未来人は実在する
2006年10月、俺は沖縄にいた。バンドの音源のミックスを沖縄でやるという所属レーベルの都合に上手に乗った上についでだからとライブまで組んでいただいたのだ。
ライブとミックス以外の日は全てオフだったのでレーベルが借りてくれた海のすぐ横にあるウィークリーマンションでダラダラし、時にはメンバーに「沖縄の民話で、そうさな…大体今から五分後くらいの時刻に海に妖怪が出るらしい…」と言い残して出て行って五分後に海でケツ出して浮かんでいたり、本場沖スロ打つじゃい!打つじゃい!っつってめちゃくちゃお金を増やしてみたりと好き放題していた。
そうこうしているうちに迎えたライブの日、場所は宜野湾のヒューマンステージというライブハウスだ。コロナ禍で閉店してしまわれたというニュースがあったと思います。残念です。
確か長野VS沖縄みたいなタイトルで長野県の我々とタテタカコ、沖縄のBLEACHとスカイメイツだったと記憶しています。
ライブを終えてCDがかなり売れて頼まれて調子に乗ってニヤニヤしながら外でサインをしていた時、そいつは現れた。
蛍光色を三つくらい使ったシャカシャカしたパーカを着て派手な紫の短パン、原色フレームのサングラスをしたドレッドヘアの男が俺の横に立ち声をかけてきたのだ。
「兄さん、有名になるよ」
「アザス…そすか…」と面食らって気の利いた返しも出来なかった俺にすぐに第二の矢が飛んで来た。
「いや本当に。俺、未来から来たから知ってるんだよね」
ああなるほどNASAとか通さずにインディーズで宇宙と交信してるタイプか…と思った俺は「マジすか。俺もです。」と言ったがそれを遮るように彼は
「まあいいや。えーっと…じゃあ今年の有馬記念はトーセンシャナオーが来るから。コレ当たったら信じてほしい。じゃあね有名人」
そう言って彼は速そうなチャリで颯爽と去って行った。
トーセンシャナオー…?この前のセントライト記念勝ったあのトーセンシャナオー?まだ菊花賞もあるし有馬記念出られるかもわからないじゃん…と思いながら、もし出たら面白いな…と思いながら長野県へと帰った。
なんとなくトーセンシャナオーの事が気になって次の菊花賞を見てたらボロ負け、その次はなんとジャパンカップにも出てボロ負けで賞金の上積みもないし有馬記念には到底出られないでしょう…と思っていた。
しかし有馬記念当日、なんとなくテレビを見たらトーセンシャナオーは有馬記念になんと出走していたのだ。
俺は急いで競馬好きの友人に電話して「理由と金は後にしてとにかくトーセンシャナオーの単勝を10000円買ってくれ!」と捲し立てた。
みんな出られると思っていなかったくらいの成績のトーセンシャナオーは当然他のスターホース達から人気でも大きく水を開けられ14頭立ての14番人気である。1番人気はダントツでディープインパクト。そう、普通に考えたらディープインパクトにトーセンシャナオーが勝つ方法はなかなか思い浮かばないのだ。普通に考えたら。
だが俺にはトーセンシャナオーが出走すると唯一知っていた未来人のアドバイスという強烈な後ろ盾があるのだから14番人気に何も臆する事なく10000円をブチ込めるのだ。フフフ、見てろよディープ信者達よ…などとほくそ笑んでいた。
ファンファーレが鳴り響き発走時刻を迎えゲートが開き結果ディープインパクトが先頭でゴールした。
見事な圧勝である。引退レースで有終の美を飾った最強馬への賞賛もそこそこに未来人への怒りで俺の腸は煮えくり返っていた。
トーセンシャナオーは人気通りの圧倒的最下位だった。
10000円…小腸1メートルくらい売ればイケるかしら…と思いながら震える手で競馬好きの友人に電話したら「お前は金を払わないし絶対にトーセンシャナオーは来ないから買ってないよ」と言われて「失礼な!」と憤慨するポーズを取りながらニヤニヤした。靴にKISSくらいならいつでもしてやる。そう思った。
それから当然俺も一切有名人になることなどなく、トーセンシャナオーもG2を勝っているにもかかわらず数年後1600万下の条件戦を走っていた。
いやーお互いパッとしませんなー!なんて言いながらトーセンシャナオーの条件戦を見ていたが彼は俺より必死に走って金を稼いでいる立派な馬であることに気付き少し恥ずかしくなった。
未来人、あの頃少しの間楽しめたよありがとうね。殴るぞ。
あなたのお財布にあるチャリンチャリンを投げ付けて池畑にダメージを与えよう!ヒント 池畑の弱点は数字と死人の顔面が描いてある紙!