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漁村留学。それはこれからを生きるための土壌を耕すような時間 〜小4で親元を離れて暮らす娘の姿に思うこと〜

小学4年生・10歳の娘が宮城県石巻市雄勝町のモリウミアス漁村留学に参加して、4ヶ月が経ちました。

初めての親元離れた暮らし。
初めての自炊と共同生活。
初めての土地、小学校、友達。

何もかも初めて尽くしの毎日に、正直、親としては不安もありました。本人の「私はできる」という自信を信じて意思を尊重して見送ったものの、「想像できていない部分もあるのでは?」「本当に大丈夫かな?」と。

(漁村留学に至るまでの経緯はこちらの記事をぜひ。)

でもその不安は、私の杞憂に過ぎませんでした。

漁村留学がスタートしてから4ヶ月。今の娘の姿に思うことを書いてみたいと思います。


ハイテンションなスタート

4月上旬、いよいよ漁村留学がスタートするにあたり、家族みんなで石巻市雄勝町にあるモリウミアスを訪れました。

今年は早かった桜。石巻市でも4月上旬の時点で葉桜でした。

初めて会うルームメイトとご家族にご挨拶して、これから娘が暮らす2段ベッドのある部屋を整え、転校先の小学校の先生にご挨拶して。2泊3日、ともに時を過ごしました。

娘の1年間の暮らしの場になる2段ベッドのある2人部屋
留学生家族の皆さんと一緒に料理して食べて笑って、親交を深めました。
転校先の石巻市立雄勝小学校でご挨拶。全校生徒21名の小さな学校です

新しい環境に怖気付くことなく娘は終始ハイテンションで過ごし、別れ際もニコニコ笑顔。その姿にホッとして私たちは家路に着きました。

「もう切っていい?」そっけない電話…

こうして始まった娘の漁村留学。その様子はほぼ毎日、スタッフの方々が撮影した写真と動画で知ることができます。笑顔を見るだけで一安心。表情が固いときは少し不安に。自分が子離れできていないことを、思い知らされる日々。

薪割り修行中の娘。漁村留学2年目の子の腕前は誰もが驚くほど!
もともとインコが大好きだった娘、モリウミアスでは毎日卵を産んでくれる鶏たちにたっぷり愛情を注いでいます。

電話は、基本的にはこちらからかけることはしません。その代わり、子どもたちが電話をかけたいときはいつでも自由にかけることができます。

親としては少し寂しい気もしますが、親から頻繁に電話がかかってきたら、子どもの気持ちも揺れるでしょう。一方で「自分からはいつでも親に電話ができる」という状況は安心感につながります。「電話は子どもが望んだ時に」という文化は、子どもたちの暮らしのリズムを整えるために必要な大人の配慮なのだと理解しています。(声が聞きたい親の本音をグッと抑えながら…)

我が家はというと、最初、娘からは一向に電話がかかってきませんでした。写真で元気な様子は想像できる。でもやっぱり声が聞きたい。そんな私たちの思いを察してか、約2週間後に初めての電話がかかってきました。

娘「ママ、あのね」
私「元気?声が聞きたかったよー!」
娘「うん。あのね、『XXXX』って本を送って欲しいの」
私「あぁ、『XXXX』ね。わかった、送るね。生活は楽しい?学校は?」
娘「うん、楽しい。あ、もう切っていい?」
私「え?」
娘「ごはんつくる時間だから」
私「うん…そっか、またね!」
娘「バイバーイ!」

あっという間に切れてしまった電話。きっと向こうの暮らしが充実しているからだろうし、ホームシックな様子はまったく感じられず、嬉しいながらも寂しい親心…。「いやいや、喜ぶべきこと!」と自分に言い聞かせて過ごしていました。

スタッフさん撮影、楽しそうな笑顔の写真に、いつもほっと癒されています。

1ヶ月ぶりの再会

ゴールデンウィークには、1ヶ月ぶりに私たち家族がモリウミアスを訪れる機会がありました。留学中の1年の中で4回、家族でモリウミアスを訪問する機会をつくってくださっていますが、2回目の今回は「薪割り合宿」と名付けられた2泊3日。

初めて離れて暮らした1ヶ月の後とあって、モリウミアスに到着後、ドキドキして娘を探した私。視線の先に、モリウミアスのプログラムを受講する娘の姿がありました。留学生は、時々モリウミアスの週末プログラム「Meet MORIUMIUS」等に参加させていただいているのです。

私を見つけて軽く手を振った娘。プログラム終了後、漁村留学棟に走ってきてくれました。再会がこんなに嬉しいとは!

1ヶ月ぶりの再会!!

娘は変わらず元気いっぱいで、私にあれこれ早口で説明する様子にここでの暮らしの充実を感じました。そしてこの3日間は、家族も留学生の暮らしをそのまま体感しました。DIYをして、薪割りをして、釜戸で羽釜ご飯を炊いて、薪ボイラーのお風呂を炊いて。雄勝の伝統芸能・神楽も楽しみました。

鶏小屋と産卵箱を留学生家族みんなでDIY
子どもたちがいつも自炊しているキッチンで、みんなで料理!
神楽を通して雄勝の文化にも触れました

3日間一緒に過ごして感じたのは、ここがすでに娘のホームになりつつあるということ。最初のハイテンションは落ち着き、この環境で無理なく自然体で過ごせるようになっていると感じました。スタッフにワガママも言えるし、甘えられるし、ルームメイトと喧嘩だってできる。そんな娘の姿を頼もしく感じながら、雄勝を後にしました。

4ヶ月の暮らしを経て、初の帰省!

ゴールデンウィークから2ヶ月半、娘は体調も崩さず元気に過ごし、日々の暮らしに加えて、学校生活も地域の人々との交流も、存分に楽しんだ様子です。

ササニシキの有機農家さんで、田植えのお手伝い
地域の草刈りに参加
地域の方のお宅にお邪魔させていただくことも。

そして7月下旬、初めて茅ヶ崎市の自宅に帰省しました。帰省は夏と冬の長期休みのみ。8月下旬までの1ヶ月のことを、親子ともども楽しみにしていました。

娘は自他共に認める“多くを語らない系”。「漁村留学どう?」なんて質問には「楽しい」と一言。でも帰ってきた娘の姿に、夫も私もしみじみ成長を感じています。

迎えに行った東京駅で。良い顔で帰ってきました。

一番感じるのは、暮らしの中での態度の変化。これまでは私がご飯を作っていても知らんぷりで好きな読書に没頭していることも多かったのですが、今は自然に手伝うことが増え、自分が動かないことが居心地悪そうにさえ見えます。日々、留学生3人で料理を作り、掃除をし、お風呂を炊き…といった暮らしを全て協力して行っていることの表れなのでしょう。共同生活を通して、「自分が暮らしを作る一員である」という意識が自然に備わったと感じています。

手慣れた様子で料理をしています

循環の暮らしを積み重ねるなかで、自然に食べ物への感謝も生まれたのでしょうか。好き嫌いはほとんどなくなり、ごはんつぶも誰に言われるでもなく一粒残さず食べるようになりました。消費し続ける都会の便利な暮らしとは違い、生ごみを鶏に与え、堆肥にし、鶏の卵や海や森の恵みをいただく手間のかかる循環する暮らしを当たり前に繰り返しているからかもしれません。

家族で訪れたジブリパークの「サツキとメイの家」のキッチンで、「モリウミアスと一緒!」と喜ぶ娘。お風呂もかまども、トトロ時代の暮らしをしているのだなぁと。

5歳半離れた4歳の弟への接し方にも変化が見られました。一緒に暮らしていたときは頑固な性格が災いして何かと対立していたのですが、今では弟がぐずったときはスッと譲ることができるようになりました。子どもたちと私の3人で屋久島旅行に出かけた時などは、移動時に息子の手をしっかりと握り、自然にご機嫌をとったりする姿が見られました。そのおかげで子連れ旅行がどんなに楽になったことか!離れてみて、弟に対する感じ方もスタンスも変化したのかもしれません。

娘のおかげで息子との移動がこんなに楽になるとは!

そのほかにも料理は格段に上手くなり、私が出張中もお任せできるようになりましたし、一方でオンラインレッスンで続けているピアノが格段に上手くなるというちょっと意外な変化もありました。もちろん変わらないこと欠点もたっぷりあって、ギャングエイジ入口の10歳らしいやんちゃな顔もいっぱい見せてくれています。

でも全てを通して言えることは、娘の中に確実に「自信」が育まれているということ。

親元離れて暮らすことができている。
料理も掃除も洗濯も、全部自分でできている。
新しい学校でもやっていけている。

豊かな自然環境と暖かな人々に囲まれ、たくさん失敗させてもらえる環境で多くのことを体験し、芽生えた大きな自信。それは人から言われたり決められたことをやるのではなく、自分で選び取った道で体と心丸ごとで体感し、獲得したものです。

それが娘の生きるための土壌をほくほくと耕していて、成長の土台となる強い根っこを張る準備ができ始めているなと感じています。

屋久島で出会った紀元杉。表出しているものの土壌には、強い根っこが育まれている。見えない土の中にこそ思いを馳せ、耕し続けることを大切にしたい。

見えにくい成長にこそ目を向けて

でもこういった成長は、目に見えにくいものです。

受験で合格したり、習い事が上達したりといったわかりやすい成長とは違い、「自信」や「態度」といった側面の成長は、家族でなければ感じられないものかもしれません。今帰省中の娘に会っても、何も変わらないと感じる方も多いのかも。

いつもの海で。10歳の弾ける笑顔をいっぱい見せてくれています

でも私は、こういった成長にこそかけがえのない価値があると思っています。

結果が見えやすい受験などに比べて、漁村留学のような体験の積み重ねは、いつ芽が出るかわからないのに土壌を耕し続けるようなこと。見守る親としても、とても辛抱が要ります。「何の意味があるのだろう」「いつまでたっても芽は出ないのではないか」と思ってしまうこともあるかもしれません。

でもしっかり耕してふかふかになった土壌に張られた根っこは、目に見えないけれども強く太く、確実にその子の生きる力になります。たとえこれから失敗したり挫けたりしたときも、また立ち上がる力になるのだと思います。

いつ芽吹くかはわからない、芽吹かないかもしれない。でも、見えない土壌の中に育まれた豊かさに目を向けてみると、その子なりの、その子にしかない愛おしい成長の形が見えてきます。豊かな体験を通して得られるこういった成長の価値が、もっともっと、多くの人に伝わるといいなと心から願っています。

だって自らの意志で漁村留学という道を選んだ娘は、今とてもいい顔をして生きているのですから。表情を見れば、子どもにとって何が大切か、わかりますよね。

娘も含めた漁村留学生たちの4ヶ月間の様子は、地元のテレビ局に取材していただいたこの動画がとてもよく表現してくれていますので、よろしければご覧ください。私も母として登場していたりします(笑)。

「子どもの成長」を語り合いませんか?

8月26日(土)、娘がまた漁村留学に戻る前日に、私たち夫婦が営むコワーキング&ライブラリー「Cの辺り」で、漁村留学のお話会を開催することになりました。子どもたちが名付けたイベント名は、「飛び出せ!モリウミアス漁村留学〜説明会&交流会〜」。

モリウミアスのスタッフの方が来場し、漁村留学に関して詳細をお伝えするのはもちろん、現役漁村留学生、卒業生、その保護者たちも来場。ざっくばらんに子どもの成長について大いに語り合える機会にしたいと思っています。

このnoteを読んで心が動いた方、ぜひこの機会に足を運んでいただけると嬉しいです。娘と共に、心より、お待ちしています。

まだまだ続く1年間の漁村留学。今後もたくさんのドラマが待ち受けていることでしょう。引き続き親としての思いを綴っていきたいと思います。

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池田美砂子/株式会社be・Cの辺り
貴重な時間を割いて読んでくださったこと、感謝申し上げます。みなさんの「スキ」や「サポート」、心からうれしく受け取っています。