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“手応え”と“温もり”のある暮らしが、家族にもたらしてくれたもの【2022年度MORIUMIUS漁村留学生家族インタビュー】

小中学生が1年間親元を離れ、MORIUMIUS(モリウミアス)で循環する暮らしを送りながら石巻市雄勝町(以下、雄勝)の公立小中学校に通い、地域の方々と共に学び・共に生きる「漁村留学」。地域のみなさんや学校の先生方、保護者の方々の多大なるサポートもいただきながら、現在2年目が進行中です。

前回の記事で書いた通り、私の娘も2023年度生として絶賛参加中の「漁村留学」ですが、留学生たちは一体どんな暮らしを送り、なにを感じ、卒業していくのでしょうか。それを見守る保護者の心境は?

2022年、中学2年生のときに漁村留学生として1年間モリウミアスで暮らした安達遥(あだち・はるか)くん、母親の安達理穂(あだち・りほ)さん・父親の安達一郎(あだち・いちろう)さんにお話を聞きました。

圧倒的にきれいな自然に惹かれて

安達さん一家は、東京都八王子市在住。遥くんはお姉さんとの2人姉弟ですが、お姉さんは就職して別の場所で暮らしていたため、留学前は両親との3人暮らしでした。

モリウミアスとの出会いは、父・一郎さんの勧めから。小学生の頃からMEET MORIUMIUS (1泊2日/2泊3日の短期滞在プラン)やLIVE IN MORIUMIUS(7泊8日の滞在プラン)に何度か参加したのち、漁村留学制度が始まると聞き、家族で参加を決めたと言います。どこに心惹かれたのでしょうか?

遥くん:モリウミアスでは自由に自然と関わることができて、普段できない体験ができます。山で工夫して遊んだり、いろいろなものをつくったり、森の手入れをしたり。八王子にも自然はあるけど海はないし、山や公園では火遊びもできないですよね。雄勝は空気も川も圧倒的にきれいなので、そこがいいなと思いました。

漁村留学中は、カヌーやSUPなど海のアクティビティやキャンプなど自然体験の機会も多くあります。

短期プログラムを通して雄勝の圧倒的に美しい自然に心惹かれていた遥くん。でも1年間に渡る留学となると、話は違います。親元を離れて長期で暮らすことに、抵抗や迷いは感じなかったのでしょうか。

遥くん:友達と1年間も離れるのは、正直「う〜ん」と思いました。でも1年間というのは中学校生活の中では長いけど人生で考えると短いし、2年生で行けば高校への視野が広がるかなと。「楽しそう」という気持ちの方が強かったです。

一方のご両親は、どんな心境で送り出したのでしょうか。

理穂さん:本人としては父親に勧められたというのもあると思いますが、迷っていた時期にMEET MORIUMIUSに参加して、本人も「やっぱり面白そうだから行ってみようかな」って言っていて。漁村留学の面接のときは、「ゲームも楽しいけど、手応えがない。でもモリウミアスでやることには手応えがある」と話しているのを聞いて、なるほどなと思いました。

私自身の心境としても、中学に入ってから何かと規制が多くなって、創造性や能力を発揮する機会が少ないと感じていました。モリウミアスに行った方がいい経験ができるかなと。

一郎さん:私はモリウミアスのスタッフの方々が好きですし、遥自身がモリウミアスを信頼していたので、息子が信じているのならという気持ちでした。一期生ということで、信頼している団体が新しいもの(漁村留学制度)をつくろうとしているのなら、そこに関わるのも面白いかなとも思いまして。

ただ、2人には親目線の率直な不安もあったそう。

理穂さん:遥はマイペースなので他の留学生に迷惑をかけるんじゃないかと不安で。

一郎さん:進んで何かをするタイプではないんですよね。「誰かやってくれるなら自分はやらなくていい」って動かないんじゃないかと。

理穂さん:不器用で部屋も片付けられなくて、嫌な思いをさせないかなと…(苦笑)。

失敗が直結する暮らしの中で生まれた“温もり”

親と子と。それぞれの想いを乗せて始まった1年の留学生活。遥くんはホームシックになることもなく順調にスタートを切ったようですが、さて、ご両親の不安の行方は?

理穂さん:それが、1年でびっくりするくらい変わったんですよ。最初はごはんづくりも薪割りも、必要最低限しか動かなかったのに、3学期には自分から動いて、むしろ他の子に「こうしたらいいんじゃないか」「これやろう」って声をかけていて。特にごはんづくりは、さくさくと自分からやるようになっていました。まあ、洗濯や片付けは最後までできませんでしたが(笑)。

自分から行動する遥くんの姿をご両親は驚きとして受け止めたようですが、遥くん自身の実感はどうだったのでしょう。

遥くん:ごはん炊きとか風呂炊きとか、家で生活するより全然大変だし、手間は増えたかもしれないけど、新たな温もりみたいなものが暮らしの中に生まれました。毎日の暮らしが充実していたなと思います。

「”温もり”って?」と遥くんにさらに問いかけると、こんな答えが返ってきました。

遥くん:薪ストーブの温もりとか、炊いたお風呂の温もりとか。温かみが溢れていて、お互いに協力して充実した生活だったんじゃないかなと

やらなくてもいいことなら途中でやめちゃったかもしれないけど、やならきゃいけないことを続けることによって、それがどんどん楽しみに変わっていきました。もちろん大変だなって思うときも結構ありましたが、楽しいなって思うことも多くて、やりがいも多かったので。

2022年度留学生の3人組。一番右が遥くん。

やらなきゃいけないことが楽しみに変わっていく、その背景にあったのは“温もり”。ともに協力して暮らしをつくる仲間がいたからこそ感じた温度感なのかもしれません。遥くん曰く、3人はとても仲が良く、意見の違いもお互いに譲歩しながら生活していたようです。

ご両親も、仲間がいたからこその変化や成長を実感している様子。

理穂さん:洗濯も掃除も、歯磨きでさえ怪しいくらい(笑)、できないことがいっぱいある子でしたが、親が言うよりも友達に言われることでやらなきゃと思うようになったようです。留学生3人は、最初はぎこちない空気のときもありましたが、2学期以降はどんどん雰囲気がよくなっていきました。

一郎さん:遥は不器用で、それなのに一番年上(当時、遥くんは中学2年生、他の2人は中学1年生でした)で、最後はみんなをまとめるようなこともしていて。人間っていうのはそういう場に身を置くと、それぞれの能力を認め合いながら変わっていけるのかなと感じましたね。

年に3回ほど、保護者が漁村留学棟で子どもたちとともに過ごす機会も。子どもの様子を知るとともに、保護者同士の交流の機会にもなっています。

さらにご両親は、本人たちの努力はもちろんベースにありつつも、彼らの成長においてスタッフの存在も欠かせなかったと語ります。

理穂さん:スタッフのみなさんは留学生一人ひとりを対等に見てくれますし、何より失敗をさせてくれます。今そういう機会が少なくなっている中で、子どもが失敗してまたトライすることを許される貴重な場だったなと。

うちの子は本当にたくさん失敗しました。保存容器を壊したり、ご飯炊きを失敗したり、お味噌汁には煮えていないニンジンが入っていたり…(苦笑)。

一郎さん:失敗そのものが直結して自分に関わってくるんですよね。そういう体験はなかなかできないと思います。

理穂さん:親は止めてしまうので、そこまでやらせてあげられないんですよね。でもモリウミアスのスタッフのみなさんは本当によくやらせてくれて、ありがたかったです。

濃い付き合いを通して雄勝が第2の故郷に

一方で、学校生活はどうだったのでしょうか。遥くんが留学した2022年度の石巻市立雄勝中学校は、全校生徒がたったの10人。同級生は遥くんを入れて5人という環境に飛び込みました。中学1年生のときは5クラスで生徒数も多い中学校に通っていた遥くん、初対面の人と話すのはそんなに得意ではなかったそうですが…。

遥くん:人数が少ないから、親しみやすくて飛び込んで行きやすかったです。学年問わず全員の顔を知っている状態で、一人ひとりをよく知ることができました。同級生たちはお互い幼馴染でずっと同じクラスで、震災後に一度別れてまた合流したような経験もあって、仲も良くて。先生も丁寧でみんな優しかったですね。


雄勝中学校の生徒のみなさんとともに取り組んだ雄勝復興輪太鼓の様子。石巻市立雄勝小学校・中学校では全校の伝統芸能活動として小学生は雄勝法印神楽、中学生は雄勝復興輪太鼓に取り組んでいます。

少人数だからこその良さを感じていた遥くん、その関係性を「濃い付き合いだった」と話してくれました。それは地域の方々との関係性も同じで、民泊をしたり漁業体験をしたり、「雄勝には子どもも少ないので、可愛がってもらえた」とも。理穂さんも感謝の気持ちを抱いているようです。

理穂さん:遥はこれまで高齢の方と交流する機会はあまりなかったのですが、留学生活の中で雄勝の方々にすごく可愛がってもらいました。おじいちゃんおばあちゃんとの関係性がたくさんできて、それは本当によかったなと思います。これからもモリウミアスのプログラムに参加すると言っていますし、雄勝が第2の故郷みたいになるのかもしれませんね。


今すぐの変化はあまりない…けれど

1年の留学期間を終えて八王子市の自宅に戻り、再び地元の中学に通い始めた遥くん。現在はどんな気持ちで日々の暮らしを送っているのでしょうか。親子関係に変化は?

遥くん:今のところ変わったことはそんなにないです。

理穂さん:基本的には元に戻りましたね。

「お手伝いもしない」と親子ともに笑います。でもやはり、お互いに感じるところはあるようです。

理穂さん:遥は前よりはフットワークが軽くなって、自分から動こうとすることが増えてきたように感じます。親子関係で言えば、少し大人の関係になったかなと。思春期なので反抗してくることもありますが、対等に話ができるようになったと思います。私も今までは遥に勉強のことなどいろいろ言っちゃっていましたが、今は我慢の限界まで言わないようになりました。

遥くん:変わらないけど、身についたものはあるので。料理とか写真とか。


留学生は、空き時間を使ってそれぞれの「マイプロジェクト」に取り組みます。MORIUMIUSのプログラムをきっかけに写真に興味を持った遥くんは、留学期間中に撮影した写真を一冊の写真集にまとめました。

変わらないようで、確かに身についたものはある。そんな自信のとともにある遥くんに、これから漁村留学にチャレンジしようとしている方々へ伝えたいことを聞きました。

遥くん:大変ではあるけれど、いろいろな経験ができて楽しいし、自分の人生に必ずいつかプラスになるから「行ってみたらいいよ」と伝えたいです。身についたものもありますし、出身地以外で過ごしていろいろな人と接して新たな価値観が生まれたりして。1年間で得た経験は無駄にならないと思いますし、いろいろな意味でこれからのプラスになるんじゃないかと思う。楽しくていろいろ身について、最高のプログラムなんじゃないかなと思います。

一郎さん、理穂さんにも、漁村留学への参加を検討されている親御さんへ伝えたいことを聞きました。

理穂さん:いろいろな不安があって、「うちの子には無理」って思ってしまうかもしれませんが、子どもはいろいろな可能性を持っていて、いい土といい水と肥料があれば、親が思っている以上に伸びます。子どもと離れても元々の絆があれば1年間離れても心の距離が離れるわけではありませんし、私は本当に行かせただけの価値があったと思っています。

一郎さん:留学に行ったからといって受験みたいに結果が出るわけではないですし、子どもがすぐに劇的に変わるわけではありません。でも漁村留学は、いつか変わる可能性があるところだと思います。何年後かはわからないけど、1年の経験が心身に蓄積されて、芽が出てくるのだろうと。

理穂さん:受験のことなどを考えると「今塾に行かなきゃ」と思ってしまいますが、長い目で子どものことを見たときに、大きな1年になると思います。

一郎さん:そう、変わるきっかけになることは間違いないです。

家族やモリウミアスのスタッフ、地域の人々に囲まれて開催された漁村留学の修了式の様子。

安達さん家族はとても穏やかな表情でインタビューに答えてくださいました。留学前後で本人が劇的に変わったわけではないけれど、親子ともに確かな価値のある1年だったと感じている。その確信が、再び一緒に暮らし始めた親子の絆をより深いものにしているのでしょう。対話の中に、お互いへの心地よい信頼感を見出すことができました。

現在、漁村留学のお試し滞在ができる特別プログラム「漁村留学2023summer」の参加者を募集中です。少しでも興味があるという小学3年生〜以上のみなさん、保護者のみなさん、ぜひチェックしてみてください。

子どもにとっても家族にとってもかけがえのない1年への扉は、みなさんの前に開かれていますよ。


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池田美砂子/株式会社be・Cの辺り
貴重な時間を割いて読んでくださったこと、感謝申し上げます。みなさんの「スキ」や「サポート」、心からうれしく受け取っています。