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フィクションに登場する現実世界のもの

※2500字近い記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

前回に引き続き、
奥田英朗の短編集『家日和』に
収録された「うちにおいでよ」に
ついてです。

以前、中島京子『樽とタタン』の
レビューにおいて、

本作は古い時代の話でありながら、
時代性はそれほど
強く打ち出していないんですよね。

と、書きました。

『樽とタタン』の
よくできているところは、
時代設定が'70年代末というのが
辛うじてわかる程度に、

固有名詞(アイテム)を
抑えているところです。

私が『樽とタタン』の
時代設定がわかったのは、
発売したてのアイテムとして、
ウォークマンが描かれていたからです。

現実に存在する固有名詞が
出てくるのは、
これくらいのもので、

たったそれだけのことで、
時代設定がはっきりとわかるのが
秀逸だと思ったんですよね。

一方で、同じレビューで、
私はこのようにも書いています。

こういった特定の時代を
象徴するようなアイテムを
てんこ盛りにしても、
なかなかおもしろい
作品になりますし、
私などはそういう作品が
大好きだったりもするのですが、

ここに書いた通り、
私は現実にある固有名詞が
たくさん出てくる作品も
好きだったりします。

その代表格として思いつくのは、
マンガの『20世紀少年』ですね。

『20世紀少年』('99~'06)

20世紀少年は主人公が
子どもの頃が描かれており、

アポロ11号の月面着陸、
大阪万博といった
歴史的なイベントも登場することから、

'69~'70年代のことであるのが
わかる設定になっています。

そして、『20世紀少年』には、
この時代を象徴するような
アイテムが多く登場するので、
それらを解説した本まであるんですよね。

『20世紀少年』の副読本
『20世紀少年探偵団』('08)

こういった固有名詞が登場する作品を
多く手掛けている作家というと、
私は奥田英朗を連想します。

実際、前述した『樽とタタン』の
レビューで思い出していたのは、
紛れもなく奥田英朗の
『東京物語』でした。

『東京物語』('01)

『東京物語』は、
主人公の青年が田舎から
上京し、そこで生活する
物語を描いたもので、

時代設定は'70年代末~
'80年代だったんですよね。

この作品にもウォークマンや
ジョンレノンの死去といった
歴史的なイベントが登場します。

「家においでよ」は
昔を描いた作品ではなく、
前回の記事でも書いたように

妻と別居した夫が
自分の部屋を手に入れる物語です。

若い頃に憧れていた
自分の趣味丸出しの部屋を
主人公は一から作っていくことに
なるんですよね。

そして、この主人公は
音楽、本、映画が好きで、
そういったものの固有名詞が
作中にたくさん出てきます。

こういう作品を読むと、

「あぁ、この主人公も
(あるいは作者)
 私と同じようなものが
 好きなんだなぁ」
と共感してしまうことが多いんです。

時代の空気感みたいなものも、
よく出てきますしね。

設定上は主人公の年齢が
38歳となっていますので、

これが本作の発表された
2006年頃と仮定すると、
私よりも14歳ほど年上になりますが、
('68年生まれか?)

私は若い頃から
古いカルチャーに
慣れ親しんできたので、

本作に出てきた同年代の同僚のように、
主人公の部屋に遊びに行ったら、
一緒に盛り上がることが
できると思います。

最後に本作に登場した固有名詞を
列挙してこの記事を
締めくくることにします。

(こういう作品を読むと、
 作中に登場した固有名詞のリストを
 作りたくなってしまう)


ウディ・アレン

'60年代から活動しているアメリカの映画監督。
具体的な作品は出てこないが、
主人公が自室のインテリアを
考える際、しきりに
ウディ・アレンの映画を意識していた。

丸井「イン・ザ・ルーム」
伊勢丹
三越
無印良品
東急ハンズ
ヨドバシカメラ(川崎駅前店)

いずれも主人公が
家具や家電を買い求めて行ったお店。
ヨドバシカメラのみ、
どこの店舗か記されていた。

レコード・コレクターズ

'82年に創刊された音楽雑誌。
妻がいなくなった部屋で
最初に主人公が出してくるのが
この雑誌のバックナンバーだった。

『シンクロニシティー』ポリス('83)

主人公がレコードプレイヤーを買い、
最初に聴こうと思ったのがこのアルバム。

ジャーニー

アメリカのロックバンド。
レコードプレイヤーを買った夜に
主人公が熱唱したのは、
このバンドの曲。
(曲名などは記載なし)

フォルクスワーゲン・ゴルフ

主人公の愛車。年式の表記はないが、
「三年落ち」とあるので、
作品の発表年代から4代目と想定。

トーキング・ヘッズ
ドナルド・フェイゲン
『ゲット・ラッキー』
ラヴァーボーイ('81)

いずれも主人公の同僚が
部屋のレコード棚で発見し、
テンションを上げたアーティスト。
(ラヴァーボーイのみ
 作品名の表記があり)

ユーリズミックス
ニュー・オーダー

同僚が主人公にリクエストした
アーティストたち。
(作品名の表記はなし)

スクリッティ・ポリッティ

同僚のリクエストを聞いて
「お前、そっちの趣味か」
と言い、出してきたアーティスト。
(作品名の表記はなし)

『ライヴエイド』

’85年に開催された
伝説のチャリティーコンサート。
(DVD 化は2004年)

『七人の侍』('54)
レッド・ツェッペリン
『ゴッドファーザー』('72)

同僚たちが主人公に
リクエストした DVD。
(レッド・ツェッペリンは
 具体的な作品名の表記がないが、
 作品の発表年数と
 「一昨年出た2枚組のやつ」
 とあるので、この DVD と思われる)

ジミ・ヘンドリックス
ボブ・ディラン
松田優作

主人公が部屋に飾ったポスター。

『用心棒』('61)
iPod

いずれも重要な場面ではないが、
作中に出てきた固有名詞。

『レイジング・ブル』('80)
マーティン・スコセッシ
ロバート・デ・ニーロ

同僚たちと『レイジング・ブル』の
DVD を鑑賞しながら、
マーティン・スコセッシ(監督)、
ロバート・デ・ニーロ(主演)を絶賛。

『セット・ゼム・フリー』
スティング('85)

終盤の重要な場面で、
主人公の部屋で流れていた楽曲。
(場面と歌詞の意味につながりがある)

以上、「家においでよ」に
登場する固有名詞たちでした。


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