月に囚われた男 ~ 面白映画なので隙だらけでもOK
これを書いてる2024年3月現在、アマプラで100円でレンタルできたので観ました。面白かったです。デヴィッド・ボウイの息子が撮った映画なんですってよ。
超ネタバレなので、これから観たい人は読まないのが良いです。
宇宙でひとりぼっちという設定自体が燃えるんですが、こちらはオデッセイとかゼロ・グラビティみたいな遭難系じゃなくて、普通に仕事として月に赴任している人の話です。
序盤からしばらくは月での日常がダラダラ続くんですが、月面車で事故ってしまったところから話が転がり始めます。時系列であらすじを追うよりも、実はこういうことだった!っていうことを書いた方が早そうです。
使い捨て奴隷みたいなひどい扱いでクローンを使っていることがわかるわけですが、クローンと言ってもマスターの記憶や自我もコピーされたサムそのものなわけで、ここがこの映画で描かれているテーマのキモですね。
事件の真相は?みたいなサスペンス的なことはけっこうどうでも良くて、クローンという技術が実際の世界でも忌避されている理由について考えてみようっていう話です。
自我も感情もあるクローン人間を作ってしまったら、その人間の人権は?みたいなことを考えると、やっぱりクローン技術研究というのはタブーではなかろうか、みたいなところがこの映画で語られていることだと思います。
それを面白く映画にしてくれてて、最初から最後まで楽しめるものになっています。
ひとり目のサムとふたり目のサムが、最初はギクシャクしながらもやっぱりそこは自分同士、だんだんわかりあって奇妙な友情が芽生えるなんていうアツい展開。
ラストシーンではルナー・インタストリーズの巨悪を暴くものの、クローンに対する差別意識みたいな問題も提起されてエンドロール。97分ですからコンパクトで、飽きずに楽しめる映画でした。
ただし、ツッコミどころは満載で、細かい設定のほころびが気になる性質の人はそういうところはあえてスルーして楽しむのが良き。
クローン貯蔵庫の隠し部屋がバール1本で破れる床穴から入れちゃうとか。サムが会社の秘密を暴く行為を堂々とやってるのに監視してないの?とか。この映画におけるひとり目(実際には何十人目、何百人目?)のサムが事故ったもののまだ生きてるのに、ふたり目を出しちゃう迂闊さとか。
リアルタイム通信で真実がバレることを隠すためだけだったらあんな巨大な通信妨害アンテナを作るよりも、通信遮断をシステムに組み込んだ方がコストもかからないし簡単なんじゃないかとか。
ルナー・インタストリーズは地球上のエネルギーの70%をまかなう超巨大大金持ち企業なのに、やることにスキがありすぎなんです。
サムの面倒を見るAIロボットのガーティも、会社側に不利益があることを隠そうとするかと思えば、サムたちの反逆に手を貸してしまうようなところがあって、行動制御のプログラムがゆるすぎます。クローンに秘密がバレてしかるべしって感じ。
そう、ガーティもちょっとこの映画の残念なところのひとつです。
「2001年宇宙の旅」のハルちゃんの、だんだんと自我が芽生えてしまって保身のために嘘をついてクルーを殺害してしまうみたいなところだったり、「インターステラー」の四角いアレみたいな正直回路っていう設定とか、SF映画に出てくるAIロボットの面白さとか魅力がもうちょっと描けていればなあって感じるんです。ガーティーは。
行動に一貫性がない感じがするし、こういうプログラムをされてるからこういう行動をするとか、会社を裏切ってサムの味方をしてしまう行動の理由とかがしっかり描けてないです。
正直、そんなにこだわるタイプじゃない私ですらこの辺の甘さは鑑賞中も目について気になって冷める瞬間もありました。
でもそういうところは置いといて、素直に楽しめる面白いSF映画になってると思います。