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大学で1000冊の本を読む50の方法(5)
前回の話はこちら。
9月に入ったが、連日猛暑日が続いており
秋らしさは微塵も感じなかった。
夏休みが終わった。
大学には「履修登録」という作業がある。
これから半年間、自分が受講したい講義を
最初に登録するというわけだ。
楽な講義や、人気のある講義は是非ともおさえておきたい。
しかし俺はサークルに所属していないから、ただでさえ情報弱者だ。
同じ学部の人に聞いてみるしかない。
西野円佳の姿を探した。
――彼女は大学生協にいた。
幸い一人でいた。
自分のことをコミュ障だとか陰キャだとか言い訳している余裕はない。
話しかけよう。
「西野さん、こんにちは」
「あっ隆二くん、久しぶり! どうしたの?」
「知っていたら教えて欲しいんだけど、後期の講義でラクなやつとか、
人気の講義を教えて欲しいんだ」
「それならね、この講義は簡単って噂だよ! それと、
この講義は本を読んで感想文を提出するだけでいいらしいよ。
『カラマーゾフの兄弟』って知ってる?」
本屋で必ず見かけるロシア文学の小説だ。
読みたいと思っていたが難しそうで手を出せずにいた。
「読んだことはないけど名前は知ってるよ」
「『カラマーゾフの兄弟』を読破して感想文を提出したら、
あとは講義に出なくても単位が貰えるんだってさ。私も受講するよ」
本を読んで単位が貰えるのか。
それは良いことを聞いた。
「俺もその授業、受けるよ。教えてくれてありがとう!」
大学で1000冊の本を読む50の方法 その21:課題図書がある授業を受ける
後期の履修登録が完了した。
課題図書があり、その本を読んできてゼミを行ったり、
レポートを提出したりする講義をいくつか取った。
『カラマーゾフの兄弟』も購入して、さっそく読んでみた。
うーん、登場人物の名前が覚えにくいし、
はっきり言って全然面白くない……。
苦痛だが、頑張って読破するぞ。
『カラマーゾフの兄弟』の講義で単位を取る方法は2つある。
1つ目は普通に講義に出席して、
授業の終わりに毎回レポートを提出すること。
2つ目は『カラマーゾフの兄弟』を読破して読書感想文を提出すること。
感想文を提出したらそれ以降の講義は出なくていい。
第一回目の講義の前に感想文を提出して、
一切出席せずに単位を獲得した猛者もいるそうだ。
いずれにしても期末試験はない。神授業だ。
単位をもらうだけなら本を読破しなくても、毎回授業に出るだけで良い。
だがしかし俺は当然、読破を目指す。
大学で1000冊の本を読む50の方法 その22:難解な本にチャレンジする
講義だけでなくゼミにも参加した。
好きな偉人について調べてプレゼンを行うという内容のゼミがあった。
西郷隆盛とマリー・アントワネットが好きな俺は
どちらにしようか迷ったが、
西郷隆盛について発表することにした。
やはり人気がある偉人なので、
図書館に行けば西郷隆盛に関する本を何冊も借りることができた。
大学で1000冊の本を読む50の方法 その23:図書館で本を借りる
『カラマーゾフの兄弟』を読み進めているが、かなり難航していた。
西野円佳は自力で読破する気は最初からなかったようで、
普通に講義に出席していた。
「隆二君は、哲学って読む?」
講義が終わると西野円佳に尋ねられた。
「哲学かぁ……。あんまり詳しくないけど、
少しだけ読んだことがあったかもしれない」
「私が読んでる本が哲学的な内容のラノベで、哲学に興味がでてきたんだ。
もし初心者でも分かりやすい哲学があったら、教えてほしいんだ」
少しだけ読んだことがあったかもしれないなんて、
カッコつけたことを後悔した。
哲学書なんて読んだことないぞ!
思い出せ、今まで読んだ中に哲学に関連する書籍はなかったか?
そういえば以前に、哲学と言えるかもしれない本を
読んでいたことを思いだした。
「そうだ、ショーペンハウエルの『読書について』が
読みやすいかもしれない」
「『読書について』だね。分かった、読んでみるよ!」
大学で1000冊の本を読む50の方法 その24:人に本を薦める
ところで西野円佳の言う「哲学的な内容のラノベ」というのが気になり、
興味が湧いたので尋ねてみた。
「西野さんの読んでるラノベってどんなやつ?」
「『ウジマジ』って言うんだけど、知ってる?」
「『ウジマジ』? いや、聞いたことないな」
「『転生したらウジ虫だった件~マジで創造神をぶっ倒すと誓った~』
っていうラノベで、最近すごく話題になってるんだ」
正直、読みたいとは到底思えないタイトルだった。
「主人公の置かれた状況があまりにも絶望的で、
哲学的だって感想が多いみたい。今度貸してあげるから、読んでみて!」
「わ、分かった。読んでみるよ、ありがとう……」
西野円佳に借りた『ウジマジ』を読んでみた。
うーん。
面白いんだかつまんないんだか、よく分からない作品だ。
主人公の状況がひたすら絶望的で救いがないので、
読んでいて気が滅入る。
これが哲学と言われてもピンとこない。
そもそも哲学が何なのか、俺もよく理解していないので
哲学なのか哲学じゃないのか、それすらも分からない。
自分で買った本だったら途中で放り投げてたけど、
せっかく貸りた本だから一応最後まで読むつもりだ。
大学で1000冊の本を読む50の方法 その25:人に薦められた本を読む
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