼のサポートがなくては、
日常生活もままならないのです。

草壁健一、
彼は潜入を得意とし、

番組収録前に、
相談者の情報を集める
役割を果たします。

藍沢悠美、
彼女はパソコンが得意で、

インターネットを使って、
相談者の情報などを
収集するのです。

つまり、能代は、
本当に霊視ができるのではなく、

この4人のチームで連携して、
相談者のお悩みを
解決しているのでした。

もちろん、世間では、
能代の霊能を疑ってかかる者も
少なくありません。

その真相を暴こうと
やっきになるマスコミ関係者もいます。

スリリングな忍び込み

本作は連作短編の形式で、
能代が解決する相談者のお悩みが、

どのようにして、
解決に導かれたのかが
描かれています。

潜入のプロである草壁が、
相談者が不在の自宅に
こっそり忍び込むところなど、

スリルとサスペンスに
満ちた描写には、
誰もが息を飲むことでしょう。

また、能代の霊能を疑う、
週刊誌の記者の目線から
描かれる場面もあって、

4人の視点からだけではなく、
能代が世間からどのように、
受け止められているのかが、
よくわかる構成になっています。

主要な4人の人物は、
それぞれ、わかりやすい
キャラクターですが、

彼らがこの仕事に携わるまでに、
どのような経緯があったのか、
最初はわかりません。

全部で8つの物語の中で、
その真相が徐々に
明らかにされていくのです。

ハイテクのリアリティー

本作を手掛けた井上夢人は、

’80年代に「岡嶋二人」
というコンビ作家として
デビューした方です。

’89年にコンビを解消し、
’92年に井上夢人として、
再デビューを果たしました。

私は岡嶋二人の作品が好きで、
いくつか読んできたのですが、
井上夢人の小説を読むのは、
これがはじめてでした。

井上夢人は、岡嶋二人時代から、
コンピューターを題材にするのが得意で、

岡嶋二人名義でも
『99%の誘拐』『クラインの壺』
といったコンピューターを絡めた
傑作ミステリーを披露してきました。

本作の中でも、
おもにコンピューターを担当する
藍沢悠美の情報収集の過程は、

草壁の潜入シーンに
負けず劣らずのスリルを
感じさせます。

この辺りの描写のおもしろさは、
作者の確かな知識が、
リアリティーを高めているのです。

彼らがやっている行為は、
法を逸脱した犯罪でもあるのですが、
その能力を他人のために
使っているという点では、

これも立派な「仕事」
と言える気がしました。

能代あや子の真相を暴くため、
やっきになる記者に向かって、

その妻が
「それで、どこに被害者がいるの?」
という問いかけの言葉が
忘れられません。


【作品情報】
発行年:2006年(文庫版2009年)
著者:井上夢人
出版社:集英社

【著者について】
’52年、福岡県生まれ。
’82年、徳山諄一とのコンビ作家
「岡嶋二人」として、
『焦茶色のパステル』でデビュー。
’89年、コンビを解消。
’92年、井上夢人として、
『ダレカガナカニイル…』で
再デビュー。

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