不思議の国の若者たち
書籍『ヒューマノクラシー』の章立てに沿って、官僚主義的なエピソードや、本の記載内容の背景などを紹介しています。
第15章 ヒューマノクラシーのはじめ方
自分を偽ることを求められる、もしくはそうすることでしか存在価値を認めてもらえない、「大企業」という不思議の国に迷い込んだ若者たちにとって、離職という手段は、自己を守る上での、積極的、かつ、正当な行為なのだと思う。
書籍『ヒューマノクラシー』には、「官僚主義者のためのデトックス」という表現があり、「不思議さ」に対して感覚を閉じ、官僚主義のはびこる大企業で働く人たちを病人扱いしている。私たちは、よく、「アンラーン」という言葉を使う。成功体験などを捨てて、新たな知識やスキルを学ぶことが推奨される。OSのアップデート、もしくは載せ替えなどという人もいる。そういう、改善であったり、新たなものを手に入れたりという次元ではない、「デトックス」にはもっと重い意味がある。つまり、デトックスが意味するところは、集合的な価値観に対しての病理の浸食である。
本書では、それらの病理に気付くための12の練習問題が用意されている。その12の項目に対し、「不思議さ」にスポットをあてると以下のようになる。
1.企業における競争とは、他人を蹴落とすことである。人の多さに比べて、空いているポジションは少なすぎる。自分の脇は固めながら、ライバルの上げ足を取る。これが出来なければ人の上に立つことはできない。
2.権限は極力、自分のところに置いて、キープすること。企業においては、意思決定の権限の大きさと報酬は一致する。稼ぎたければ、自分の権限を他人に渡してはいけない。そして、周りにはいかにも困難な仕事をしているように見せかけねばならない。
3.自分の任された事業は価値のあるものに見せ、予算の資金は出来るだけ多く獲得しなければならない。リスクを誇張しすぎると不利を被る。回してもらえる資金が多いほど自由度は高くなる。
4.上司のアイデアには、良し悪しは抜きにして、とりあえずは賛同しなければならない。下手に正論を述べると自分のキャリアに傷がつく。自ら好んでリスクを取りに行くべきではない。
5.従業員はコストである。事業利益のためには、これまで築いてきた人間的関係性は犠牲にすべきである。そして、これが出来ないと一人前とは認められない。
6.大胆に行動するよりも失敗のリスクは避けたほうがよい。失敗は致命傷となりかねないからだ。「臆病」であることは「慎重」という高評価につながる。
7.逆効果となりそうな政策には服従すること。これに異を唱えると身に危険が及ぶ。意見を言うくらいなら愚痴を言って我慢する。
8.部下にはありふれた仕事をやらせておけばいい。人の成長を考える必要はない。
9.イノベーションは時間を取られるし、やっても無駄。目立たないのが得策だ。
10.会社の事業のことはさておき、まずは自分のチームを優先する。他部署のことはどうでもいい。
11.小さな成功は大きく宣伝し、失敗は出来る限り隠す。評判の高さと給料は比例する。
12.結果がすべて。自分の価値観などはどうでもいい。結果を出すには仕組みの抜け道を探すことが優先される。
と、一般的に大企業と呼ばれる組織はこれらの「不思議さ」をもって構成されている。これらに侵されていく感覚に自ら蓋をし、無頓着になって、周りのアドバイスに従い、「石の上にも3年」という期間を耐え抜けば、もう「不思議さ」はなくなっているのかもしれない。感染が進み、十分に病に侵された状態になっているのかもしれない。
一方で企業側は、「早期離職問題」といって、若者がそこから抜け出すことを重大な問題と捉えている。一人あたり100万円以上かかるといわれる採用コストがすべてフイになってしまうからだ。しかし、繰り返しになるが、理解することのできない「不思議の国」に迷い込んだ若者が、何とか脱出しようと試みることに、私は何ら問題を感じない。
本書では官僚主義を崩壊させる方法として、以下のことが述べられている。
ここで言う「自分の正義」のことを、ティール組織の文脈では「Integrity(インテグリティ)」と呼ぶ。自分自身に対して、その信念に対して、いかに向き合えているかが問われるのだ。
世代交代は、ある程度待たないといけないのかもしれない。しかし、人が集まらないことによって、官僚主義が崩壊するロジックはとても理解できる。上の12個の内、10個当てはまるなら、そんな会社辞めようぜ、というのが今の感覚なら、3年後には8個、5年後には半分の6個と減っているような気がする。近い将来、官僚主義的な項目に1つでも当てはまる企業は、存続ができなくなってくる可能性が高い。すぐ近い未来のことだ。