読むセラピーとしての「FACT FULNESS」自分はダメだとしても、この世界は希望に満ちている。
ハンス・ロリング著「FACT FULNESS」を読んだ。世界的ベストセラーで日本語訳は2019年に出版されている。今回読んでみて内容が素晴らしく、感銘を受けたので感想をまとめたいと思う。
自分は適応障害で休職中だ。自己肯定感も低く、人生うまくいかないし、人とのコミュニケーションも苦手、未来に期待なんてできないな、なんて思いながら生きている。当然世の中も悪い方に進んでいると思っていて、景気は悪くなるし、孤独な人も増えている、高齢化社会で社会保障も破綻する、TVをつければウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナの戦争のニュース、クマに襲われて亡くなる人、何だか最近物騒な事件が増えたんじゃない?って感じだ。
ところが、とある精神科医が心療内科を受診する患者さんに欠けているのは「原則として世界は良くなっていく」という世界に対する信頼だ。と言っていて、なるほど確かにそうかもしれないなと思ったのだ。自分の人生がうまくいかないのは世界が悪い方に進んでいるから、本当にそうなのだろうか?世界を正しく見るとどうなるのだろう?興味が湧いてきた。そこで良い本がないかと検索し「FACT FULNESS」を手に取った次第だ。
著者のハンス・ロリングはスウェーデン産まれのお医者さんで、医学、統計学、公衆衛生学を学び発展途上国での医療に従事、その後ギャップマインダー財団を設立し「事実に基づく世界の見方」を広める活動をし、世界保健機構、ユニセフ、国際援助機関のアドバイザーなどを務めた人。2017年に他界している。
本書の構成はシンプルで、思い込みや憶測ではなく、「データを元に世界がどうなっているか正しく理解しましょう」というもの。ところが、冒頭に質問形式で世界情勢に関する問題が出されるのだが、世界中の有識者が解いたところ、不正解ばかりだったそうだ。例えば、
現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A20% B40% C60%
正解 C
ちなみにこの問題に正解した人は一割程度。
って感じだ。他には世界人口のうち貧困にある人の割合、電気が使える人の割合、世界の平均寿命、自然災害で亡くなる人の数は過去100年でどう変化したか、世界の一歳未満で何らかの病気に対する予防接種を受けている子供の割合、1996年にトラとジャイアントパンダとクロサイは絶滅危惧種に指定されたが現在の数はどうなっているか、などなど。
試しに自分も解いていくと、ほとんどの場合、予想より良い答えが正解になる。多くの女性は教育が受けれるようになっているし、貧困の割合は下がっている、電気は多くの人が使えるようになっていて、寿命は伸びている。自然災害で亡くなる人は減っているし、予防接種は多くの子供が受けている、トラもジャイアントパンダもクロサイも以前から数は減っていない。
そもそも世界が良くなっているのかどうか、どんな視点で捉えるのか?著者のハンス・ロリングさんは医者として発展途上国の悲惨な衛生環境などを見てきた人だ。多くの人々がインフラの未整備、公衆衛生の知識不足などで命を落としてきた。世界が良くなるとは、そうした環境を改善し救える命が増えること。より平和で衛生的で文化的な暮らしができるようになることだ。そして世界は着実に良くなっている。
それなのに、所謂先進国に暮らす私たちの多くは世界は悲惨なままだと思っている。なぜなのか?その理由も説明されているが、ざっくり言えば「世界は悲惨である」と思っていた方が進化の過程で生き延びれたからだ。
良いニュースよりも悪いニュースの方に人々は食いつく、世界の貧困率が下がって多くの子供が学校に通えるようになったことよりも、ロシアとウクライナの戦争やクマに襲われて亡くなった事件のニュースにかぶりつくように人間はできている。大昔のサバンナではより早く危険を察知しないと生き残れなかったからだ。実際は戦争や紛争で亡くなる人の数はどんどん減っているのに。
不安があると誰か犯人探しをするし、友と敵に分断したがる。大したことがなくても危険だと大騒ぎするし。ステレオタイプに当てはめて◯◯は危険だと一括りにする。それがわかっているからメディアは視聴率を稼ぐためにネガティブなニュースを垂れ流す、その結果将来に悲観的な自分のような人間が出来上がるわけだ。
世界規模で見れば、日本はぶっちぎりの先進国だ、平均寿命も長いし国民一人当たりGDPも高い。例えばインフラ整備もだいぶ進んだとはいえ、多くのアフリカの国々と日本など先進国の間にははまだ大きな差がある。その差もいずれ埋まるのだろうけれど、本書を読めば現状どれだけ日本が恵まれているのか良くわかる。それなのに、日本国内であれこれ比べて自分は劣っているとか収入が少ないとか悩むのは、結局のところ私たちは身近にある狭い範囲の準拠集団の中で自分のポジション取りをする癖がついてしまっているからなのだろう。
地方の高校で一番の秀才でも東大に進学すれば準拠集団が東大生になるわけだから、全国規模で見れば十分勉強ができるとしても、東大生の中で成績が悪ければ自分は劣っていると感じてしまう。自分だって「成功した同年代のイメージ像」を勝手に準拠集団にして、年収が低いとか、孤独だとか、無趣味だとか言ってるわけだ。相対的に比べて勝手に不幸になっているともいえる。もちろん現実にいじめや家庭内暴力を受けていたり、貧困で住む場所もないような人がいることもわかる。そうした人々には社会が手を差し伸べるべきだ。
その上で、自分やあなたが不幸だと感じていることを決して軽視するわけではないが、あえて言うなら「自分やあなたが不幸であったとしても、世界は良い方に進んでいる」ということを信じることが大切だと思う。人々は失敗から学ぶし、世界規模の問題を解決しようと多くの人々が叡智を絞っている。自分にしたって子供の頃はインターネットなんてなかったから、何かを学ぶには図書館に行くくらいしかできなかった、今は検索すれば色んなことが調べれるし、学ぶことができる。未来に希望はあるはずだ。
大事なのはこうした考え方はただの楽観主義ではないってこと「FACT FULNESS」のテーマはデータを基に世界を正しく見ること。もし気になることがあるなら、まずはデータを調べよう。懸念すべき問題があればそれを解決するにはどうすればいいか?考えればいいし(実際沢山あると思う)参考図書はググれば沢山出てくるだろう。ぼんやりと世の中は悪くなるだろう、自分の将来は暗いだろうなんて悲観することはやめることだ。そもそも自分やあなたとは関係なく世界は良い方に進もうとしているのだから。そう考えると肩の荷が少し降りたような気持ちになる。だからこの本はもしあなたが将来に期待できないと悲観しているならぜひ読んでみてほしい。おすすめです。