休職者がNHKスペシャル「山口一郎❝うつ❞と生きる~サカナクション復活への日々」を観たので感想を書くよ
NHK+で「山口一郎❝うつ❞と生きる~サカナクション復活への日々」を観た。山口一郎さん含め、サカナクションのメンバーは自分と同年代の1980~1983年生まれ、メジャーデビューを果たした2007年に自分は24歳で、夢だった映像業界に進みTVドラマや映画の撮影現場の美術スタッフとして飛び回っていた。
流れている曲を聴いていると、ときどき、これは自分の事を歌っているんじゃないか?と感じる時がある。山口さんの書く歌詞もそうで、聴くと心の底にある懐かしい所に何かが染み込んで、感情が揺さぶられる。サカナクションはそんな大切な曲が沢山ある大好きなバンドだ。
とはいえ、常に活動をウォッチしていたわけでもなく、ドキュメント番組を観て、初めて山口さんが❝うつ❞とどう向き合ってきたのか、知ることができた。
今回は、同じようにメンタル不調で休職を経験した自分なりに「山口一郎❝うつ❞と生きる~サカナクション復活への日々」を観た感想を、まとめてみたいと思う。
⒈うつ状態とは、脳内の神経伝達物質が異常をきたした状態
人が幸せを感じるには、脳内の“幸せホルモン”と呼ばれるドーパミン、セロトニン、オキシトシン、β-エンドルフィンの4種類の神経伝達物質が一定量保たれている必要がある。❝うつ❞を正しく理解するためには、ストレスによってこうした“幸せホルモン”のバランスが崩れている“から”活動ができなくなっている。「意志や気持ちの問題ではない」ということを知ることがとても大切だ。
⒉誰しもストレスを抱え続ければ❝うつ❞になる可能性がある
誰しもが日々ストレスを感じながら生きている。それでも❝うつ❞状態にならないのは、定期的に「ストレスのガス抜き」ができているからだ。だが、長期的にストレスを抱え続けると限界を迎え、“幸せホルモン”のバランスが崩れ、疲れ果てた疲憊(ひはい)状態になってしまう。
山口さんは、札幌で16歳の時からプロを目指してバンド活動を開始。曲のよさは評判だったが、人気はいまひとつ出なかった。原因は山口さんのステージの振る舞いで、内向的な性格だった山口さんはMCなどでお客さんを盛り上げたりできなかったそうだ。
8年後にバンドは解散。山口さんは、再起を誓い北海道から上京、サカナクションとして背水の陣で音楽活動を始めるにあたり、全く新しい自分になることを決意する。
北海道時代の山口さんを知る友人は、東京に行くという日から山口さんは変わり「死ぬ気でやる」「誰よりもやる」という「重たいマント」を“まとって”いたそうだ。
山口さんはサカナクションとして成功するために「重たいマント」をずっと着続けた、本来の自分とは別の自分を“演じる”それは相当のストレスだったのではないだろうか。
⒊サカナクションのリーダーとして抱える責任と、メンバーとの価値観のズレ
印象的だったのは山口さんがメンバーに「自分がサカナクションの代表としてふるまい続けなければならない状況が正直苦しい」と告白するシーンだ。
山口さんの奮闘もありサカナクションは成功したが、月日を重ね、メンバーにも家族や子供ができ、音楽だけに打ち込んでいた当初のようには活動ができなくなっていた。一方で山口さんにとって音楽とは“仕事“ではなく“人生”そのもので、常に全身全霊を注ぎ込むべき対象だった。そうした仕事に対する価値観のズレも大きなストレスだったのではないだろうか。
厚生労働省が令和4年に発表した退職理由では、個人的な理由や契約条件などの退職理由を除けば、人間関係が上位となることからも分かるように「人間関係」の悪化は大きなストレス要因になっている。
自分自身振り返ってみても、休職するきっかけは職場で人間関係が悪化したことで、それが一番きつかった。平社員の自分とサカナクションリーダーの山口さんでは立場は違うけれど、職場での些細なコミュニケーションの不和が積み重なると大きなストレスになることはよく分かる。価値観や距離感、腹を割って話せるか、自分の悩みを相談できるかなど、職場で良好な人間関係を築けるかどうかはとても大切なことだ。
⒋それでも、人との繋がりの中で、人は回復していく
山口さんはサカナクションとしての活動ができるかずっと自分に問い続けてきたと思う。これは憶測だけれど、もしかしたら“解散”という選択肢が脳裏をよぎったこともあったのではないだろうか。
❝うつ❞と診断され休職することになって、山口さんは自分の病状をメンバーに説明することは一度もなかったそうだ。リーダーとしての責務を果たせなくなったことに対する罪悪感、メンバーとの価値観のズレに対する苛立ち、その他想像できないような様々な感情があったと思う。そんな2年間という療養期間を経て、山口さんはサカナクションとして活動再開することを決意する。メンバーは詳しい状況は分からなくても、どんなに時間がかかっても、また一緒に演奏できる日が来ると信じていた。
2024年4月20日。2年間の休止期間を経て、ついにサカナクションは全国ツアーを再開する。初日の観客は2万人。チケットは、全公演ほぼソールドアウト。ステージへ戻ってこれた山口さんを見てドラムの江島 啓一さんが涙ぐむ場面もあった。
どれだけ長く付き合っても、家族だったとしても、人の気持ちは分からないし、人は分かり合えないのかもしれない。でも、それでも人と繋がることで、ある瞬間に突然心の中のわだかまりが解けて、生きてきたこと、この世界に、全ての人に感謝をしたくなるような、そんな瞬間が訪れる。
❝うつ❞は一進一退を繰り返しながら、これからも山口さんを蝕むのかもしれない、でも、そうした事も“込み”で山口さんはメンバーと新しいサカナクションを作ってゆく。自分はときどき思うのだけれど、うまく行かないことがあったって、人との関係の中でできた心の傷は、人との関係の中でしか塞ぐことはできないんじゃないだろうか。
⒌まとめ
最後に、すごく共感できたことがあって、それは山口さんが初めて❝うつ❞と診断されたとき、本来の自分ではなくなってしまう気がして薬を飲まなかったと告白するシーンだ。
自分も初めて心療内科で抗うつ薬を処方されたとき、薬を飲まなかった。当時は精神疾患に関しての知識は全くなかったし、今まで“ナチュラル”で過ごしていた自分が❝うつ❞状態になって薬を飲まなくてはならなくなった、という事を信じたくなかったんだと思う。
なんにせよ、精神疾患に対する偏見も多いと思うので、こうして著名人が❝うつ❞に関しての情報発信をしてくれるのはとても有意義な事だ。山口さんは才能溢れるアーティストだと思うので、これからも体調に気を付けながら活動を続け、素敵な音楽を皆に届けてほしい。自分も陰ながら応援したいと思います。
ではまた!