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『ざっくり理解する自衛隊――読書日記』 いざという時、本当にこの若者たちが守ってくれるのだろうか?

井川夕慈のKindle電子書籍『ざっくり理解する自衛隊――読書日記』より一部を抜粋して公開します。


はじめに 沖縄行のフェリーの上で

 沖縄まで船で行って来た。
 波に揺られて沖縄まで行く、という体験を一度してみたくて。
 そうすることで、本土から沖縄までの〝本来の距離感〟のようなものを会得できるのではないかと思った。
 調べたところ、現在は鹿児島からならフェリーが出ているらしい。
 それでわざわざ那覇へと向かったのだ。桜島の見える街を経由して。

マリックスライン クイーン コーラル クロス

 乗ってみての感想は、まあ悪くはなかった。
 船は大きくて新しくて清潔だった。
 明るい食堂(レストラン)もあったし、好きな時にいつでもシャワーを使えた。
 しかし……
 時間はかかった。
 鹿児島を一八時に出発して、那覇到着は翌日一九時である。
 まるまる一日が船の上でつぶれてしまう。
 しかも料金は、飛行機で行った方が安いのだ(!)。
 となると、リピートするのは、なかなか難しい。
 今回は体験を買ったもの、と自分の中では整理している。

 そのフェリーに、自衛隊が同乗していた。
 メモしたから正式名称を覚えている。
 部屋の表示板に紙がぶら下がっていた。

陸上自衛隊第15旅団司令部
陸上自衛隊第51普通科連隊

 そして思った。
《司令部だから「51」より「15」の方がエラいのか?》
《自衛隊は海上自衛隊の船で移動するんじゃないんだ!》
 自衛隊についての私の知識など、その程度のものである。
 戦闘服を脱いだ彼らは、おおむね若かった。
 だから一見、大学の運動部の合宿のようにみえた。

 フェリーには食堂がついていた、と述べた。
 もちろん有料だ(焼き魚定食で七〇〇円だったか)。
 朝・昼・晩の食堂が開く時刻になると、客を呼び込むために船内にアナウンスが流れる。
 ところが彼らには、毎回〝特別の弁当〟が用意されていた。
 そして一般客を招き入れる前に、「自衛隊の皆さま、お食事のご用意ができました」と別枠で食堂に案内されていた。
 正直に書こう。
 それを聞いて、私は《ズルい》と思った。
《同じ客ではないか、なぜ自衛隊だけ特別扱いか》と。

 ところがレストランの営業時間が終わり客の姿がおおむね消えた後、食事時間をずらしたのだろうか、ある若い隊員が食堂にポツンと一人でいるところを見かけた。
 隊員はスマートフォンをいじりながら、支給された〝自衛隊弁当〟に喰いついていた。その横には、おそらく私費で買い足したのだろうカップ麺の筒が置かれていた。
 半袖・半ズボンの裾からは、筋肉の付いた褐色の腕や脚が伸びていた。
 その姿を見たとき、私の気持ちが変わった。
《彼らはいざという時、その肉体で私たちを守ってくれるのだ。よって、その肉体は、彼ら自身のものでもあるが、日本国民の共有財産でもある。ならば、特別枠でも何でもよいからジャンジャン食べてもらって、筋肉の増強に努めてもらうべきではないのか》
 同時にこうも思った。
《いざという時、本当にこの若者たちが自分たちを守ってくれるのだろうか?》

 それで俄かに、自衛隊について調べてみる気になった。
 目標は、自衛隊を知ること、自衛隊に〝馴染み〟の感覚をもつこと。
 以下は、その過程で獲得した私の読書体験を共有するものである。
 思ったほど深掘りできなかったが、今後およそ自衛隊について何かを考えるための基盤は、自分の中に形成されたと思う。少なくとも、以前より関心をもって自衛隊関連のニュースに接するようになった。
 それにしても思うのは、
《この程度のことすら知らずして、自分は四〇年以上も生きてきたのだなあ……》
 ということである。
 義務教育では教えないからね。


(続きはKindleでお楽しみください。)

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井川夕慈
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